「最初はね、ペンで戦うの」
耳を暫くの間おさえ続け、なんとか復活した二人。
エレニカは単純に五感が鋭いだけなのに対し、万物の呼吸という能力で聴覚を大幅に引き上げている白亜の方が耳がいい。
能力というものを抜きにすればエレニカの方が良い。
白亜の力はどんな物からでも声を聞き取ってしまうというものなのでただ聞こえるだけのエレニカとはまた別種のものだ。
「あー、そろそろ大丈夫かな……」
「耳が割れるかと思った……」
大きくため息をつく二人。
結局勝負はお流れになってしまったが、白亜もエレニカもそこまで勝敗を気にする性格でないのが幸いしたのか再戦は無かった。
正直、一回打ち合ってこれなので下手に二人が戦えばこの屋形船が沈没するかもしれないと懸念していたチカオラート達には吉報である。
「あははは……君、結構力あるね。俺の武器をまともに受けてよろけない人ってそうそう居ないよ」
「そちらの武器も凄いですね。めちゃくちゃ重かった………」
エレニカの雰囲気が影響しているのか和やかムードである。
直前まで真剣で斬りあっていたとは思えない感じだ。
「さて、折角だしお風呂にでも入ってこようかな」
「お風呂があるんですか?」
「あるよー。なんなら案内するけど一緒に行く?」
軽い。この人本当に最強の神なのかと思えるほどの軽さである。白亜の勝手なイメージだが、チカオラート以外の神ってもっと厳格な性格だと思っていた。
実際はこれである。昼休みコンビニいくー? みたいな感じで誘ってくるところを見るとかなり気さくな人だ。
たまに笑いはするが、白亜と同じく表情があまり動かないタイプなのか微妙なポーカーフェイスである。
白亜が常にやる気のない人とすれば、対してこちらはほんのり微笑を崩さない人だ。
凄いのは笑みを一切浮かべていないわけでもないのだが、ヘラヘラしているわけでもないという点だ。
気が弱そうに見えると絡まれるというのをよく知っている白亜は『ああ、こんな感じでいればある程度回避できるかも』となぜか納得した。
……実際は、エレニカも白亜と同じく結構な絡まれ体質である。
どうやら表情ではどうにもならなさそうだ。顔の造形変えない限り、そういうのから完璧に逃れるのは難しいのかもしれない。
そうこうしているうちに風呂場が見えてきた。
「あ、代表。お疲れ様です。少し宜しいですか?」
「え? ああ、わかった。俺後で行くから皆先に入ってて」
偶々出くわした神と何やら話すことがあるらしく、エレニカだけがその場に残った。
チカオラートとジャラル、大国主大神の三人がエレニカから離れて風呂場の入り口付近にまで進んだ頃、ふぅ、と長い息を吐く。
「し、心臓に悪い……」
「同感だよ……」
白亜は平常運転である。
その様子を見たジャラルが苦笑いを浮かべた。
「君は気付いてないかもしれないけど、今出会したのもかなり高位の神だからね」
トップがあの軽い性格なのでなんともいえないが、神の位とは本来もっと尊重されるべきことなのである。
高位と低位では話すことすら許されないとすら考えている神もいるほどだ。
最高位があれなので別にそんなルール存在していないが。作ったところでエレニカはガン無視で普通に接してくることだろう。
「………♪」
「聞いちゃいないね……」
風呂に二日入れないとイライラしだす、かなりの風呂好きの白亜。
こんな豪華な屋形船の風呂が楽しみでしかたないのか、ジャラルの話なんて右から左に聞き流している。
「じゃあ、僕らこっちだから。上がったらさっきの大広間集合でいいかな?」
「わかった」
当然といえば当然だが、女湯と男湯で分かれていた。白亜だけ女性なので女湯に進む。
話に聞いたところによると大きめの部屋なら個人用の風呂があるらしく、そっちを使う人の方が多いのだそうだ。
ラッキーなことに白亜以外の人影はなさそうだ。
そそくさと体を洗ってから髪を結って纏め、広々とした風呂に浸かる。
「大きすぎるだろ……競技用プールでもこんなに広くないと思うんだけど」
『ダイがもとの大きさに戻っても入れそうですね』
あの黄金龍が喜んで風呂に入るとも思えないのだが、確かにそれくらいの広さはある。
この湯槽だけで一軒家は余裕で建つことができる程だ。
「あれ? なんだ、やっぱり君も女の子だったのか」
「えっ」
『えっ』
シアンも一瞬動揺した。
堂々と女風呂に入ってきたのはエレニカだったからだ。
しぐさと言葉遣いから、全くわからなかった。白亜も同類である。
「いやー、偶然って凄いね。確かに俺と君は似ているみたいだ」
にしし、と個性的な笑い声をあげるエレニカ。
「私も、驚きました……」
「ああ、白亜君だっけ? 敬語使わなくて良いよ別に。俺気を使われるの苦手だし」
威厳が全くない最高神という言葉がこれほど似合う相手は他にいないだろう。
上司というより先輩といった方が雰囲気的に合いそうだ。
「えっと……じゃあお言葉に甘えて。……なんでそんな口調なんだ?」
「お、君がそれ聞いちゃう? 俺の場合は部下にこうした方が良いって言われてね。昔はもっと女性っぽい感じではあったんだけど、それはそれで王っぽくないだなんだって注意されて」
とりあえず言葉遣いを直した結果、これになったと。
……微妙に、王っぽさがないのは気のせいだろうか?
「そうだ、ちょっと聞きたかったんだけど君って武道の心得あるよね? 誰かに習った感じ?」
一応、揮卿台 白亜の時に色々な道場で学んだ。
そう伝えると流派などを詳しく聞かれ、覚えている限り全ての流派を伝えた。
「うーん、やっぱりどれも一般的な……というか、一番広まってるやつだね」
「それだとなにか問題が?」
「ないよ。ないけど、長年伝わってるやつって結構見映えとかも気にしちゃってる面があるから……たまに実用的じゃないなって思うこともあるんだよね」
それは、白亜もわかっていた。
この動き無駄じゃね? と思ったことは一度ではない。
弓道やアーチェリーみたいに止まっている的に正確に狙い打ちする競技をやっていると特に思ったのだが、行動に時間がかかりすぎる。
白亜がいろいろと習っていた理由は亜人戦闘機と戦うためだけだったのでそんな動きしてたら先に殺られると常々考えていた。
「もし、なんだけど。君が興味あったら俺の流派試してみない?」
「どんなやつ?」
「最初はね、ペンで戦うの」
「は?」




