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「今日は厄日だ……」

「ラメルってやっぱり洞窟内に?」

「ああ。魔力を辿ってるからこの先で間違いない……っ」

「目、痛むなら少しでも回復させた方がいいんじゃないですか?」

「いや、いつ気が緩むかわからん。このまま行く」


 両目を自ら潰し、その痛みで精神を引き戻している白亜。回復魔法のプロ達が家でスタンバイしていなければ中々できない芸当である。


 白亜は回復魔法はあまり得意ではない。勿論相当できる部類には入るが、属性が範囲攻撃に長けているので回復魔法も範囲扱いになるものが多く、かなり無駄が出てしまうのだ。


 それなら回復のプロに任せた方がいい。


 ちなみに配下の中では朱雀(カーロ)が回復魔法を得意としている。


 今の白亜は止血をしているだけで、傷口自体はかなり深い。


 勢いでざっくりやってしまったらしいが、限度があると思う。


「下手したら致命傷になりかねないくらいですよね、その傷口」

「俺は死なないから安心しろ。それより死ぬかもしれないやつを助けに行くぞ」


 白亜は体質上死なないのだが、その分精神的に脆く衰弱しやすい。見た目以上に疲れているし、肉体的な死が訪れないからか一度寝込むと中々起きることができない。


 よく物語で封印された悪神が何百年も眠り続けて力を溜め込んで、などというストーリーのものがあるが、あながち間違いではないのだ。


 力を使いすぎると死んだように眠り続ける。死ぬことはないのでいつかは起きるのだが、起きるのを待つ方はとてつもなく不安になるのだ。


 正直無理はしてほしくないが、ラメルを助けたいと思うのもまた事実。今は白亜を頼るしかない。


「こっちだ」


 迷いなく進んでいく白亜の後をついていく。徐々に水が濁ってきた。


「白亜。前が少しずつ砂で見えなくなってきたぞ」

「……砂で? ああ、確かに指先に砂っぽいものが付く」


 前が全く見えていない白亜は魔力や水の動きで周囲を理解している。だからこうして見えるもののことはジュードとダイが逐一伝えているのだ。


「……これ、本当に砂か?」

「砂だと思いますけど……違うんですか?」

「触った感覚が、変だ」


 白亜の言う通り砂を触って違和感がないか確かめてみるが、わからない。そもそも白亜と同じ五感の鋭さなんてない。


「特になにか気になるところはないですけど」

「万物の呼吸は使えんのか?」

「使えないこともなさそうなんだが、ミミックの声が直接響くから乗っ取られそうになる」

「やめておいた方がいいですね」


 これ以上白亜とは殺り合いたくない。二度と。


 白亜達の家に強盗に入った者が白亜に見つかって成敗されるところを数度目撃しているが、今なら心から同情できる。


 あの泣き叫びようは冗談でもなんでもなかったのだなと。


「白亜。正解だ」

「なにが?」

「砂ではない。もっと細かい上に纏わり付いてくる」


 ジュードもよく目を凝らしてみるが、聖獣であるダイの視力には流石に敵わない。砂とは区別がつかない。


 だがそれ以上に凄いのはやはり白亜だろう。質感で当てることができるのは白亜くらいだ。


「どんなものかはわからないな……ん? ………ぁ、まずい」

「また乗っ取られそうとか⁉」

「いや、そっちじゃない。この砂っぽいなにかが魔法を喰ってる。そんなの、あり得ないとは思うけど」


 魔法を喰う、という生物などいない。白亜ですら崩壊させるので手一杯なので多分いないだろう。


 この世に存在する生き物の基準が『白亜ができること』でなければならないみたいな言い方だが、実際白亜が不可能だと言えば不可能だし、出来ると言えば理論上可能なのだ。


 理論上でしかないが。


「魔法を喰う? もしそうだとしても何が不味いんです?」

「俺達が今呼吸できているのは魔法で膜を張っているからだ。それを喰われたら時間制限前に効果が切れる」


 それはつまり。


「まさか、ここ……海底洞窟内で溺死?」

「俺とキキョウ以外はそうなるな」

「「なっ……」」


 言葉がでない。ここが水面に近い場所なら泳いで息を吸いに行けるが、海底である。確実に間に合わないし確実に水圧にやられる。


「参考までに聞いておきたいんですけど……あとどれくらい持ちそうです?」

「二時間で効果切れってところだ。だが、最後の一時間は多分徐々に薄れてきて苦しさで探すどころじゃなくなるかもしれない」

「嘘でしょ………」


 一時間でラメルを救出した上で陸へ戻らなければならない。


 水上に出るまでかなり時間がかかるだろうから探せる時間は三十分もないだろうか。


 転移で飛べばいいじゃないかと思うかもしれないが、最悪なことに転移魔法を唯一使える白亜が両目を潰している。実は毎回転移魔法を使うときは魔眼で場所を確認してから飛んでいる。


 転移先は安全か。座標は間違っていないか。天候はどうか。魔力の流れはどうなっているのか。それら全てを考慮した上で魔法を行使している。地味に高度な技術が必要だ。


 だから今飛ぼうと思ったところで座標の確認もできないので転移魔法は使えないのだ。少しでも違えれば地面に埋まってしまったりマグマに放り込まれたり体がうまく飛ばせず千切れたりする。


 転移は万能ではない。寧ろ事故だらけだったから封印されたのである。最近誰にでも扱える転移魔法具を開発中だが、安定性に欠けるので実用段階には程遠い。


「水中でなければ、いくらでもやりようはあるんだがな……」

「嘆いても仕方ない。兎に角進むぞ。ラメルに掛かっている魔法も磨り減っている可能性が高いしな」


 ここで出てきたタイムリミット。


 ジュードはつくづく思う。


「今日は厄日だ……」

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