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白亜VS魔族!その2

 白亜の愛刀、村雨が水滴を撒き散らせながら魔族の短剣とぶつかる。


「面白い形状だね。その武器」

「はぁ、はぁ」

「人間って疲れやすいからねー。じゃあどんどんいくよ?」


 白亜の頭上を短剣が通過し、白亜の髪が少しだけ切れる。その間に白亜は村雨を右手に持ち、滑らせるように斬る。魔族は手に持っている短剣で受けるが、その直後、短剣が綺麗に切断される。


「おお!切れ味が凄いねそれ。鉄でも切れるんだ」

「カハッ」

「また血吐いちゃったね。もう僕のコレクションを傷つけたくないんだけどね」


 白亜の足元には吐血した血が散乱している。


「まだ……まだか!」

「さっきから呟いているけど、仲間でも呼んだの?」


 白亜の目の焦点があわなくなってきた。


「はぁ……はぁ」

「下手したら死んじゃうなー。本気を出さないと殺られそうなのに本気を出すと殺しちゃうって僕どうすれば良いのかな」


 村雨に気力が宿る。蒼白く発光していく。


「身体強化に回してるからこんだけしか……でも、こうするしかない!」

「魔法じゃないね。困るよー。コレクションは大事にしないとー」


 白亜が村雨を振るう。魔族は当たり前のように短剣で受けるが、先程とは全く違い、抵抗無く綺麗に切れてしまい、刃が魔族に当たる。


「ぅああああぁぁ!」


 魔族の右腕が血を吹き出しながら落ちる。白亜は同時にそこから離れたが、着地できずに転んでしまう。


「くそ……もう間に合っても体が動かねぇ……」

「い、痛い!痛い!」


 魔族が地面を転がっていたと思ったら急に動きが止まる。


「グッ……痛いけど、生えるんだよね」

「………!?」


 白亜の目の前で無くなった腕が再生する。


「なっ!?」

「まさか腕を切り落とされちゃうとはね……正直甘くみていたよ。まさか人間にこんなことができるなんて。でも、もう僕の勝ちだ。そうだろう?君はもう動けないんだろ?」


 白亜の顔に絶望の色が広がる。


「あはは!いいね!その顔は実に良い」

「俺は……ここで捕まるわけにはいかない!」


 白亜が叫んだ瞬間、白亜の回りに光が集まり、発散する。魔族に襲いかかるように広がるが、魔族は下がる事で回避する。


「えっ!?」

「なんだこれ……魔力が回復していく」


「白亜!」


 ダイの声がした瞬間、白亜の体が魔族の前から消える。ダイが白亜を自分の近くへ移動させたからだ。


「ハクア様!」

「ハクア君!」


 シャルルやキキョウも戻ってきてしまった。


「なんで……早く逃げーーー」

『終わりました!』

「来たぁ!」


 死にかけていた筈の白亜が突然叫んだ。


「なにが?僕から逃げられないよ?」

「そうでもないさ」


 白亜が笑みを浮かべた。左目は右目のように黒曜眼に変色していた。


「転移」


 その言葉を発した瞬間、白亜達の体が光って消えた。




「転移魔法………?」


 後には魔族が残された。


「あはははは!面白い!いい!凄く良い!」


 魔族は頭をおさえ、笑い転げていた。


「僕のコレクションを全部失ってもあの子が欲しい!あの子に比べたら他の物なんて何も要らない!」


「あの子が欲しい!」


 魔王、レイゴットの笑い声は洞窟内に響きわたっていた。





「ハクア様……」

「大丈夫だ。ここまで疲労していても休めば問題ない」


 白亜にはあの時、転移するための魔力のみ残し、左目の調整を終わらせるまで戦っていた。

 転移には座標を完璧に覚える必要があり、外でないと基本的に使えない。そこで白亜の左目の魔眼だ。これには透視と遠視が含まれており、それの能力を底上げするために黒曜眼にしたのだ。


「ギリギリでしたね……ここは?」

「判らぬ」

「え?」

「白亜ができる限り残っている魔力で飛ばしたからここがどこかなのかも判らぬ」


 シャルルごと転移したのでいつもよりは飛距離は延びないはずだが、魔眼がある白亜が瀕死の重傷を負っている以上、どうにもできないと言うのが実際のところである。


「なんで………」

「キキョウ?」

「なんでハクア様を助けてくれなかったのですか!?」


 キキョウがダイとルナに向かって叫ぶ。


「キキョウ……」

「貴方が自分の本当の姿を見せてでも守ればこんなことにはならなかった!違いますか!?」

「………」

「ハクア様が危険なときに助けに呼んでくれなかったのは何故ですか!?」

「………」

「ハクア様は心はともかく体はまだ幼いのですよ!?だから、ハクア様ならなんとかなるとか考えてーーーー」

「俺が言ったんだよ。キキョウを呼ぶなって」


 白亜が起き上がろうとして、痛みに顔をしかめ、起き上がるのをやめる。


「ハクア様……どうして」

「俺が死にかけたら間に入ってくるだろ」

「勿論です」

「だからだよ。お前じゃ、あいつにすぐに殺されて終わりだ」

「っ!でも!」


 白亜は少し服を捲る。白亜の体には所々斬れた痕があり、そこから少し血が出ている。


「わかるだろ?攻撃が直接当たらなくてもあいつは攻撃できる」

「それはーーー」

「キキョウ!」


 白亜が怒鳴り付けた。


「お前なら、判るだろう?俺は周囲が危険に侵されるのを一番嫌ってるって」

「……はい」

「なら、もう判るだろう?俺があいつと戦った意味が」

「……はい」


 白亜が戦った意味はキキョウを、シャルルを、ダイを、ルナを逃がすための行為でしかない。白亜は自棄という選択をとり、何とかして時間を稼いだのだ。


「ハクア様は!ご自分を低く見すぎです!」

「………」

「貴方がいなくなったら一体どれだけの人が悲しむと思いますか!?」

「それは………」

「私なら、ハクア様が死んだら後を追って死にます」

「なっ!?」

「それだけの覚悟なんです!貴方は私を嘲笑っているんですよ!私だけではないです!ジュード様も、リン様も!貴方を大切に思っている皆さんを嘲笑う行為なんですよ!?」


 白亜はもう真っ黒になってしまった目を向ける。


「私たちの身は自分で守ります!貴方もご自分を守ってくださいよ!」


 キキョウは泣き出してしまった。


「………えっと。ごめん。考えが浅はかだった」


 まだ泣いている。この言葉1つですぐに泣き止めるなら嘘泣きだろう。


「キキョウ」

「……?」


 白亜はキキョウの唇に自分の唇を重ねた。


「……!?」


 キキョウは、拒まなかった。


「………これでいいか?」


 なにが良いのか不明だが、キキョウも何も言わないのでこれで良いのだろう。


「まさか白亜がそんなことをするとは……某、驚愕だ」

「妾もまさか白亜からやるとは……思っておらんかった」


「お前らの俺の評価どうなってるんだよ……」




 白亜は魔眼を使って調べる。


「ここ……教会かな」

「教会?」

「座標決めてなかったからこれはラッキーだったよ」


 下手なところに転移したら命はない。熔岩の中とかも有り得るのだ。そういう事故が多かったからこそ、この世界から転移魔法が廃れた理由のひとつなのだが。



「今は人が居ないみたいだ……もう使われてないっぽい」

「そうか……今日は折角とった部屋が無駄になったがここに泊まらせてもらおう」

「それがいいの。シャルルも居る事であるし」


 結局白亜達はそこで寝ることにした。


(あの光はなんだったんだ……?)


 魔族に捕まえられそうになったとき、突然出た光。あの光が白亜の魔力を回復させたお陰でなんとか転移できたのだが。


(調べる必要があるな……あれがなんなのか)





 次の日になっても白亜の体は動かなかった。


「仕方ない……あれだけの間身体強化を使い続けていたのだからな。今日は休むと良い」

「すまないな……特に目が痛い」

『いきなり準備無しで黒曜眼にしたのですから、無理もありません』


 白亜の目はもう元には戻らない。確実にこれから目立ってしまうのを承知の上で魔眼を強化したのだから白亜はもう気にしていないが。


「じゃあ、依頼を受けに行ってくるぞ」

「別にいかなくても良いんだけどな………」

「行ってきまーす」


 早々に出ていった。


「ハクア君……その、ごめんね?」

「なにが?」

「私が居たからあの洞窟にハクア君が行かなくちゃならなかったし、私が奥に居たから逃げなかったんでしょ?」

「まぁ、そうだけど」

「私のせいなんだ……」

「なんで?」


 互いに顔を見合わせる。とはいっても白亜は目を瞑っているが。


「だって私が居たからそんな怪我を……」

「俺が好き勝ってやった結果だ。シャルルは関係ない」

「でも……」

「いいの。今回の事で色々気づけたし」

「気づけた……?」

「俺は弱いって事が判った」


 白亜は天井の方に頭を戻す。


「前回と今回と……何も変わってないじゃないか。俺は」

「ハクア君……」

「前の時は自爆したけど」

「自爆!?」

「言っただろ?俺は死んだ過去がある」

「生き返ったの?」


 恐る恐る白亜の方を見るシャルル。


「違うよ。生まれ変わったってのが近いかな」

「転生ってこと?」

「そう言うこと。前世では好きかってやって死んだ。周りに迷惑をかける形で」

「そんなこと、無いと思う」

「え?」

「ハクア君がそれだけ大事に思ってるならきっと前世の人たちもハクア君を大切にしてくれるよ」


 目を瞑ったまま少しだけ笑う白亜。


「クク。そうかもな」

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