「俺は虫じゃないぞ……」
見取り図を書き終わり、更に先へと進む。時々出てくる魔物は全てダイが倒していくので案外スムーズだ。
「師匠の師匠」
「なに」
「どうしてそんなに強いし何でもできるのに何回も死んでるんだ?」
かなりド直球な質問である。
ジュードも窘めようかと思ったのだが気にはなっていたのでなにも言わず白亜の方を見る。
確かに、白亜は基本危なっかしい。
突然突っ走っていくし目立つからか数えきれない回数襲われる。愛玩用として捕らえられそうになったこともそれこそ未遂を含めたらかなりの回数だ。
だが、逆に言えばそれで済んでいる。
基本白亜が自分で未然に防ぐので全部未遂ですむのだ。
それほどの力のある白亜がなんども若いうちに死んでいるというのは疑問にならないわけがない。
「俺に聞かれても、別に死にたくて死んでる訳じゃないし……」
本人無自覚らしい。
それでも、本人以上に本人のことを知っている人が一人いる。
ジュードは最初から白亜に聞くつもりはなかった。だって自覚してないだろうから。
白亜自身のことを訊ねるなら、シアンに聞いた方が早い。
『そうですね。恐らく、強すぎるが故に。でしょうか。自分の本当の限界を知らないのです』
「シアン」
『本当のことではないですか。シュリアの時だってそうだったはずでしょう?』
昔の例を出されると反論できない。
白亜は軽くため息をついて黙るしかなかった。
だが昔の話を出されてもわからない人が殆どではある。ダイがウツボに似た猛毒を持つ魚を殴り飛ばしながら白亜に―――正確には白亜の中にいるシアンに話しかける。
「どういうことだ?」
『先程の話しの続きです。ルギリア様に助けられた後、行く宛のないシュリア様は傭兵としてルギリア様やヴォルカ様と共に各地を回りました』
ヴォルカは実はシュリアより先にルギリアに会っている。
以前、世界線に放り込まれ偶々過去のこの世界に飛ばされた伊東に出会ったヴォルカは白亜の作った魔力を込めることで魔法を発動させるカードを貰い、その直後にルギリアに会った。
ルギリアがシュリアを助けに来た時は少し離れた場所で奴隷商の注意を引き付けていたのでシュリアがヴォルカと面を会わせるのは結構後になる。
『各地を回る際、様々な魔法を目にしたシュリア様は驚くべきことに見ただけで魔法を模倣できる特技に目覚めました』
「「「えっ」」」
普通に考えたら、おかしい。
例を出すならば文字を沢山目にしたから見た瞬間読み解けるようになった、ということである。どの文字がなんの意味なのかもわからないが、とりあえず読めるという謎な状態。
しかもシュリアの場合は文字ではなく模様に近い魔方陣だ。
文字なんかよりもよっぽど覚えるのも理解するのも難しい。
『ですが、ルギリア様もヴォルカ様も……その異常さに気付かなかったのです』
「……集まるべくして集まった人達、ということなのでしょうか」
「おい、それは貶してんのか」
ジュードの呟きにジト目で反論する白亜。
でもその通りである。変人は変人で纏まるらしい。そしてそれは自分たちの今の状況とそう変わらないことであることに誰も気づかない。
ジュードも十分変人だ。
『魔法を完璧におかしな形で理解してしまったシュリア様は天才でした。その後も新しく作られた魔法をいとも容易く模倣してしまうのでかなり疎まれました』
「そりゃあ何時間も何日もかかって作ったものが一瞬で真似されたら嫌だろうな」
ただ、シュリア自身は理論を殆ど理解せず魔法を使っていたので新しい魔法は作れない。
それが余計に魔法学者から妬みをかった。
「話を聞くだけだと今と同じような非常識ぶりですけど……どうして亡くなるなんてことに」
『いえ、ですから妬みをかいすぎたのです。シュリア様をめぐって戦争が起こったのです』
魔法使いは財産だ。
見ただけでなんでも模倣してしまう上に果てない魔力量。
そんな魔法使いがたかだか民間傭兵団の一員だったことがおかしいのだ。メンバーも中々おかしい人だったが。
『各国、魔法使いを欲していました。互いの国の魔法使いを奪い合いながら長い戦争が続いていたのですが、突然シュリアという誰もが欲しがる戦力がどこからかわいてきたのです。手を出さない国などありません』
わいてきた、というと虫っぽい言われようだ。だが、白亜は別にそんなの気にしない。それくらいでは怒るどころか反応すらしない。
「俺は虫じゃないぞ……」
……いや、一応反応した。シアンには軽く、はいはい、と流されたが。
『戦争は激化、シュリア様は傷付く仲間の姿に耐えられずルギリア様とヴォルカ様を遠い未来に転送し自らを使った大規模魔法で周辺全てを更地にしました』
「「「………」」」
中々恐ろしいことをしている。前世の白亜と言われても納得は出来なくもないが。
『魔法使いを奪い合っていた各国はシュリア様のその行動に怖れ、魔法を禁じました。正直、あの魔法はやりすぎでしたし』
シアンがやりすぎ、というからには余程とてつもない魔法だったのだろうが。どんな魔法使ったのか、なんて怖くて聞けない。
『そこから魔法文明は少しずつ衰退し、それほど威力の高くない生活に必要な威力のみを残す属性魔法が使われるようになったのでしょう』
第五、第六世代に全盛を迎えた魔法文明。
……どうやら白亜によって衰退の一途を辿ったらしい。どの時代でも白亜が歴史の大きな動きに関わっていそうで、なんとなく複雑な気持ちになった。




