「僕も行きたいです」
白亜が二人を迎えに行き、ヨシフ達に会わせる。とはいってもリグラートに帰って直ぐに一度顔合わせをしているので初対面ではない。
「ああ、久しぶりだね。ジュード君とリンちゃん、だったかな」
「お、お久しぶりです、ヨシフさん」
「お久しぶりです」
若干緊張ぎみのリンとは違い、ジュードはかなり落ち着いた態度だ。というのも一応(?)王子なのであまり話したことのない人と話すのは慣れている。
ハクアの町にやってくるお偉いさんの相手は基本ジュードの役目だ。というのも白亜配下の者達は基本的に腕っ節に自信を持っている者ばかりなので口より先に手が出てしまう。
キキョウならある程度の相手との会話も出来るのだが、キキョウは町全体の治安維持に努めているので個人的に対応している余裕があまりないのだ。
他にも朱雀やガルダなど、対応のできる者はいない訳ではないが、作法はやはりジュードのほうが慣れている。
結果的にジュードが全て請け負っている。
「師匠、これからどこに?」
「一旦警察署……あー、あっちで言う詰め所に行って、それからあいつらに会ってくるかな」
元日本組の連中にはたまに会いに行っている。
忘れている人がいるかもしれないので軽く説明するが、日本組とはハクアがレイゴットと相討ちになった時に偶然出会った転移者達のことである。
ジュードもリンも彼らのことは良く知っている。ハクアがレイゴットと戦って敗れた際、ジュード達が彼らを保護したからだ。
「皆に会いに行くなら私も行きたい」
「僕も行きたいです」
確かに、ジュード達は日本組と結構仲が良かった。久しぶりに会わせるのもいいだろう。
「わかった。ただし警察署では二人は入れないかもしれない。外で待ってもらうことになってもいいか?」
「はい」
「うん」
ミュルを肩から下ろそうとするが、やけに嫌がる。
「こら。降りなさい」
「みー」
「ミュル。お前は家から出ちゃ行けないんだから」
「みー」
くるくると白亜の手を回避し続けるミュル。これは下ろしたところでもう一回しがみついてくるだろう。
「……欄丸」
「わかった」
引き剥がしたミュルを欄丸に手渡す。
ミュルは鳴きながらじたばたするが欄丸には敵わない。
「いってらっしゃい」
「みー!」
暴れまわるミュルを無視して外に出た。リンが小走りで白亜の真横に来て、
「連れてったら駄目なの?」
「日本は動物が入れない場所のほうが圧倒的に多いんだ。連れてきても放置することになるだけだ」
「そうなんだ」
ちょっと残念そうだ。
リグラートでは魔物使いやテイマーも珍しくない。移動手段そのものが馬だったり亜竜だったりするので動物が一緒に入れる店が非常に多いのだ。
衛生上の問題で食堂などには流石に入れないが、馬を繋いでおく場所はどこにだって必ずあるし余程デカくなければ店には普通に入れる。
そうでなければ白亜の配下ほとんどアウトである。獣人という種族があるのも関係しているのかもしれない。
「二人とも、こっち入って」
白亜が入っていったのは地下鉄の入り口だ。地下に部屋を作るのは結構な労力がいるのでリグラートにはそんなに地下という空間はない。
それがありとあらゆる場所にあるのに二人は驚いていた。
「こんなに地面に穴を開けてしまって、崩れないんですか」
「耐震性は十分にある。結構頑丈だぞ」
「凄いねぇ」
二人には驚きの連続だろう。エレベーターやエスカレーターでさえ毎回感嘆の声を漏らしている。
切符を買い、白亜の真似をして自動改札を通ると目を瞬かせていた。ホームの広さにまた驚き、電車の速度に目を輝かせる。
白亜が走った方が早い、というかリンはともかくジュードだって電車と同じくらいの速度で走ることくらいできるのだが、その速度での移動が誰でも低コストで利用できることに目をつけていた。
「ハクアの街は小さいのでここまで早い乗り物は必要ないでしょうけど、国としてはとても欲しいですね。物資の運搬がこの速度で進めば物流が盛んになりますし、子供でも安全に移動できる乗り物なんてほとんどありませんから親も安心ですしね」
子供の移動手段は歩きか乗り合い馬車くらいだ。馬には体が小さすぎると乗れないし、なにより落下したとき本当に危険だ。
乗り合い馬車は遅い上に相当揺れるので子供が転んで怪我をするケースも多い。
ちなみにハクアの街では五つの区間に乗り合い馬車が定期的に通っており、移動が楽な方である。街のなかで馬車が走っている街はそれほど多くなく、ハクアの街ほど街道整備ができていないので乗り心地も悪い。
その点ハクアの街での馬車は白亜製の乗り心地最高のもので、街道も整備済み。基本的に速度が早いことで知られている。
交通量の調節も行われているからスムーズかつ安全である。
それでも電車には敵わない。スピードも安全性も利用費用も全てが馬車を上回っている。
「あっちだと色々問題があるんだよ……。まぁでも検討してみるか……」
白亜としても案そのものには賛成なのでとりあえず心のなかに留めておく程度にする。
「そろそろ着くぞ」
自動改札を再び抜けると、すぐ目の前に警察署があった。
住宅街に近いところから地下鉄に入ったので突然高層ビルの中心に出たことになる。二人はまた驚いていた。
「どうやったらあんなに高く建てられるんだろうね?」
「というか、なんで上に伸ばすんでしょうか? 地下の方にも電車があるし、そんなに場所がないんですかね?」
二人の質問は当たり前過ぎて逆に新鮮である。
白亜は少し笑って警察署に入った。受付で名前と用件を告げると直ぐに上に案内される。連れを同行させても構わないか許可をとり、なにかあったら責任を負うということを約束してエレベーターに乗った。
「なにもせず後ろをついてきてくれ。なにかあったら面倒だからな」
「うん」
「わかりました」
二人をつれてとある部屋の前に行き、なんどかノックをする。
中から声が聞こえたので扉を開けた。するとそこには白亜の会いに来た元亜人戦闘機対策部隊の中心メンバー、それと意外な人物がいた。
「……ん? なんでお前がここに?」
「あ、えっと、お久しぶりです白亜さん……となんでジュードさんとリンさんが?」
「なりゆきで連れてきたんだ」
そこに居たのは、これから会いに行こうと思っていた人物……日本組の一人、賢人だ。白亜の弟子に当たる。
その場に漂うただならぬ雰囲気に、首をかしげる白亜だった。
なぜならば、白亜はここに呼ばれた理由を覚えていないからである。というか、先々週に電話で招集がかかったことは知っているのだが、眠くて聞き逃したのだった。
完全に自業自得だった。




