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学園迷宮には過剰戦力!

「縛って運ぶか」


 とりあえず縛って全員を担ぐ。筋力が半端ではない。


「転移」


 ダイのところまで担いで転移した。



「白亜。捕まえたのか」

「うん。でもどうすれば良いかな」


 結果。門の前に一瞬で転移して放置して去る。という結果になった。証拠なんかも勿論置いてあるので言い逃れはできない。


「さてと。おーい。ジュード」


 金具で止められている箱を片手でバキバキ言わせながら無理矢理開ける。チコは既に外に出てその辺を飛び回っている。


「……んぅ?師匠?」


 普通に昼寝をしてた雰囲気で起き上がるジュード。少し怒りを覚えたのは白亜だけではない。


『マスター。代わっていただけますか?』

『ん?いいけど』


 白亜の顔に黒い模様が広がる。


「ジュード。どれだけ心配したと思っているんですか!?」

「え!?あ、シアンさん!?」

「全く。どれだけ不用心なんですか!?死んでいてもおかしくなかったんですよ!?」


 シアンの説教はルナ達が帰ってくるまで続いた。





「喉が疲れた」

「ずっとシアンが話していたからな。当然だろう」


 白亜の意識はシアンと交代しているときは殆どないので気付いたら喉が酷使されているわけだ。


「カイザの方はちゃんと捕まったみたいだし、一件落着だな」

「そうだな」


 ジュードは少々疲れたようでさっきから一言も喋らない。シアンの説教責めは結構疲れるらしい。白亜の喉もだが。





「ジュード君!大丈夫だった?」

「はい。なんとか」

「寝てただけだろうが……」


 今回一番苦労したのは白亜だろう。


 白亜には気になることが幾つかあった。


「キュウビがこの世界に存在しているのもそうだし、なんでカイザが誘拐事件なんか……?」


 普段一緒にいる人がいると言うのは誘拐するには適していない。ましてや一緒にいるのは白亜だ。直ぐに気づいて追いかけてくるとは考えられるだろう。


「今は良いか……俺がどうこうできそうな話でも無さそうだしな」




ーーーーーーーーーーーーーーーー




 カイザは一人、ある場所に監禁されていた。門兵に見付かったことでそうせざるをえなかったのだが。


「やはりあれは白亜だったか……」


 仮面の魔法使いと呼ばれる男を探るには一番近い人間をあぶり出す他なかった。あのタイミングから見て仮面の魔法使いは白亜だろう。


「これで良い報告が出来そうだ」


 カイザは気持ち悪い笑みで計画の成功を喜ぶ。今回の誘拐作戦は白亜を誘き出すためのものでしかなく、誘拐自体はどうでも良かったのだ。


「しかし体を成長させる魔法か……中々興味深い。あの方が気にしているだけのことはある」


 カイザは立ち上がり、壁に手をつくとそこから何かが出てきた。蜘蛛だった。だがその蜘蛛は普通の蜘蛛とは違い、空気の流れを覚える習性があり、声をそのまま録音して届けられる。まるでボイスレコーダーだ。


 蜘蛛にカイザが何かを言うと、蜘蛛が壁の穴から出ていった。


「クククク。白亜。お前はこれで終わりだ」


 何やら不吉なことを良いながら、蜘蛛が去っていった壁の穴をカイザはじっと見つめていた。




ーーーーーーーーーーーーーーー




「よっと!」


 白亜が地面に手をつくと、そこから草が大量に生える。そこにダイの雷の塊が激突し、草が盾になって白亜を守る。


 現在白亜はジュードやリンも交えて訓練中だ。白亜VSジュード&リン&ダイ&キキョウ&ルナという完全に白亜に不利な戦闘だが、白亜は互角以上に戦っている。


 白亜の動きがどんどん速くなっていく。今までかなり温存していたようだ。


「わっ!」


 リンが白亜の魔法で割れた地面に足をとられて墜落した。


「リン様!?」

「キキョウ。よそ見は禁物だよ?」


 キキョウが振り返るよりも早く、落とし穴に落とされた。白亜の動きはもう誰にも見えていない。


「俺の攻撃が落とすだけって思う?」

「ぬぁ!」


 ダイの上から大量の水が放出され、少し流れていった。


「やぁ!」


 ルナが一瞬止まった白亜に火魔法を叩き込んだ。が、魔法に当たったはずの白亜が目の前まで接近しており、リンの落とし穴に落とされた。


「こうなったら範囲魔法で!チコ!」

「あいあいさー!」


 最後に残ったジュード&チコペアは魔法で白亜を炙り出すようだ。


「「精霊よ!我々の声を聞き、その姿を礫に変えて敵を打て!精霊の礫(スピリッツ・グラーボ)!」」


 初級魔法だが、白亜の動きから見て上級魔法は打てないと判断したジュードの采配は流石であった。


「ん。捌きにくいの来たなー」


 白亜は一瞬止まると、手を下から上に振りあげる。すると、地面から竹が大量に生えてきて白亜に細かな塊が当たらぬように守る。


「隙あり」


 それに一瞬気をとられたジュードが落とし穴に落ちて訓練終了となった。





「おーい。大丈夫か?」

「なんとか大丈夫だよー」


 現在白亜の手による救出活動が行われていた。自分で落としておいて救出活動とは何なのだろうか。


 リン達の体が心配なので白亜は落とし穴や割った地面に全て大量の草をそこに生やしておいた。落ちても安全だ。白亜らしい配慮である。これが魔物になるとふわふわの草がザクザク刺さる剣山になるのだからそれはもうえげつない。


「それにしても無詠唱かー。白亜君がどんどん遠ざかっていく気がするよ」

「練習すれば誰だって出来るよ。多分」


 白亜が何故全員参加の模擬戦をしたのかというと、無詠唱が使えるようになったからだ。世界初である。その凄さは本人が一番気付いてないが。


「まさか竹が生えるとは思ってませんでした……」

「2撃目のこと考えたら細い竹が一番かなって」


 先のことを考えながら魔法を行使している。しかも無詠唱。魔族が欲しがるのも無理はない。


 今日は10月31日。今日から白亜は七歳になる。つまり、


「やっと学園迷宮に行ける……」


 と言うことだ。




「注意は覚えてるねー?……まぁ、ハクア君のパーティなら問題ないと思うよ」


 ライム先生にまでそんなことを言われるようになった白亜。というか、このパーティ。戦力過剰過ぎるのだ。


白亜(化物)(パーティリーダー)

ジュード(武の王)

リン(期待のニンフ)

キキョウ(ウンディーネ)

ダイ(黄龍)

ルナ(イフリート)

チコ(中級精霊)


 だ。中級精霊が一人居るだけでも戦力としては十分だと言われる。その上、上級精霊よりも上の最上級精霊が二人だ。大人でも敵わない。


「まぁ、某等なら楽勝だろうな」

「そうですねー。ハクア君なんて特に戦力過剰ってよく言われてますしー」


 白亜は少し嬉しそうだ。いままでお預け状態だったのが堪えたらしい。


「ここだっけ?」

「ここですねー」


 学園迷宮は幾つかある。レベル1が5つ、レベル2は4つ、レベル3は3つ。レベル5からは1つで最高レベルは10。ただ、レベル10はとんでもなく難しいらしく卒業までにレベル9までいけばエリートらしい。


「まずは1だよなー」

「別にもっと上でも問題ないと思いますけど」

「念には念を、だ」


 白亜は自分が強いとは思っていない。だからこそ慎重だ。慎重すぎるのが良いところでもあるし、悪いところでもあるが。


「入るぞー」

「「「おー」」」


 些か気の抜けた掛け声で迷宮に入る白亜達。迷宮というより地下なのだが、空間魔法で拡張されており、かなりの広さがある。


探索ソナー


 迷宮用に開発した魔法、地形を調べる探索ソナーを使い、迷路のような迷宮をショートカットして進んでいく。


「レベル1って三階層だっけ」

「うん。確か三階層でここの迷宮のボスはロックゴーレムだよ」


 リンは以前から調べていたらしく、妙に迷宮に詳しくなった。


「あ。なんか来る」


 白亜が気配にいち早く気付き、周囲に伝える。


「師匠。何が来るかわかりますか?」

「足音で判断するしかないけど……ファイヤースライム」

「じゃあ私がやって良いかな?」

「いいよ。そこの角から来る」


 リンが自分の背丈ほどもある魔石が嵌まった杖を構える。実に魔法使いっぽい。


「来た。ファイヤースライム」


 白亜の読みが当り、ファイヤースライムが出てきた。


「水よ。私に力を。敵を貫く矢となれ!水の矢(ウォーター・アロー)!」


 リンの初級魔法の詠唱により数本の水で出来た矢がリンの杖を囲うようにして生成される。


「いけぇ!」


 リンがスライムに向かって杖を振ると、その動きにあわせて水の矢が射出され、スライムに襲いかかる。全ての矢がほぼ同時に刺さり、スライムが光の粒子になって消えた。


「おおー」

「初級でも一撃ならこの先は大丈夫だね」


 サクサク進んでいく白亜達。たまに出てくる魔物は大抵一撃で倒れるのでもうやることがない人も出てくるわけで。


「白亜。某少し腹が減ったぞ」

「参加しろよ」


 迷うことなく進めるので楽である。探索ソナーはかなり使える魔法のようだ。


「あ。ボスだ」

「おー。ここがですかー」


 三階層の一番奥にボス部屋があり、一際豪華な扉が目印だ。


「回復は要る?」

「「「大丈夫」」」


 全員全く攻撃を受けていないので回復も必要ない。実に頼もしいことである。


「それじゃあ行くよー」

「「「おー」」」


 その気の抜けた掛け声は必要なのか疑問だ。

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