無気力超能力者の転生即興曲

学園期

何故かコロシアム参加！その２

「「「うおおおぉぉぉ！」」」

　屈強な男達が武器をもって襲い掛かってくる。恐怖映像にしかならない。

「よっと」

　白亜は一番近い男の腹に回し蹴りを入れる。綺麗なまでにヒットし、周辺の男たちを巻き込んで全員場外になった。これの勝利条件は、最後まで立っていた人の勝ち。コロシアムの場外に落ちたら失格、または気絶したり立ち上がれなくなったら失格。非殺傷魔法に引っ掛かったら失格だ。

「つまり、最後までこの上に立ってりゃ良いだけだな」

　白亜は今回し蹴りをして一掃してしまったのをバレないようにその場から離れる。白亜の背は小さいので紛れることが可能だからこそできる芸当だ。

『な、なんと！？突然選手が激減した！？』

「師匠か……」

「ハクアか……」

　この二人はとっくに気付いているが。

「まちなさい！」

「っ！」

　白亜の村雨と女性騎士のレイピアがぶつかる。

「子供……には思えない反応速度ね」

「それはどうも」

　白亜は深くまでフードを被っているので目の色はちゃんと見なければ解らない。

「私と勝負しなさい」

　何故か上から目線。

「……いいでしょう」

　白亜は村雨を鞘にしまった。

「戦わないの？馬鹿にしているの？私が女だから？」

「俺も女なんですけど……まぁ、いいや。居合いもあるんですよ？」

「その居合いって言うのがなんなのかは解らないけど剣を閉まってするものなのかしら？」

「抜刀術。刀を抜く際のみで攻撃する技。中々使いどころは難しいですが、相手の意表をつけるので結構使えるんですよ」

　白亜は村雨を撫でるようにさわる。

「これは弟子がプレゼントしてくれたものでしてね？気に入ってるんです」

　そういった直後、後ろを確認せずに回し蹴りを放つと、背後からハクアを狙っていた男が吹き飛ぶ。

「後ろは卑怯ですよ」

「貴方……本当に何者なの？」

「そうですね。どこにでもいる、村人です」

　白亜は村雨を逆手でつかみ走り出した。逆手で掴むのが予想外だったのか、女性騎士は反応しきれていない。

「どうでしょう？」

　水滴が滴り落ちる村雨が彼女に当たる寸前で止まっていた。

「敵わないわ」

　そう言って場外に降りていった。

　白亜は村雨を鞘にしまい、辺りを見回す。男達が真剣で斬りかかっているのを見て。

「そうだ。斬っちゃえば良いんだ」

　何やらボソッと呟き、村雨を抜く。そのまま誰の目にも止まらない位の速度で男たちの間を走る。

「よし。できた」

　走るのをやめて村雨を鞘にしまった瞬間、ジュードと白亜とヒノイ以外の全員の武器がど真ん中からぱっくり裂けた。金属の斬れ方ではない。

「「「えええええ！？」」」

　コロシアムが絶叫に包まれる。

『ど、どう言うことでしょうか！？選手達の武器が壊れた！？』

　武器を壊されたことにより自信をなくした男達が何人か場外に歩いていく。それ以前にも白亜が蹴り飛ばしたり選手達の戦闘で場外になった人たちを抜いたら、残ったのは残り10人。

『の、残ったのは10人！武の王、その師匠、ヒノイ選手等ゲストたちは全員残っているぞ！』

「ふぅ。何でこんなことしてんだろうか、俺は」

「白亜……派手にやったな」

　白亜の動きが辛うじて見えていたダイが声を漏らす。

『マスターはお優しいですから』

「クハハハ。間違いない」

　シアンの声は周囲に聞こえていないので現在ダイは独り言を言い続ける変なイケメンだ。

「ここから先は人数が減って隠れながら戦えん……白亜はどう戦うか」

「よっと」

　白亜は場外ギリギリのところで屈強なおっさんと戦っていた。

「なんであたんねえ」

「避けてますから」

　白亜は魔眼で相手の弱点を見抜く。

「利き腕に頼りすぎですよ？左手の筋力のバランスが悪いですね」

　そう言って左側に回り、後ろから小突くように蹴る。バランスがとれなくたったおっさんは勢い余って場外に墜落した。

「ハクア！私と戦え！」

「ヒノイさん。いいですよ？」

『おおーっと！ヒノイ選手と武の王の師匠が対決か！？』

「貰った！」

「だから後ろは卑怯ですって」

　白亜とヒノイが対峙したときに後ろから冒険者らしき人が白亜に襲い掛かったが見もせずに避けて投げ飛ばす。

「おっと。合気道は久しぶりだな。慣れない」

　体格差から見て白亜は圧倒的に不利なのだが、そんなことは簡単に覆してしまう。

「ハクア……武器を抜け」

　ヒノイは片手に片手剣を、もう片方に盾を持ち、構える。それに答えるように流れるような動作で白亜の腰からゆっくりと村雨が抜かれる。

「行くぞ」

　白亜が村雨を左手に持ち、間合いを一気に詰める。ヒノイは盾でガードする。が、

「甘いですよ！」

　白亜の村雨が水滴を撒き散らせながら盾を抵抗なく斬り飛ばす。そのままの勢いで右手に持っていた鞘を持ち上げて顎をうたせて脳震盪を起こす。

「神経が分断するからあんまりやりたくなかったんですが。ヒノイさんなら寸止めは無視するだろうと思い、強行手段を取らせてもらいました」

「から……だが、動か……」

「神経が分断してますから」

　ヒノイを担いで場外まで運ぶ白亜。

「ここなら大丈夫ですね」

『つ、強い！武の王の師匠！何て強いんだぁ！』

　周りから歓声が上がるが白亜は聞いちゃいない。

「あと、4人」

　後ろに来た男を場外に投げ落とす。

「3人」

　ジュードが容赦なく蹴り飛ばして場外に。

「………2人」

　最後には、ジュードと白亜が残った。

「師匠。凄いですね」

「まさか俺たちが残るとはな」

『し、師弟対決だぁ！目が離せない！』

　ジュードはチコと一緒に詠唱を開始した。

「「精霊達よ！雨を降らし、雷を轟かせ、突風を巻き起こし、この場に嵐を巻き起こせ！精霊の嵐(スピリッツ・ストーム)」」

　ジュード達を中心にして嵐が巻き起こる。白亜に雷が襲い掛かるかと思われたその瞬間、

「ジュード。魔法ってな。斬れるんだよ？」

　白亜の村雨がとてつもない早さで振り抜かれると、雷が中心から斬れ、一瞬激しくスパークした後、何事もなかったかのように消え失せた。

「ははは……師匠には敵わないや」

「ハクアつよーい！チコももっと強くなって今度見返してやるんだから！」

　ジュードが場外に降りて残っているのは白亜のみとなった。観客席からこれまでとは比べ物にならないほどの大きな歓声が上がる。

「あー。やだ。目的忘れそう……」

　ここに来たのはコロシアムに出場するためではなく、あの遺跡の答えを探しに来た。ダイは既に忘れている。

「師匠格好良かったですよ」

「ですよ！」

　ジュードとチコが白亜に話しかける。

「止めてくれ……」

　白亜のライフは大分削られているが。

「って言うか何でシュタウツストに？」

「それはーーー」

『それでは優勝者！前にどうぞ！』

「ハクア！ゴー！だよ！」

　チコに引っ張られて前に出る白亜。その顔は深くまでフードが被っていて見えにくいが真っ赤だ。

『お気持ちをどうぞ！』

「え、えっと……」

「ハクア、嬉しいって！」

　なにも言ってないがチコがそう解釈したのでそうなった。

『それでは優勝商品の授与です！』

「そんなのあったんだ……」

「何がもらえるかはお楽しみ、なんだよ！」

　チコがくるくると飛び回る。司会者が奥から出てきた。

『今回はなんと！魔法付与のペンダントだ！』

「へー」

「ハクア！前に出るんだよ！」

　何故かチコに先導されながらペンダントを受けとる。

『このペンダントの効果は不明！これから見つけてください！』

　じゃあ判るまで優勝者に渡すなよ。と白亜は思った。

『これにて拳闘大会は終了！また会えるまで！』

　観客達の歓声を聞きながら白亜は闘技場から降りていったのだった。

「これ結局なんだろ？」

「不思議な形をしているな……」

　ダイと合流した白亜はコロシアムの地下をうろうろしていた。

「って言うかここに前からあるならあんな遺跡必要ないんじゃ………」

「師匠！ダイさん！お疲れ様です！」

「ジュードか。なあ、ここの地下って何があるか知ってるか？」

「え？控え室くらいしかありませんよ？」

「だよなー」

　やはりもう既に誰かが遺跡を解いてここで見つけてしまったのではないかという線が強くなる。

「さっき聞けなかったこと教えてもらえませんか？」

「ああ、えっとな……」

　白亜はジュードと別れてからの事をすべて説明した。

「師匠が勝てない魔族……」

「ああ。魔法は効かないわ、実態のないルナを攻撃できるわで格が違った。今回逃げられたのは運が良かったからでしかないし」

「でも遺跡ですか……コロシアムの歴史は結構古いですからね」

「ちょっと気になることがあってさ。控え室全部見られない？」

「大丈夫ですよ。今の時間は使ってませんから」

　幾つもある控え室を順番に見ていく白亜。すると、通路の柱をじっと見て、

「これ……遺跡にもあった素材だ」

「む？わかるのか」

「多分だけど……」

　辺りを見回し人が居ないことを確認した白亜は武空術で浮き上がり、柱をくまなく見回す。

「これだ。で、ここかな」

　ぶつぶつと呟き、軽く叩く。とは言っても白亜の軽くは軽くない。空手家が思いっきり殴ったときの用な音がして、その直後、地響きのような音がなる。

「おおー。隠し扉だ」

　隠し扉が開いた。柱の最上部に。

「空飛べないやつは来る資格ないってってるのか？」

「行ってみるぞ！」

　ダイはこの仕掛けを見てからとたんにテンションが上がった。

「なんかじめじめするな」

「地下の地下とはこれの事だったのか」

　地下からさらに地下に移動しているので確かにそうだ。因みにジュードは王族の仕事があると言って帰ってしまっている。

「開けた場所についたな」

「ふむ。古代文字だな。白亜、読めるか？」

　ダイは普段一緒に居るのに未だに古代文字が読めない。

「えっと……」

　そこに書いてあったことは今まで隠されていたある魔法の事だった。この魔法がなんだったのか、どこで使われるかはまだまだ先の話である。