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ジュードの救出作戦!

「待て!」


 ロープを上っていく子供を追いかける白亜。壁を普通に上っている。以前の崖ボルダリングよりも圧倒的に難易度が高い壁ボルダリングだ。勿論命綱何てものはない。掴む場所も足場もない。煉瓦の小さな窪みを掴んで上っていく。




「大丈夫か!?」

「なんとか逃げてきたけど……」


 ロープを上りきった子供と誰かが話をしている。声からして大人の男のようだ。白亜は盗み聞きすることにした。数十メートルの城の壁に張り付く白亜。これを超人と言わないで何が超人だろうか。


「これが報酬だってさ」

「これで借りてたお金返せるね!」

「ところであの王子、誰かに引き取られたんだっけ?」

「可笑しいよね。寮の部屋に忍び込んで飲み物にすいみんやく入れたらすぐに寝ちゃうんだもん。簡単だったね」


 何故そこまでガンガン喋ってしまうのか謎だ。


「その話、ちゃんと聞かせてくれよ」


 もう我慢の限界だったらしい白亜が壁から這い上がる。


「何処から来た!?上に来るためのロープは切ったのに!」

「煉瓦の壁くらい上れるさ。で?ジュードを何処にやった?」


 白亜の右目が光る。その途端、男の子が倒れた。男も膝をつく。顔が急激に恐怖の色に染まる。


「時間とらせるなよ?さぁ。話せ。俺はいつだってお前なんか簡単に消せるぞ?」


 村雨をすらりと抜く。流れるようなその動作は演舞にも見える。この男にそんなもの楽しんでいる余裕など皆無だが。


「あ……。だ……」

「ちゃんと話せよ?俺だってむやみな殺傷は避けたいんだ。俺を、怒らせるなよ?」

「ダーテスの、領の方へ……」

「嘘じゃないな?」

「嘘じゃない……!助けて……!」


『本当のようです。ダーテスに向かいましょう』


 シアンは相手のあらゆる事を見抜くことに長けている。こう言うときは非常に役に立つ。


「それと。もう一人、カイザって奴が行方不明なんだけど知らないか?」

「カイザ……。共犯者だ」


『どういうことだ!』

『カイザが裏切ったのでしょう。やりかねません』

『カイザの座標は保存済みか!?』

『勿論です。マスター』


「そうか。じゃあおやすみ」


 白亜の威圧に耐えきれなかったのか、すぐに気絶した。


「キキョウ、ルナ」

「判っておる」

「了解しました」


 二人が消えるように去っていった。白亜も二人を担いでジュードの部屋に戻る。右手に二人を抱えて左手一本で降りる。


「よっと。こいつらが仕組んだのかは不明だが何とか先にキキョウとルナを行かせた」

「うむ。妥当だな」

「ハクア君。二人を担いで来たの……?」


 一人だけ驚く方向が違うが取り敢えずスルーだ。





「ジュードの部屋で何かやっていましたので捕まえました」

「第2王子様は?」

「誘拐ですって。私は助けに行ってきます。事後処理お願いしますね」

「は!?なんでそんなに落ちついてるんだ!?それに子供は行かせられなーーーー」

「行き先はダーテスです!そんじゃ!」


 すべて放り出してダイと白亜とリンは外に出た。


「リンはここに残ってくれ」

「行くよ。私だって戦えるよ」

「いや、ここに残って欲しいんだ。ジュードの救出に行ったなんてバレたらそれこそ大騒ぎだし、俺のいない間に何かあったら対処できる人が必要だろう?」

「……君には敵わないしね。判った。ジュード君を絶対に助けてね」

「勿論だ。後は頼んだよ」


 ダイが馬に変身したので跨がり、転移を使って人がいない上にキキョウ達が向かったところに一番近い所に行く。


「光源が移動し続けている。馬車か?それにしては早いような」


 古代魔法の1つ、探索。周辺状態をまるでレーダーを飛ばすように見ることができる。魔眼を使うと本来の目線ではなくなってしまうので白亜は夏の間、重宝していた。


「スピードは?」

「あげてくれ」

「了解した」


 ダイが加速する。


『まだ少し遠いです。相手もかなりのスピードで移動しているようです』


 しかし、ダイの方が圧倒的に早い。瞬く間に距離を積めていく。


「もうそろそろ見える筈………!!」

「どうした?」

「なんで……!」


 白亜の目線の先にはかなりの速さで疾走する狐が居た。その背には数人の人影が見え、カイザの姿もある。近くにジュードが入りそうなくらいの大きさの箱があったのでジュードはそこだろう。


 白亜はそっちも気になったが驚いているのはそれらを乗せて尚、かなりのスピードで走る狐。


「キュウビか……?」


 尻尾が九本あり、何より大きい。ランドドラゴンと同じくらいか。


「白亜。知っているのか」

「日本の妖怪だ……まさかこんなところに居るとは………いや、そんなのどうでもいい」


 白亜の左目が光を帯びる。


「ジュードはあの中だ。間違いない」

「そうか。どう近づく?」

「交戦になるかもな……身体強化で何とか誤魔化してジュードを助ける」

「荒いな……」


 もうこの際計算なんかしている暇はない。


通常即興曲ノーマリスト


 通常即興曲ノーマリストで服をだし、以前と同じオペラマスクをつける。


「身体強化、最」


 急激に成長する白亜。それに併せて髪色も黒くなっていく。白銀でいったら確実にバレる。




「いくぞ。ダイ」

「了解した。ジュードを先に寄越すのだぞ」

「判ってるって。シアン」

『いつでも大丈夫です。成功確率は91%です。キキョウとルナがこの先でしっかり布石を巻いてくれているのなら98%です』


 白亜は村雨をダイについている鞍に隠し、適当な大きさの鍵縄を作り出す。


「1発でいけたらいいけど……」


 その声は不安そうだが、失敗への恐れは見えない。


 鍵縄をダイの体に当たらないように振り回し始める白亜。目標はあの箱だ。


「っ!」


 鍵縄がまっすぐ箱に飛んでいき、引っ掛かった。


「なんだ!?」

「誰だ!」


 そのまま思いっきり引っ張ると箱が宙に浮いて、白亜の手元に引寄せられた。


「な!?」


 向こうが驚いているが無視をして魔眼で覗く。ジュードが寝ているが、チコの姿が見当たらない。魔眼でキュウビの方を視ると鳥籠のような入れ物にチコが入っていた。


「っち!このまま先に行ってくれ。後で追う」

「ヒヒーン!」


 馬っぽくダイが返事したので鞍の中にあるロープで箱をダイに縛り付け、キュウビに跳び移った。


「お前……確か、仮面の魔法使い!」

「そんなのはどうでも良いであろう?精霊を離すが良い」


 口調と声色を変える白亜。


「何故それを」

「聞こえるぞ?そのなかの精霊の声が」


 うっすら聞こえる。チコがジュードを呼ぶ声が。


「やれ!キュウビ!」


 キュウビの尻尾に1つずつ火の玉が浮かぶ。


「狐火か!?」

「キュウビを知っているのか……?」


 ついいつものように反応してしまう白亜。


「やれ!」


 狐火がとんでくるが、白亜は絶対に受けない。しかし、当たらないと消えないのか追い掛けてくる。


「ホーミング……これでどうだ!」


 キュウビを踵落としする。キュウビが地面に叩きつけられて、全員の体が下に落ちる。そのときにどさくさに紛れてチコを奪い返した。


「いつの間に!?」


 チコを転移させた。白亜はここに残る。何故かというと、どうしても放っておけなかったのだ。ここで捕まえればこの人たちのやっていることが明るみにでる。


「何故自分も逃げない……?まさか魔力が切れたのか……?」

「貴様らを捕まえられぬかと思っただけのこと。なぜ王子を拐ったのか。それを聞きたかっただけだ」

「何者だ!」

「ふむ。我がか?そうだな。傭兵だな」


 一番可能性の高そうな傭兵にしておいた。冒険者なら足がつく可能性がある。村人とか言っても納得しない。ならば雇われた人間としてここにいよう。そう思ったらしい。


「傭兵!?」

「以前のランバート学園の時も、我は雇われていただけ。自分の意思はない」


 確かにそう言えばこの場はやり過ごせるだろう。


「我は貴様らを捕まえる。依頼主もそれを望むだろう」

「お前ら!こいつを倒せ!ただ、殺さずに生け捕りにした場合、100万エッタ支払ってやる!王子よりも大物だ!こいつは使えるぞ!」


「100万エッタ?我を捕まえるだけでそれだけ支払うのか。いや、買い被りすぎだと思うがね」


 100万エッタ。日本円にして1億円。白亜はその金額に驚きながらも創造者クリエイターで剣を作る。以前の聖剣だ。


「さて、我を捕まえられるか。見物だな」


 大きく1振り。6人中3人が倒れた。


「な!?」

「初見殺しだな。これは。まだまだ難しいか……」


 最近白亜の編み出した魔法だ。鎌鼬を起こすのだが、鎌鼬の魔法よりも見えにくく、音もしない。要は、気付いたら斬られている訳だ。最強過ぎる初見殺しだ。


「何がいったい……?」


 カイザが辺りを見回すともう二人無力化された。


「………?」


 白亜は夏前よりも数倍強くなった。かなりの成長速度。カイザには到底及ばない相手だった。


「うっ!」


 後に残されたのは血塗れで倒れる3人の男と、首もとに青アザを作った男3人。うち一人はカイザ。それと、オペラマスクの白亜と倒れているキュウビ。


「これ……どうしようかな……」


 捕まえたとして、白亜の格好でつき出すわけにはいかない。この格好でもアウトだ。その前に体がおかしくなる。要は、


「この人たちを堂々とつき出せない……」


 と言うことだ。

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