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「……私が買ってくるのですか?」

 白亜は困っていた。というか、困り果てていた。


「やっぱり、俺がきめるのか……?」

『他に何方がいるんですか?』


 シアンのため息混じりの声にこちらもため息で返す。


 店に入って一時間以上経つのだが、どうにも決められない。


「これだ、と思うものがないんだよ」

『思考共有しているのでお気持ちはわかります。ですがそろそろ怪しまれますよ?』


 ショーケースの前をうろうろするのは別に変ではないだろうが、あまりにも長い時間立ち止まっているのは流石に不審がられるかもしれない。


 シアンの言葉に心のなかでは同意しながらも決めあぐねていた。


 珍しく白亜が悩みに悩んでいる理由は、一週間前に遡る。







「リシャット! 来週の月曜日、来れる?」

「来週、ですか? ……恐らく大丈夫だと思いますが。なにかありましたか?」


 外では雪が降り積もっている。今でもパラパラと雪がちらついていて、長年の感覚が抜けないのかなんとなく外に出たくない。


 山で育った白亜にとって、雪とはある意味敵なのである。


 積もりすぎると家から出ることすらできない日だってあるのだ。ドアが開かないのである。


 そのせいか、あまり雪にはいい印象がない。


 寒さというものをほとんど感じなくなった(正確に言えば寒い暑いは理解できるが、それで足が霜焼けや日焼けになるだとかの被害は一切ない)のだが、それでもなんとなく嫌なのだ。


 こんな時期に、なにか祝い事だったりがあったのだろうか。白亜は軽く首をかしげる。


 クリスマスは終わった。正月も過ぎた。節分も美織の突然の提案でこの前やらされた(何故か鬼役だった)筈だ。


 次の行事など、ひな祭りくらいしか思い付かない。


「なにか、って……バレンタインデーじゃない」

「……ぁあ……。ありましたね、そんなの……」

「そんなのって。覚えてないの?」

「あまり記憶にないですね。白亜だった頃はそもそも友人が居ませんでしたし、あっちではその風習ないので……」


 なんだか急に哀しい子に見えてきた。


 実際、白亜自身愉快な人生送ってきたとは言えないのでその言い方も間違ってはいないのだが。


「じゃあ一緒にやるわよ。あの人……じゅーどさん、だっけ? にあげればいいじゃない」

「? あの行事は男性が女性に物を送る日では?」

「え? 女の子が気になる男の子に渡すんでしょ?」

「「?」」


 どっちが正しいのかよくわかんなくなってきた。


 ということでネットで調べる。


「えっと……元々は男性が女性に送る日ですが、日本では逆みたいですね」

「へぇ。じゃあ女の子が男の子にあげる日でいいんだよね」

「そうですね」


 そこまで話してふと気がつく。


「……お嬢様、好きな方ができたのですか?」

「そ、そんなわけないじゃない」

「すみません。心音で嘘だとわかってしまいました」

「リシャットの変態‼」


 変態と言われても、聞こえてしまうのだから仕方ない。別に好きで心音常に聞いているわけでもないし。


 美織もそれはわかっているので本気でそう言っているわけではない。


「義理チョコよ義理チョコ! ……というわけで、リシャット。美味しいやつ買ってきてね」

「……私が買ってくるのですか?」

「だって私忙しいもん」


 確かに最近美織は忙しそうにしている。四六時中白亜が常駐しているわけではなくなったので塾にも通い始めた。


 家庭教師のお役目は実質無しに……なっていない。


 塾でやることと白亜がやることは全く違う。白亜は教員免許だったりの資格を持っていない。勉強を教えるのは美織が初めてだ。


 そのために白亜の勉強のやり方は少し変わっている。


 意外とフィールドワークが多いのだ。


 経済の仕組みとかを、実際例を見せながら教える。様々な店を巡ってインフラの説明をしたりするのだ。


 国語の教科書に載っている物語の現地につれていかれたこともある。結構アクティブだった。


 自由度が大きいので、そのぶん好き勝手やっている、という言い方が正しいのかもしれない。


「じゃあ、お願いね」

「えっ」


 丸投げされた。







 店に来た白亜は呆然とした。種類が多すぎる。


 バレンタインデーフェアだなんだと様々な店がチョコレートにちなんだ商品を並べている。


 ここまで多いと逆に困る。


 そもそも何人に配るのか、どんな種類のものがいいのか聞き忘れていた時点でアウトである。


 トリュフチョコ、生チョコ、ドライフルーツのチョコレートバー。まだまだ、数えきれないほどに。


「人間の想像力ってすごいな……」

『金に突き動かされた想像力ほどとてつもないですからね』


 よくこんなにも思い付くよな、と感心する。


 最悪自分で作るという手もないわけでもないが、やはりこういうのはちゃんとした店のちゃんとした商品を出さなければならないのかもしれない。と白亜は考える。


 白亜は自分の腕がそこらの職人にすら勝っていることを理解していない。所詮俺は素人だしやめておいた方がいいかもしれない、という謎のストッパーが急に出現するのだ。


 いつも好き放題やらかすくせにこういう時だけ妙に慎重になる。


「どうしようかな……」


 悩みはじめて10分、30分と経過していった。


 というか、そもそも美織は誰にあげるつもりなのだろうか。


「……ま、いいや……。旦那様の分と……ついでにジュード達の分も買ってくか……」


 完全にジュードがおまけ扱いである。


『全く……仕方ないですね』


 シアンが何度目かわからないため息を吐いた。心底呆れている。


 さっさと落ち着くところに落ち着いてほしいと考えているのは、白亜には内緒である。

 というわけで唐突にバレンタインします。時期とか気にしないでください。

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