表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
374/547

「どちらにせよ強行突破というわけだな」

 とりあえず、チコのキキョウ捜索が終わるまでなんとか耐えなければならない。


 相変わらず白亜は動かないが、どのタイミングで襲いかかってくるのかはわからないからだ。


「チコ」

「もうちょっと待って!」


 一秒が無駄に長く感じる。これほどまで時間がたつのが遅く感じるのはいつぶりだろう。


 白亜の目は、真っ直ぐこちらに向けられてはいるが微妙に焦点があっておらずまるで霧のなかに立っているみたいになんどか目を動かして辺りを探っている。


「今師匠って前が見えていないんですよね?」

「ああ。中身が別のものになっていたとしても、体は白亜だ。何も見えていないだろうが、白亜にとっては視界不良などハンデですらないぞ」

「わかってます」


 それでも、少し位はこっちが楽をできる。五感をひとつ奪ったというだけでは白亜にとっては特に大きな問題ではない。


 目を瞑ったままで十分戦えるのだから。それでもやはり目を開けている時の方が強いのは確かなので少し位はラッキーだと思える。


 今はほんの少しでもこちらが有利に立てる状況を作らなければならない。


 どんな状況でも基本的にはこちらが圧倒的に不利なのだから。


「いた!」

「どこ⁉」

「洞窟の、入り口のした辺り!」


 つまり。


「師匠の後ろってことですか」

「どちらにせよ強行突破というわけだな」


 盾を構えたダイが呼吸を整えつつ目配せしてきた。


 盾の裏から白亜に見えない位置で送られてきた手信号は『止めておくから先に行け』というものだった。


 それを見た瞬間にジュードはぶんぶんと首を横に振る。


 止めておく、ということは少なくとも白亜の注意を自分に集めるということである。


 本気になりうる白亜を挑発したらどうなるかは火を見るより明らかだ。


「いい。行け」


 ダイが白亜に魔法を放つ。いつも使っている電気系統の魔法は感電の恐れがあるので使えない。


 よって使用したのは周囲への被害の少ない相手にかけるタイプのもの、つまりデバフである。


 気休め程度でしかないが、やらないよりかマシだ。


 これで水中の中の白亜の行動はさらに疎外された筈。


 その筈、なのだが。


「チッ、無理か」


 白亜は容易く魔法を反転して効果が出る前に魔法を解除する。毎度思うが、それ中々反則技だ。


 魔法というものは基本的に火力としては最高のものである。


 種類にもよるが、核爆弾並みの威力があるものだってあったりするのだから。それも、個人の魔力のみという破格の代償で。


 一個作るのにコストも危険も伴う核爆弾と違い、自由度は圧倒的に高い。


 それを一瞬で無効化できるのだ。ズルいとしか言えない。


 改めて考えると酷い戦力差だ。


 魔法は無効化されるが、白亜は使い放題。接近戦、遠距離戦共に最強。ましてや相手はいつもの訓練相手である。癖や体力など互いに熟知しているから、更に不利になる。


 白亜はどちらかと言えばスロースターターだ。


 短期戦よりも長期戦の方が強い。


 ただ単純に体力があるというだけではない。魔法の量や質も豊富なので相手は少しずつ手数で追い込まれていくのだ。


 そうなる前に大抵はやられるのであまり参考にはならないのだが。


「来た」


 そうこうしている内に魔法を放たれたことが敵対行為だと認識したのか、白亜がゆっくりと村雨を抜く。


 水の中なので水滴は見えないが、切れ味が半端ではなさそうなのは確かだ。鈍く光を反射している。


「行け、ジュード!」


 ゆらりと動き始めた白亜の注意をを集めつつジュードにキキョウを何とかするよう求める。


 一先ずは、役割分担だ。すぐにでも変わって欲しい役割だが。


 なんどか視線を白亜とダイに向けたあと、即座に水を蹴って加速をした。


 その音に反応して、白亜がジュードの方に顔を向ける。だが、ダイはわざと自分から突っ込むことで白亜を挑発した。


 先程から見ていて、白亜は敵対行動にのみ反応するみたいだからそれほど細かい命令はされていないのだろう。


 なら、突っ込めばジュードではなくダイに襲いかかるだろう。


 案の定、ジュードを無視してダイに絶対零度の視線を向けた。


「早くしてくれよ、ジュード……!」








 ジュードはというと白亜の殺気から逃れてホッとしたのも束の間、水流に流されかけて中々前に進めずにいた。


「キキョウさんの、やつですよね、これ」

「ジュード頑張って」


 岩にしがみつきつつなんとか前に泳いでいく。


 洞窟の入り口をやっとのことで発見し、外を見るとキキョウが岩の上に座っていた。


 だが、腕がだらりと下がっているのを見ると意識がないのかもしれない。


「キキョウさん! 一体、なにが………」

「ジュード‼ 右!」


 チコの声に咄嗟に反応してもっと深いところへと水を蹴って進む。自分が飛び退いたところに目をやると岩が大きく抉れていた。


 キキョウの魔法だとわかった瞬間、背筋に氷が落とされたときみたいな感覚を覚えた。


 最大の壁は白亜だと思っていたのだが、キキョウも十分すぎるほど危険だった。


 無詠唱すらできるウンディーネに水のなかで勝てるのはそれこそ白亜くらいしかいない。


 いつどんな魔法が放たれるかもわからない上に、周囲そのものが水なので着弾の直前まで気付けない。


 水魔法がここまで凶悪なものだとは知らなかった。


 易々と岩を抉りとった水の弾丸はいくらでもどこからでも飛んでくる。


 そして当然かもしれないが手加減は皆無である。どうやったらキキョウに勝てるだろうか。正直、そのビジョンも見えない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ