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白亜親衛隊!

「し、師匠の勝ちです!」


 カイザは自分に何が起こったのか理解できていないらしい。


「何が起きた?」

「投げただけですよ。こうやって」


 下から抱えて上に投げるモーションをしながら白亜が答える。


「師匠!すっごい強くなってますね!」

「あいつとの対戦で色々と改善点がわかったからな。その辺は感謝するべきなのかな?ぼこぼこにやられたけど」

「本当に何者なんでしょうか」

「さぁな?名乗ってなかったし。あ。俺も名乗ってねえわ」


 本当にどうでも良いことを話しながらカイザから離れる白亜。


「待て!まだ終わってないぞ!」

「そんなこと言われましても」

「何でだ!何で勝てない!?」

「鍛練あるのみってことじゃないんですか?」


 白亜に通用する強さを持っている奴なんて殆ど居ないだろうが。


「誰に教わった!」

「え?……独学?適当?どっち?」

「適当じゃないか?某はそれが一番あっていると思うが」


 適当になった。


「適当だそうです」

「嘘つけ!どうやったらそんな体でそんな力が出るんだ!」

「そんなこと言われても……あ」

「心当たりがあるのか!」


 白亜の脳裏に浮かんだのは合気道の師範代だった。ただこんなところでそんなことを言うわけにもいかず。


「無いですね。こうやって動けばいいんじゃないかなってやってきましたし」


 白亜は最後まで居ない、知らない、適当で貫き通した。それでいいのかは不明だが。






「!」

「はい。俺の勝ち」


 ジュードの首筋にピタリと模造刀が当てられる。


「強すぎますよ師匠……これで1789敗じゃないですか」

「魔眼の使い方も慣れてきたしな。殆ど無意識で制御できるくらいに」


 普通は片目にしかない魔眼の完全制御には10年は掛かると言われている。白亜は両目の魔眼を2年ほどで完全制御してしまった。相変わらず化け物だ。


「いつになったら師匠に追い付けるんでしょうか」

「くく。さぁね」

「あ!師匠が笑った!」

「ハクアが笑った!」


 チコが飛び回りながら白亜の顔を覗きこむ。




「やっぱりコロシアムの所に何があったか教えてもらえませんか?」


 白亜はジュードの目を見て、笑顔を作り、軽くウインクをしてから口元に人差し指を立てて、


「ヒミツ」


 普段の白亜からは想像も出来ない仕草が飛び出す。超絶に整った顔でそれをやられると反応に困るものがある。

 その顔にやられたのかジュードの鼻から赤いものが顔を出す。その反応を見た白亜は、


「おお。中々使えるかもな。いや、ジュードだからか?」


 真顔で言う。ジュードを実験台にしたらしい。


「師匠!?僕を実験台にしました!?」

「いやー。効くのはお前だけかな?」


「クアハハハハ!面白い!」


 ダイの爆笑癖はいつ治るのだろうか。いや、治る見込みは殆ど0%だろう。





 訓練を終えて寮に戻る白亜。なんとなく周囲の目線が集まる。


「?」


『なんか皆見てないか?』

『いつものことでしょう?』

『いやまぁ、確かにそうだけど。前よりも圧倒的に見られてる気がする』

『じゃあ少しだけ笑いましょう』

『今ここで!?』


 あの仕草やなんやらはシアン仕込みだったらしい。言われた通りにこちらに視線をぶつけてくる女の子達に少しだけ笑みを見せる。女の子達の何人かが途端に顔を真っ赤にして視線をそらし、何人かはジュードの様に鼻から赤いものがでている。


『お!女子にも効くのか』


「ハクア様……。シアン様ももう少しお手柔らかに」


 少々疲れた顔をしてキキョウがついていく。ダイは必死に笑いをこらえ、ルナは妾はなんの関係もない。とでも言っているように涼しい顔をして歩いていく。大物だ。





「ただいま……」

「ハクア君!これ見てよ!」


 料理の準備をしていたリンが手を止めてチラシのような紙を見せる。


「んー?………まじか」


 ハクアファンクラブの会員募集のチラシだった。


「知らない!?これの会員もう200人は越えてるんだよ?」

「なにそれ」


 その辺りは全く知らない白亜。


「今日こっちに来る前に入り口で固まってる女の子居なかった?」

「いたね。妙に見られてたけど」

「その子達だよ」

「ああ。だから鼻血……」


 なんとも奇妙な物だ。


「嬉しくないのか?」

「いや、前世でもこう言うのあったし……」


 やはりイケメンは鑑賞の対象だったらしい。


「そんなのがあるとはの」

「某もないか?」


 召喚獣は鑑賞の対象になるのだろうか。




「あー。気持ちいい」

「肩凝りすぎでしょう。これは」

「年齢と肩凝りは関係ないよ?」

「問題はそこではないと思います」


 風呂に入りながら肩揉みをするキキョウ。因にダイは現在白亜の部屋で知恵の輪と格闘している。この世界の人には意外と人気らしい。流石に4人はこの狭い1人用風呂には入れない。


「暖かいの」

「イフリートって風呂入ってもいいのが今更だけど疑問だよ」


 体が炎で形成されているのに水に入っても消えない。


「変身してるからの。別にもとの体でも入れるが」


 火だからと水をかけても消えない上に、触ると火傷、実体がないので物理無効。キキョウもルナも最強の精霊なだけはある。





「じゃあ今日はサックスにしようと思います。アルサクで良いか」


 恒例のミニ演奏会だ。アルサク、正式名称アルトサックス。木管楽器の中でも特に有名で、ジャズや吹奏楽に使われる。

 リードを作って口に入れて湿らせる。


「ハクア君。それ必要なの?」

「湿らせないと音がでないんですよ」


 キキョウも大分楽器に詳しくなってきたようだ。


 リードをマウスピースに挟み、音を出す。


「聞いたことないような音だね」


 確かに木管楽器は音色が特徴的だ。


「そんじゃあ、えっと。ドビュッシーのラプソディ辺りで良いかな」


 白亜はいつも練習のまえに作曲者や曲名を言うのだが、誰も判らないので別に言わなくてもいいのに、と周りが思っていることを白亜は気付いていない。





 まだ誰も起き出していないときに白亜は訓練場へ向かう。


「ふぁ」


 欠伸をしながら準備運動をしながらジュードを待つが、一向にジュードが現れる気配がない。


 30分程待っても来なかったので、素振りを始める。振っているのは村雨だ。誰も居ないとはいえ突然真剣を振りだすのはかなり恐いものがある。


「来ないな」


 素振りを中断して、創造者クリエイターで木人形を作り出す。これはこの訓練場に大量においてあるものと同じなのだが、以前白亜が壊しまくってしまい、それからは同じものを自分で作るようにしたわけだ。


「居合いでも練習するか」


 白亜は村雨を鞘にしまい、少し腰を屈める。本当ならばあまり屈める必要はないのだが、いかんせん白亜の背丈が小さいのでこうしないとうまく鞘から引き抜けない。


 暫くそのまま動かなかった白亜だがある一瞬を境にとんでもない速度で村雨が引き抜かれ、そのまま反対側に移動して鞘にしまう。すると木人形の首が真上に吹き飛んだ。人間で想像したらかなりグロくてえげつない。


「遅いな。でも覗くわけにはいかないし」


 左目を使えば全然様子を探れるのだが、白亜にも勝手に覗いてはいけないという常識はあったらしい。





「ハクア君。あれ?ジュード君は?」

「まだ来てないんだよね……」


 リンが来たということはもうそろそろ教室に向かわなければならないと言うことだ。


「もうこの際仕方無いよね」


 左目が光を帯びる。もうこの際気にしないらしい。


「んー?ジュードいない」

「え?教室は?」

「居ない。この学校内にいないのか……?」


 なんらかのトラブルに巻き込まれたのか。ジュードを巻き込める人間なんてあの魔族くらいしか居ないだろう。ただ、もしそうだとしても白亜が気が付かない筈がない。


「とりあえず教室にいこう?学校には連絡が入ってるのかも知れないわけだし」

「ああ。そうだな」


 一抹の不安を覚えながら教室に向かう5人。







「ライム先生。ジュードが居ないんですが、連絡は入ってますか?」

「判らないわね……聞いてないわ」


 先生も知らないとなればどうなるのだろうか。やはりなんらかのトラブルに巻き込まれた線が強くなる。


「あれ?カイザさんも居ない?」


 あの二人でどこか行ったのだろうか。考えにくいし、何処か行くならその辺きっちりしているジュードの事だ。連絡くらい入れるだろう。


「ハクア君……」

「俺、ちょっと王城に行ってくる」

「入れるの?」

「え?ジュード繋がりで」

「え?」


 リンはジュードが王族なのを知らなかったらしい。


「第2王子って、あの武の王!?」

「知らなかったの?」

「名前より2つ名が広まってるからね……」


 確かに武の王と言われて想像するのはバルドみたいに筋肉ムキムキの人間を想像するだろう。半分とはいえエルフの血も混ざっているジュードは普通に考えたらそんなに運動が得意には見えなさそうだ。


「とりあえず行ってみるよ。ただ単に王城に呼ばれただけかもしれないし」


 遠視では学校内しか確認していない。それ以上外だと判らないのだ。


「私もいくよ!私だってパーティメンバーなんだから」

「ありがとう。じゃあ許可もらって行こうか」


 ライム先生に許可をもらい、外に出る。制服のままだがこの際仕方がないだろう。パッと見学校を脱け出してきたカップルだ。


「取り敢えず裏にいこう」

「正面門じゃなくていいの?」

「正面は謁見手続きが面倒だからね。裏なら俺の知り合いもいるし、多分直ぐに通してくれるよ」


 知り合いというのは依然初めてここに来たときに案内してくれた門兵だ。あれから何度かここで会うのでそれなりに見知った仲だ。


「ん?ハクア殿。脱け出してデートか?」

「違いますよ。ジュードって来てますか?」

「第2王子様か?判らんな。先程交代したばかりなんだ」

「入れてもらえますか?」

「ハクア殿は構わぬが、そちらは?」

「ニンフのリンです。私とジュードのパーティメンバーです」


 リンをじっと見る門兵。


「ふむ。本当のようだな。では幾つか質問に答えてくれ」

「は、はい」

「第2王子様の本名は?」

「え?ジュード・フェル・リグラートですよね?」

「そちらのハクア殿との関係は?」

「師弟関係ですよね」


 実にどうでも良い内容だが、これが何故かしきたりとして定着しているので聞くのが門兵の仕事なのだ。


「問題ないな」


 無かったらしい。すんなり入れた。


「ジュードの部屋はこっちだ」


 先にジュードの部屋へ行く。音がするのでノックして入る。ノックの意味ってあるのだろうか。


「誰!?」

「「誰!?」」


 子供がジュードの棚を漁っている。少なくとも白亜とは面識のない人だ。


「ここってジュードの部屋だろ!?俺間違えた!?」


 不安になって部屋番号などを見るがやはりジュードの部屋だ。家具などは完全にジュードの物だ。


「誰だお前!」

「……!」


 窓の所に下がっていたロープで脱出した。


「逃がすか!」

「ハクア君!?」

「ハクア!」

「面白くなるかな」


 ダイは楽観的すぎる。

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