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「それは不可能です」

 今回もリクエスト番外です。今回は白亜と再会する前のジュード達のお話です。


 それと、前回の後書きに今回の予告をしましたが「再会」が「再開」になっていました。何を再開する気だったんでしょうね。訂正しました。


 それと、リクエストまだまだ受付中ですよー。

「またあの男爵が交渉に来たぞ」

「またですか……」


 ぐでっと机に突っ伏するジュード。その机には大量の紙が綺麗に積まれ、ちょっとしたオブジェにも見える。


「あの人は税金を誤魔化した経歴があるから駄目って言ったじゃないですか」

「某も何度も説明している」

『聞く気なーし』


 チコがくるくると回る。気楽なものだ。


 こんなとき、白亜ならどうするだろう、と考えない日はない。白亜が居なくなってから5年が経とうとしていた。思った以上に悲しむ時間が少なかったのは忙しさと白亜ならそのうちひょっこり帰ってくるだろうという根拠のない確信があったからだ。


 もしこれで死んだのがリンだったのならもっと悲しんでいるだろう。


 ペンを置いて部屋の壁際にある刀を見る。白亜が帰ってくるまでずっと置かれている愛刀。


 あまりにも切れ味がいいのと、あの刀は人を選ぶような使いづらさがあるので結局あれを扱えるのは白亜一人だけなのだ。


 刀にも良し悪しというものは当然あり、使いやすいものや癖が強いもの、極端に重いものなど様々だ。


 白亜の愛刀、村雨はその中でもとびきり癖の強い刀だ。それは使い方に慣れていない者が持てば自分を傷付けてしまうほどだ。


「いつ帰ってくるんでしょうね、師匠……」


 皆待ってますよ、と聞こえてなどいないと判りつつも呟く。


 娯楽の町ハクア。名前なんて後で良いだろ、と適当に返答してくれた白亜への嫌がらせの意味も込めてつけた名前だ。


 しかも町の中心には白亜の墓を堂々と【英雄の眠る場所】として設置しあろうことか広場にしてしまっている。


 数年後これを見た白亜があまりの恥ずかしさにここを消し飛ばそうとしてちょっとした事件(全然ちょっとではない)が起こるのだが、それはまた別の話。


「ですから、貴方はこの町には入れられないんです」

「何故だ⁉」

「何回も言ってるじゃないですか! この町にはルールがあるんです!」


 追い返そうと何度もそう言うがまるで聞き入れてもらえそうにない。


 そもそもこの町のシステムを作った本人が不在中なので正直に言えばジュード達もこの町のルールを完璧に記憶できているわけではない。


「ではルールを変えればよかろう!」

「それは不可能です」

「不可能、だと?」

「僕の師匠がこの町を作った際、管理者パスワードも全て自分で設定されてしまったので僕らには変えることはできないんです」


 実は、管理者パスワードはジュードも知っている。それくらいのことは白亜だって教えているのだ。


 だが、楽譜の読めない人に大量に音符の書き込まれた楽譜を渡して楽器で弾けと言っても無理なように、ジュード達も理解ができなかったのである。


 自分にしかわからないやり方でやり通す。白亜はやはり白亜だった。


 なんとか押し返したがまたいつ来るだろうか。


 娯楽の町と呼ばれているだけあってそれなりの娯楽施設は町のなかに揃っている。


 カジノや温泉、競技場。娯楽の少なかったこの世界には相当珍しい場所と言えるだろう。特に食べ物が充実している。


 和食に洋食、様々な地方の郷土料理が各店にあり、至るところにファストフードの移動販売が行われている。


 食べる量は少ないくせに妙に味に拘った白亜のせいである。


 だが、それだけ栄えていれば当然良からぬ事を考えた人も出てくる。


 賭けに負けて暴れだすくらいならまだ可愛いものだが、移動販売馬車に忍び込んで食べ物に毒を入れようとしたり、スリが多発したり、最初の頃はそれの鎮圧で休む暇などなかった。


 だが、ここで役にたった人達がいた。そう、ハクアファンクラブの会員達である。


 有能な彼女らの働きにより、そういった事件は一気に減った。


 権力でのさばろうとする輩にはジュードが出ていき、町内の治安にはファンクラブの会員達が一役買い、戦力で町を狙った者にはダイ達が数人戦えば全て終わっている。


 白亜の配下達は権力も戦力も一流なのだ。


 そして驚いたことにハクアファンクラブの人たちは全員ジュードと同じようにいつか白亜が帰ってくることを当然のように待っている。


 普通に考えたら死んだ人が戻ってくるなんて話は言葉にしただけで笑われるような突拍子もない話だろう。


 魔法のあるこの世界でも死んだ人を生き返らせるということは禁忌で、絶対に不可能なことだと知られている。


 それでもなんの疑問も持たずにただ待つことを平然とやってのける彼女らは本当に尊敬に値する。









「ジュード君。書類確認終わったよ」


 部屋に入ってそう言うと、ジュードが書き物をしている途中の体勢のまま眠っているのが見えた。


 リンは小さく笑ってから近くにあった膝掛けをジュードの肩にかける。


 椅子の上にそっと書類を置いてから建物を出て夜の町の中を進む。


 魔力で動くランプが眩く光り、星に負けない程の明かりを町中に満たしている。


「あ、リン!」


 どこからか声をかけられた。キョロキョロと見回すと真下から声がもう一度自分を呼ぶ。


「リン! こっちだって!」

「ミーシャ。ごめんね」

「別にいいわよ。小さいのはわかってるし……。ほら、お詫びがしたいなら肩にのせてよ」


 コロポックル族の彼女は元々ここハクアの町を囲っているエリウラの森の先住民の小人だ。


 小さすぎるが故に魔物と混同されることもあり、精霊魔法が使えないリンの種族、ニンフと同じく迫害される立場にあったために話が合い、今では親友である。


「ミーシャはどうしたの?」

「今日はおじじの誕生日だからお酒でも買っていこうかなと思ったんだけど買ったお酒を弟が全部飲んじゃって……なんとか新しいのを買いに行くとこ」

「そっか。私も付き合うよ」


 酒屋さんに歩を進める。


 コロポックル族は皆小さい癖に大酒のみが多いので小さな酒場で譲ってもらえる分では明らかに足りないのでちゃんと専門店を選んだ。


 樽を10個(一日で飲みきる)購入し、リンがアイテムボックスに樽を入れて運ぶ。


「ハクア、遅いわね」

「そうだね……」


 もう五年だ。元気ならそれでいいんだけど、と軽くため息をつくリン。


「せめて連絡くらいしてよ………」


 白亜なら可能だろう、と頬を膨らませる。実際可能だったのに白亜は連絡を取らなかった。忘れていたわけではない。恐らく。きっと、そうだと思いたい。


「そうだ」

「どうしたの?」

「私がハクア君を迎えにいっちゃえばいいんだ!」

「えっ?」


 リンはその日から一人、何かを部屋で調べ始めた。


 白亜の持ち物や読んでいた魔法書を、ただひたすら読み込んだり実践してみたり。


 その研究中に4度ほど火事になりかけたということだけは、白亜にも秘密である。

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