「ハクア君が、そういうなら私も手伝うよ」
ジャラジャラと透明な鎖が無機質な音をたてる。
白亜は首をコキコキと回しながらアンノウンを片手に次はどう動こうかと考えていた。
なにも考えずに適当に相手をすると下手すれば加減を間違えるので普段から気を抜けない。
『一旦下がりましょう。後は防御に専念すればいいだけです』
(それもそうだな)
シアンの言葉に小さく頷いてから鎖を消してリンの真横まで下がる。
「あれ? ハクア君やらないの?」
「加減を間違えそうで怖い」
「そういうことね……」
リンが杖を掲げて何かしら呟く。すると氷の弾が頭上に出現した。空が埋め尽くされるくらいのものである。
「おお。腕をあげたな」
「私だってちゃんと特訓してるんだからね」
リンがくるんと回しながら杖を下ろすと競技場全体に雹が降り注ぐ。白亜達のところにも勿論きているが全て白亜が弾いているので安心だ。
やろうと思えば雨の降るなかで雨粒全てを手で弾いたりすることも可能なのでこれくらい朝飯前だろう。
数秒の雹の嵐の後に舞台に立っていたのは白亜とリンの二人だけだった。これに対応できるものなどほとんどいないので当然だろう。
しかも普通なら自爆攻撃として使われるこれを白亜に相談もせずに使ったリンの度胸はさすがの一言である。
白亜を信じきっているからか自分の上に雹が飛んできても無反応だった。勿論白亜は全て弾いたがよほど信頼していないとそんなことはしないだろう。
自爆魔法を無断で使うリンと、それを見ても普通に対処できる白亜の超人さがここでよくわかる。
昼休憩の時間になった。
リンも白亜も昼の時間では混むと予想して早めに売店でパンを購入していた。
「なんでハクア君はこの大会に出ようって言ったの?」
ずっとリンはそれが疑問だった。白亜は基本面倒そうなことはしないのでいつもの行動に比べれば自分から進んでこういうことをやるのは相当珍しい。
「……いや、折角だし。俺がまたこの世界に来たって知れたらよくも悪くも有名になるだろうし……自由な時間が好きだから」
白亜がどの国に所属するかでこの世界の運命が決まると言っても過言ではないくらいの力を持っているのだ。
今は身内にしか話していないが、存在が公になってしまえば白亜を利用しようとする輩も当然現れる。邪魔だと排除しようとするものもいる。
そうなれば今まで以上に好き勝手はできないだろう。
こんな風にどこかのお祭りの腕試しの大会に出るなど不可能だ。
「あっちで俺のことを面倒見てくれた人はちょっと特殊な仕事に就いてる人だったんだけど……見ず知らずの俺を拾って自由に育てさせてくれた。仕事を手伝えとかなんて一言も言わなかった」
仕事を手伝うと言い出したのは白亜である。ヨシフ達は色々と謎な白亜を疑いもせずやりたいことをさせてくれた。
何でも屋という裏の職業の一組織でありながら、誰よりも自由でどこよりも優しかった。
「俺はやりたいことをやることができる時間が嬉しいだけなのかもしれないな」
リンにはそれはとても喜ばしい響きの言葉だった。
何があっても動じないクールな白亜もいいが、やはり心の底から笑えるようになって欲しいとずっと願っていたのだ。
何年も一緒にいたからこそそう思うのだろう。
白亜が本当に楽しそうにする時間は楽器を持っている時間だけだった。戦闘中の笑みは別とする。
あそこまで穏やかな表情を普段から浮かべることはまずない。
心の拠りどころと呼べるものがあれしかなかったのだ。それが気がかりで仕方なかった。いつか、楽器以外のものにもあれだけの興味を持てるようにはなってくれないのだろうかと。
楽器を弾く姿は美しい。だがその美しさはいつまで続くかわからないのだ。一つの事にしか集中出来なくなってしまうのは危険だ。
もしもそれまで信じていたものが崩れ去る瞬間があるならば、そのダメージは普通の人の比ではない。
楽器を信頼しすぎなのだ。
「ハクア君が、そういうなら私も手伝うよ」
だが、今は違う。白亜が自分から動き出そうとしているのだ。
風景を気にして歩くだけで世界は違って見える。
白亜が見ていたものがどれだけ狭い範囲のものだったのか、それを白亜本人に知ってもらえたらこんなに嬉しいものはない。
白亜の世界を広げる役目ができるのだから。
「そろそろ次の試合始まるから行こう」
「ああ」
たとえ白亜からなんとも思われていないとしても。
自分は白亜にとっての新しい風景を作り、案内することが喜びだと、そう今は思い込むしかない。
当たり前のように勝ち進んだ。この二人に勝てるものはいないだろう。
残りの試合は基本リンの最初の一撃で全員吹っ飛ばされただけなので割愛する。
優勝商品の青いコインを指で弾きながら町の中心に目を向ける白亜。
「リン、覚えてる? 俺と会った日のこと」
「勿論」
最初、リンはキキョウにビビりまくりだった。
その時の話をしながらクスクスと笑いあう。
「あの時はまさかこんな風に一緒に冒険者やるなんて想像してなかったよ……」
キィン、とまた青いコインが空を舞う。
「それは私もだよ……まさか弟子が王族の6歳の師匠って」
「目立ちすぎたのは理解してる」
『目立ってたどころではなかったとおもうのですが』
「うっ……」
それは言わないお約束だ。
だがファンクラブのことだったり、目立ったお陰でいいこともあったので結果オーライといえるだろう。
「あの時はその場の雰囲気で私も冒険者になるって言っちゃったけど、間違ってなかったって今なら思えるよ」
「どうしてだ?」
「……ナイショ!」
リンの鞄からウサギの縫いぐるみがピョコンと顔をだしていた。




