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「だいじょぶ……」

「キキョウ! いい加減目を覚ませ!」


 ダイの言葉にもピクリとも反応しないキキョウ。背後からはゆっくりと白亜が接近してきている。


 挟み撃ちにでもあえば一瞬で決着がついてしまう。


「一瞬でも正気に戻せられたら……」

「だが、それにはかなりの衝撃をキキョウに与えなければ」


 幸いにも、ジュードは今キキョウに触れる事ができるほど近くにいる。この距離から攻撃できれば。


「ダイさん‼ 場所かわってください!」

「はぁ⁉」

「行きますよ!」


 プツン、とベルトにつけていた紐を引きちぎる。そしてそれを空中で軽く振った。


 チリン、と涼やかな音をたてた直後にジュードとダイの位置が入れ替わる。


 鈴を持っているもの同士で場所を入れ換える簡易転移魔法道具である。勿論製作者は白亜である。ダイもこれに手を貸したのでこの効果はよく知っていた。


「……成る程」


 目の前に現れたダイに、キキョウは早速照準を合わせようとする。だが、それよりもダイが手を翳す方が早かった。


「しっかりチコを護れ、ジュード」


 閃光が迸り、目の奥まで焼かれそうな明るさが辺りを覆う。


 ダイの魔法は雷、電気に特化している。その手の魔法は水そのものであるキキョウによく効くのだ。


 それでも使わなかったのは周囲への感電の恐れがあるからなのだが、そうも言ってられない状況なので咄嗟に使用した。


 ジュードが場所を入れ換えたのもこれが目的である。


「ジュード、無事か」

「なん、とか……」

「だいじょぶ……」


 あちこち焦げたジュードとほぼ無傷のチコ。ジュードは入れ換わった直後にチコを全力で守ったのだ。


 これでキキョウは元に、


「「なっ……」」


 戻らなかった。


 未だ真っ直ぐと手をこちらに向け、臨戦態勢である。


 水の弾が鋭利になり、殺傷力は更に高まっている。ジュードは感電のダメージでうまく動けない。チコも魔力切れで動きが鈍く、ダイに至っては白亜の時間稼ぎで頭部から出血している。


 こんな状態で避けられるはずがない。


 ダメージを一定にする魔法はもう切れた。これ以上の使用は不可能である。


 ジュードは青褪めつつ自分を盾にしてチコをまもる体勢をとった。


 だが、数秒たっても痛みが来ない。恐る恐る目を開けてみると両目を瞑ったままの白亜がキキョウの額に手をやっていた。


 パチン、と軽く指をならすとキキョウが水に溶けていくみたいに消えていってしまった。


「し、師匠……?」

「……ジュード。すまない。油断した俺が悪かった」


 謝罪しつつジュードに顔を向ける。両目に大きく傷が入っている。見たところ出血はそれほどないが、目は完全に機能していない。


「目が……」

「その話は後で。先に一旦安全な場所へ移動しよう」


 どうやらやはり傷も深かったみたいで気絶してしまったダイを担いで泳ぎだした。


 その後ろをついていくと、洞窟から少し離れた場所にある横穴に辿り着いた。


「ん、むぅ……」

「ダイ、起きたか。……悪かった。完全に俺のミスだ」

「一体なにがあったんですか」


 白亜は目が見えていないのにも関わらずダイの治療を始める。そして色々と準備しつつ話し出した。


「実のところよくわからない。急に辺りが真っ暗になって、お前達の声がかなり遠くで聞こえた。……不覚だ」


 ダイの魔法で目が覚めたのだと付け加える。


 だが、そうなるとこの海には白亜すら操れる厄介なものがいるということだ。


「だが、完全にやられたって訳でもない。なんとなく理解した。これはミミックの仕業だ」

「ミミック?」

「えっと、あの擬態するやつですか?」

「それだ。目の前が真っ暗になる寸前に似たような魔力を感じた」


 ミミックとは、擬態して待ち伏せし冒険者などを襲う魔物だ。その擬態はかなりのものでなかなか気づけないから結構危険な魔物である。


 だが、ミミック自体は低位の魔物だ。白亜が気づかないはずがないし、操られるなんて。


「あいつらはまだよく生体がわかっていないんだ。周辺の生き物を無条件に従わせることのできるミミックだっているのかもしれない」


 そういう魔物はいないわけではない。


 共生関係にある生き物同士で共に暮らすことだってある。


 例えば巣を守ってもらう代わりに食料を与える知能の高い魔物だっているのだ。


 そんな感じの特性をもったミミックだっている可能性はないわけではない。限りなく低い確率だが。


「キキョウはどうなった?」

「ああ、ここにいるぞ」


 白亜が腰のポーチを開くと、下級精霊に化けたキキョウがすやすやと眠っていた。


「どうやら酷く体力を消耗したらしくてな寝かせておいてくれ」

「うん。それで、ハクアは?」

「ダイの攻撃で、一瞬目が覚めたんだけど、その後また乗っ取られそうになったから両目を刺して無理矢理起きている」


 ……それ、目を覚ましたというより目を潰した、ではなかろうか。


 だが、躊躇いなく自分の両目を犠牲にする行動力は流石と言えるだろう。今でもまだかなり痛いらしい。


 だが、逆に言えば痛みさえ和らいでしまえば再び乗っ取られる可能性もある。


 一刻も早く海から出たいところだが、洞窟に入った本当の目的を未だ果たせていない。


「早くラメルと合流しなくてはな」

「はい」


 ダイの言葉にジュードも頷く。


 だが、チコとキキョウが戦闘不能。白亜が両目損傷。ジュードとダイも軽傷。


 ……大丈夫なのだろうか?

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