「ジュードとかダイなら普通に無傷だと思う案件」
白亜は油断なく目の前のフグ(厳密に言えばフグではないが)を見つめつつ腰の村雨を静かに抜く。
滑らかに鞘から抜けたそれは、光を乱反射しキラキラと輝く。
「一撃で仕留めたいが……村雨だとリーチが微妙だな。アンノウン持ってくるべきだった」
創造者でアンノウンを作るという手もあるが、下手に別のことに集中したくない。
棒を繋げる本数で槍にも剣にもなるアンノウンは汎用性が高い分村雨ほど切れ味はよくない。
だから置いてきてしまったのだが。
「某の魔法でなんとかしようか」
「いや、あれは魔力に強く反応する。自然物を扱う俺の魔晶属性ならまだしもお前の雷撃系統のじゃちょっと不味い。ラメルに感電しかねないしな」
水中であることも災いして精霊がやけに少ない。精霊魔法の効果も薄そうだ。
「とりあえず触れずにこいつを何とかしないと」
白亜がここまで警戒するのにはまだ理由があった。実はこのフグ、生態がよくわかっていない。魔物であるということだけは確かなのだが詳細は【麻痺させて丸飲みする】くらいのことしかわかっていない。
もし群れを成す魚だったら無理に突っ込んで何匹も取り囲まれたりしたら非常に危険だ。白亜は異常に頑丈だしキキョウは実体がないのでなんとかできるかもしれないが、他のメンバーは普通に体がある。
かなり強力な麻痺毒なのですぐに対処できなかったら普通に命に関わる。
それに水中でうまく動けないというのもある。かなりの速度では動ける白亜だが、水中でこのフグの機敏性には勝てない。
「折角の研究材料だが、仕方ないか……」
白亜は左手でなにかを掴んで引っ張りあげる動作をする。
ぐわん、と船が大きく揺れた。
「これは……!」
「海流の流れを変えた。キキョウ、行けるか」
「はい!」
キキョウが白亜の前に出て何事かを呟く。するとフグが思いっきりなにかに殴られたみたいに吹っ飛んでから海流に流されていった。
「今なにを⁉」
「キキョウは水中で水を操ってぶん殴る事だってできる」
「その代わり、海流の向きとかがずれると狙いが外れやすくなるのでこうやって海流を操作していただく必要がありますが。私は元々湖の精霊ですし」
海流なんてない場所で暮らすウンディーネは水気さえあれば戦えるという万能性と引き換えにその能力の扱いは環境によってかなり左右される。
湖の畔というのが一番戦いやすいし、水が凍ってしまう気温の場所や水を調達しにくい砂漠などではあまり強くはなれない。
自然そのものともいえる精霊だからこその長所であり、弱点でもあるのだ。
「それより、ラメルは」
「とりあえず無事だ。今、こっちに……ぁ」
小さく、やばっと呟いたのをジュードは聞き逃さなかった。
「今ヤバって言いましたよね? 言いましたよね?」
「まぁ、ヤバい、のかも、うん」
「ヤバいんですね」
「ジュードとかダイなら普通に無傷だと思う案件」
全員の表情がひきつった。
ジュードは意外とタフだ。精神的にも肉体的にも。それくらいじゃないと白亜にはついていけない。
召喚獣のダイも同様だ。というか人ではない。
その二人が普通に無傷、というのは基本的に大抵の事では無傷なので安全、というわけではない。
逆に言えば二人ほど頑丈でなかったら怪我してるってことである。
しかも白亜は大抵一番その条件にあった人を例に出す。○○○より強い、とか○○○より弱い、とか。
そういうところを見抜くのは天才的なのでほぼ完璧に算出する。
だからこの場合の解釈としては「ジュードとかダイなら普通に無傷」ではなく「ジュードとかダイなら無傷でもいけるかな、うん」である。
もうそれ、ほとんどの人が該当しない固さを基準にしているだけである。
「なにがあった」
ダイが改めて聞き直す。
白亜のこれまでの反応は「あのフグの麻痺ならなんとかなるから最悪大丈夫か」くらいの軽い反応だったのでそこから更になにかあったのだろうと解る。
「追えなくなった……」
「「ハァ⁉」」
ダイとジュードがすっとんきょうな声をあげる。
「それは一体、どういうことなのです? 遠視で見ていたのですよね?」
キキョウの問いに答えたのはシアンだった。
『追っていましたが、急に消えました』
「そんなことが?」
『普通ならありえません。ですが、幾つか理由が考えられます』
突然見えなくなる可能性としては白亜の目がおかしくなったというパターン。
だがこれは今別の場所を見ているので可能性は低いだろう。突然ラメルだけみえなくなるというのは考えにくい。
見ているのは白亜だけでなくシアンもなのだから、ほとんど間違えもないだろう。
目の誤作動以外で最も可能性があるのは、
『魔眼殺し、それの効果かと』
「ああ、師匠って魔眼封じは効かないけど魔眼殺しは効くんでしたっけ」
「そうだ。直接魔法がかけられたりしない限り目自体は使えるからこんな風になにかひとつ見落としたりしてしまうんだ」
ジュードは内心でこっそり、白亜に見られたくないものは全て魔眼殺しの魔方陣書いた箱に入れておこうと決めた。
逆に何故自分のテリトリーに魔眼殺しがあるんだ、と白亜に探られる可能性も高くなることには気付いていないらしい。
魔眼殺しは本来、魔眼を持つ相手の目を潰し厄介な能力を使わせないようにする工作系魔法である。
戦争なんかで使われていた魔法を家にかけたら「なにか家に仕掛けられているかもしれない」と白亜の気が立つのは間違いないだろう。
この依頼の少し後に白亜がジュードの隠し金庫を開けてしまう事件が勃発するのだが、それはまた別の話。
「この船もそうだが、恐らくかなり前の世代のものだろう。行ってみないとなんとも言えないから、俺達も向かうぞ」
とりあえず魔眼で追跡できたところまでは向かうことになった。
ラメルの状況は、今のところさっぱりわからない。




