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「………絶対、と言えるか?」

 賢人がやって来たのはとあるマンション。インターホンを鳴らすと男性の声が中から聞こえてくる。


「はい」

「賢人だけど、今いるよな?」

「? ……ああ、そういうことか。いるけど。入る?」

「お願い」


 かちゃん、と扉を開けたのは隆だ。賢人の後ろにいる松本を見て少し驚く。


「どうしたの、隆……ああ、賢人くん、いらっしゃい」


 更に遅れて出てきたのは優奈だ。この二人既に同棲を始めていてそろそろ結婚するのではないかと噂されている。


「今、いい?」

「いいけど、そちらの方は?」

「上司の松本先輩。先輩、こちら高校の時のクラスメイトの隆と優奈です」


 軽く紹介を済ませて中にいれてもらう。


 リビングに繋がる扉を開けると、目の前にあったテーブルの前で静かにお茶を飲んでいる男がいた。


 机の上にはキセルが置かれており、その風貌から余計に人形のように見える。


「………賢人、久しぶりだな。明日くらいにそっちに行く予定だったんだが……何かあったのか?」


 振り返りもせずに鈴の鳴るような透き通った声でそう訊いてきた。


「はい。前言っていた『解析』のやり方を教えてもらえないかと思って」

「そういうことか……。それは構わんが……」


 コトンとお茶を置いて初めてこちらを向く。死んだような目ではあるものの、触れば切れそうなほど鋭い目はほんの少し柔らかかった。


 ちらりと松本の方を見る。その視線で賢人は白亜の言いたいことを理解した。


「松本先輩なら、大丈夫です。信用できます」

「………絶対、と言えるか?」

「はい」


 数秒目を瞑った白亜は小さくため息のような呆れた声を漏らす。


「………そこまで言うなら、信頼しよう。ただ、もし何かあった場合お前が困るんだからな。……理解しているか?」

「勿論です」

「なら、いい」


 白亜はスッと立ち上がって美しく礼をして見せる。所作一つ一つに無駄がなく、また音もしないので完璧にしか見えない。


「失礼なことを申しました。私は賢人の師で名を白亜と申します。松本さん、でよろしかったですか? 賢人がお世話になっております」

「え、あ、はい……名前って名乗ってないですよね」

「玄関先で話しているのが耳に入りましたので」


 白亜の異様さに圧倒されていると、賢人が松本を椅子に座らせる。


「白亜さん。解析ってどうやるんですか?」

「……解析はそれほど難しいわけではない。準備が面倒なだけだ。……何を知りたい」

「ひったくり犯を捕まえたいんです」

「ある程度の資料は?」

「あります」


 部外者にそこまで教えてはいけないのでは、という書類まで渡してしまったので松本が声をかけようとした。


 その瞬間、白亜は書類を一気にバーッと捲っただけで直ぐにそれを返してきた。


「え? 読まないんですか?」

「………それくらいなら、今ので読めます。……そんなしっかり見るものでもないですし」


 速読の域を越えている気がする。


 白亜は渡した手をキセルに伸ばしてそれを口にくわえながら首を傾けた。


「賢人」

「はい」

「これ、解析するまでもないだろう」

「はい?」


 訝しげに目を細める白亜。地図のページを開くように言い、キセルでコツコツととある場所をつついて見せる。


「え、なんですか」

「多分次はここが狙われるだろ」

「「へ?」」


 白亜の顔を凝視する二人。一体何を言っているんだ、とすら思っているが白亜のことなのでもう既にからくりを暴いている可能性が高い。


「いろは、ときたら『に』だろう」

「ちょっと待ってください。一から説明してもらえませんか」

「一丁目、六丁目、八丁目」


 え、そういうこと? そんだけ? そういう疑問符が頭に浮かぶ。


「日にちも5月6日、5月21日、5月23日。そのまんまだろう」

「どの辺がそのまんまです」

「6-5=1、21-5=16、23-5=18。一の桁が同じ数字だ」

「「ああ‼」」


 誰も日付を引き算しようなんて思わないだろう。なにかの記念日なのかとか考えていた自分がアホらしく思えてくる。


「じゃあ、次は……」

「二丁目の5月27日である可能性が高いだろうな。若しくは6月に入るかもしれんが」


 白い煙を立ち上らせながら面倒そうな表情をしつつ、


「まぁ、少し注意深く見ておくべきだな。どうやら犯人は相当焦っているようだからどこかでボロは出るだろうし」

「相当焦っている?」

「やり方が杜撰だからな。せめてなにかしら直ぐバレないようなカモフラージュはするべきなのに」


 小さくあくびをする白亜。なにかしらの確信があるようだ。


「なにかわかったんですか?」

「どう見たってなにかしら使って(・・・)いるだろう、これは」

「まさか、リグラートからの⁉」

「それはないと思う。俺が気づかない筈がないからな。そこ自体は星の数ほどもあるんだからどっかからの客人かもしれんな」


 目が少し細くなる。キセルを手の中で弄びながら慎重な声色で、


「……準備はしておいた方がいいだろうな。何かあったら俺を頼ればいいが、出来るだけ自分で対処した方がいいだろう。この件で俺が言えるのはここまでだ。これ以上は情報不足だよ」


 たった数秒で見抜いた白亜。その言葉通り、5月27日に二丁目の駅付近でひったくりがあり、現場で張り込んでいた賢人がそれを見つけて現行犯で逮捕した。








「あの人、凄かったね」

「?」

「ほら、賢人君の師匠さん」


 初めて松本に連れられて訪れた居酒屋で再び料理をつまみながら話をしていた。


「白亜さんですか」

「そう。なんであんなに直ぐにわかったんだろうね?」

「まぁ、あの人の頭のなかは僕らには理解できない事だらけですから」


 出来が違うんですよ、と笑いながらそう言う賢人に、


「ちょっと無愛想な所もあったわね」

「そうですね……白亜さんを一言で言うなら『規格外』ですし」

「顔も綺麗だったし、体も良い具合に鍛えてるみたいだったし」

「ええ、そうですね……」


 話がなんだかおかしな方向に進んでいきそうな予感がする。


「ねぇ、今度もう一回改めて紹介してくれない?」


 やっぱりか……。そう、頭を抱えるしかない。


 さて、ここで言ってしまうべきなのだろうか。隠しておいたほうが良いのではないだろうか。数瞬悩み、打ち明けることにする。


「松本先輩」

「なに?」

「白亜さん………女性です」

「へ?」


 間の抜けた声が静かな店内に寂しく響き渡る。


 どうやらまた一人、犠牲者が増えたようだ。

 とりあえず元日本組編はここまで!


 次回は主人公と再会する前のジュード達のお話になります。それとリクエストまだまだ受付中ですよー!


 一人複数出していただいても構いませんので気になったことがあれば教えてくださると嬉しいです!

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