白亜の新学期開始!
夏休みが終わって9月になった。久しぶりの学校である。
「あー。夏休みが休みに感じられなかったな」
「毎日何時間も訓練してるからだ。某はもっと遊びたかったぞ!」
「子供かよ」
白亜は以前まで右目の黒い魔眼を隠していたが、両目黒曜眼になってしまったのでもう隠すこともないと、両目がはっきり見えている。
「んー。それじゃあ教室行くか」
少し面倒臭そうな声色で良い、キキョウ達を従えて中に入っていく。その目は死んではいたが、うっすらと輝きが見てとれる。凝視しないと判らない程度ではあるが。
白亜が教室に入ると、既にサヒュイとリンがいた。
「おはよう、ハクア君。また増えてるけど……」
そう言ったのはサヒュイで、リンはイフリートだと分かったのだろう。口をパクパクさせている。
「ハ、ハクア君。その人は?」
「ルナだ。お察しの通りだ」
こういった方が速い。
「流石だね……」
「っと。ルナ」
「この度、ハクアの契約精霊となった。ルナと申す。よろしゅう」
「え、えっと。よろしくお願いします!」
ルナの顔合わせも終わったので席につくハクア。
「ハクア君。なんか変わったね。良い意味で」
「そうか?まぁ、両目黒くなったからな」
「ううん。ちょっと違うもん。目もそうだけど、雰囲気が」
「そっか?有難う」
そう言うと、ほんの少しだけ笑顔を見せる。表情筋があったらしい。
「わ、笑ったの戦ってるときと演奏してるとき以外で始めてみたかも」
「どうした?」
「お、女の子の前ではあんまり笑わない方が良いかもしれない」
「え?ああ、うん。よくわかんないけどわかった」
わかったのかわかんないのかイマイチ不明である。
「おっはよー!わ!また増えてる!しかもハクアの目が黒くなってる!」
シャウが入ってきて早々ハクアの方を見て少し騒ぐ。
「右目は元々こうですよ?左目は、まぁ、色々ありまして。で、こっちはルナです」
「妾はハクアの契約精霊のルナ。よろしゅう」
「お、おう‼よろしく。ルナさん!」
そんな問答が何人か続き、
「ハクア!貴様この前はよくも……ああ‼後ろの方は!」
「ハクアの契約精霊となったルナと申す。よろしゅう」
「貴様!キキョウ様だけでなくこの方まで引き込んだのか!」
酷い言いがかりだ。
「この前のコロシアムの前にはもう契約済みでしたよ?」
白亜は相変わらず空気が読めない。
「そう言うことではない!」
「妾がハクアに付いていきたいと願っただけのこと。ハクアに非はない。寧ろ妾にある」
そう考えるとシアンが悪者になりそうだが。
「師匠!元気でしたか?」
「それ、俺の台詞じゃないか?おはよう」
「それもそうですね!おはようございます!」
朝っぱらから元気な王子だ。
「あ、コロシアムの、どうでした?」
「え、ああ。うん。色々と凄かった」
何が凄かったのかは特に言わない白亜。
「何がありました?」
「いつか見せるかもね。今はちょっと無理かな」
「残念です……」
「ハクア!チコ、良い子にしてたよ!」
「そうか。それは良いことだ。これからもジュードに迷惑かけるなよ?」
「うん!迷惑はハクアにかけるね!」
「え?ああ。まぁ。それでいいや」
それで良いらしい。極度の面倒臭がり屋のくせに。
「はーい‼みんな夏休みはどうだった?って増えてる!」
「ハクアの契約精霊となったルナと申す。よろしゅう」
「ハクア君また増やしたのね……それじゃあ編入生を紹介するわ!」
ライム先生に先導されて入ってきたのは男の子だった。
「我の名はカイザ!カイザ・クードだ!年は11!格闘技が得意だ!我と仲良くして欲しければ我の下につくがいい!あーはっはは!」
うわー、面倒くさいのが来た。と、全員の思考がリンクした。
「えっと……それじゃあ自己紹介ね!ヒノイ君からお願い」
4月の時のような自己紹介が続く。
「白亜です。人間族で6歳。精霊魔法等を勉強しています。よろしくお願いします。後ろにいるのは契約精霊の水精霊のキキョウ、火精霊のルナ、召喚獣のダイです」
「召喚獣?なぜ外に出ているのだ?」
「某は特殊でな。人間を模してここに居るなど簡単なのだ」
なんかキャラが被っている気がする。
こうして一時間目に入る。白亜は図書館だ。
「ハクア!我と手合わせ願いたい!」
「もう授業始まりますけど?」
「ではいつやるのだ!」
「そうですね。明日の朝か今日の授業後ですが。どうされますか?」
「朝?」
「朝が良いなら許可証貰ってきましょうか」
「いつもやっているのか?」
「休んだことはないですね」
カイザは少し考え、
「いや、今日の授業後にさせて貰おう。場所はグラウンドか?」
「いえ。訓練場でやりましょう。毎日使用許可はとってある筈なので」
別にとる必要はないが、白亜とジュードはいつも申請をしている。
「わかった。では、授業後で」
「わかりました」
「小僧。久しぶりじゃのう」
「お久しぶりです。ビューさん」
いつも通りビューが出迎えてくれる。本だが。
「また増えておるのう」
「契約精霊のルナと申す。よろしゅう」
「よろしくのう。ワシはビュー。ここの管理を任されている」
ビューは白亜が古代魔法を勉強しているのを知っている上に、使えることも知っている。本当は言わなくてもよかったのだが、白亜が律儀にビューに使えるようになったと言いにいった。
「まさか本当に使えるとはのう」
「こっちが驚きましたよ。ただ、かなり制約がありますし、他の人に多用されたくないので誰にも秘密でお願いします」
「わかっとるよ。ここまでの歴史的大発見を無視しろと言うのも面白いしのう」
ビューはそれで良いらしい。なんでも、知識は人に見せるものではないが、悪意を持つものに渡らぬようにあえて見せることも必要だと考えているからだ。
「またなにか研究するのか?」
「あいつに勝つためにはただ闇雲にもがいてたら駄目だ。転移を知られている以上、何とかして裏をかかないと次は勝機が本当に無くなる」
もう白亜は負けるわけにはいかない。それは闘争心と言うより恐怖心。恐れだ。白亜の前世が毎日戦いに身を捧げた挙げ句、最後には自らの命を絶ったと言うのが余計にそう感じさせるのだろう。
「多分あいつに目をつけられたからまた来るだろう。その時になにもできないんじゃ話にならない。せめて昔よりは強くならないといけないんだ」
白亜は図書館で黙々と勉強を続ける。図書館にはダイのため息とビューの鼾が響き渡っていた。
「お、ジュード。属性授業はどうだった?」
「上級が使えるようになってきましたね。ここまで頑張って師匠に……は追い付ける気がしませんね」
「なんでだよ」
昼食の時間。ジュードと白亜は食堂で一緒に食べていた。リンも合流する予定だ。
白亜が食べ物を貰いに行くと明らかに量が少ない。ジュードの半分くらいしかない。不思議に思いながら席に戻る白亜。
「少なっ!少なすぎませんか?」
「いや、俺夏に入ってから少食になってさ。これで良い」
「それただの夏バテですよ!」
「あ、これがか。成る程。道理で5時間動いただけで疲れるわけだ」
「それでも異常ですけどね……」
確実に嫌がらせだが、白亜にとっては残す気になれなかったので寧ろ好都合だ。
「あ、ハクア君。あれ?少ないね。もう食べたの?」
リンが来た。
「いや、もとからこれだ」
「嫌がらせなんじゃない?」
「これがか。でも全然足りる量だし」
「だから太らないんだね……」
明らかに少ないご飯を特になにも気にせず食べる白亜。ある意味最強だ。
「今日はこれで終わり!ありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
度々白亜は程度の低い悪戯を仕掛けられていた。床が凍っていたり、靴に土が入っていたり。しかも恐ろしいのが白亜はそれに全く気付かずに全て回避した。
凍っていた床はその上を普通に歩き、ダイが転んだ。靴に土が入っていたのは、その土で逆に小さな人形を魔力でつくって遊び出したり。遊び出す、と言うのはこの土にはこの分子が……とかの、常人には理解しがたい遊び方だ。
これを気にしない白亜も白亜だが、懲りずにやり続ける方もやり続ける方だ。
「師匠。もう犯人探した方がいいですって」
「なんの?」
「嫌がらせの」
「別に嫌がってないから良いんじゃない?」
「そこは問題でない気がしますよ」
マイペース天然記念物の白亜と、普通に師匠を心配する弟子。確かに白亜は気にしていないからこれは嫌がらせには入らないかも。等と考え出すジュード。
「今日はカイザさんと模擬戦をするんだ。少しだけ良いよね?」
「構いませんが」
白亜は訓練場に向かったあと、準備体操をしながらカイザを待つ。
「この夏で師匠は変わりましたね」
「そうか?リンにも言われたな」
「変わりましたよ。目付きとか」
「あ、本当?」
「じっと見れば判ります」
「なにその微妙な判定基準」
準備体操を終えた頃、カイザがやってきた。動きやすい服装に着替えてある。白亜も着替えはすんでいる。
「我はハクア。君と戦いたくてうずうずしていた」
「私のことを?」
「勿論。学校首席である君を知らない筈がない」
「え?学校首席?」
「違うのか?」
白亜は掲示板なんて普段見ないので自分の順位を知らない。
「全科目で全て一番……なにか裏があると思ってな」
「そうなのか?」
「某に聞くか」
何故ダイに聞いたのか。
「それじゃあ。始めますか?武器なし、魔法なしの格闘技のみでの対戦としましょうか」
ジュードが前に出てくる。
「審判は僕が。危険な技はなしです。非殺傷魔法は掛かっていますが、もし危険と判断した場合止めに入ります。よろしいですね?それでは、開始!」
カイザが間合いを詰めてくる。白亜は未だ動かない。
「てりゃあ!」
カイザから白亜の顔面にスピードの乗った一撃が繰り出される。
「………」
白亜は人差し指をだし、攻撃を指1本で受け流す。
「なっ!?」
カイザがそのまま、蹴ったり殴ったりを繰り返すも白亜の右手1本で全て受け流される。
「なんで!?」
「柔は剛を制すって言うでしょう?貴方の動きは悪くない。でも、指1本で逸らせることが可能な位軌道が読めてしまう。それは良いことでも悪いことでもありません」
「何が言いたい!」
「要は……」
そう言って白亜は動いた。その早さはジュードでも追いきるのが難しいほど。
「素直すぎるんです。子供には十分有効でしょう。でも、強い大人……経験を積んだ人であればすぐに見抜かれる」
白亜の腕がカイザを囲うように回され、そのまま投げ飛ばされる。
「私の勝ちですね」
圧倒的な力の差が、そこにはあった。




