「大丈夫。きっとうまく行くさ」
ボロボロの村をいくつも通りすぎる。
「ここから先はまだええんやけど今まで通った道は全部戦争に使われてん」
「使われるってどういうことや?」
「要するに囮や。あっちもいつ襲われるかわからへんから、回りの村を全部壊してからデカイ町に行くんや」
「エンの町もか?」
「せやで。でも無人だとそういう時間稼ぎもできんで、年寄りと子供ばっか残されてあの様や」
エンも思うところがあるのか少し悔しそうな表情をする。
何とかしてあげたいとは思うものの所詮伊東はこの世界の人間ではない。この世界のルールに首を突っ込める立場でもないのだ。
「先生」
「なんや?」
「これ、くれへんか?」
リシャットのカードを差し出しながらそう言う。
「………ええで」
「ええんか?」
「俺が師匠にどやされるだけや。まぁ、多分大丈夫やろ」
リシャットに申し訳ないと思いつつそう言った。リシャットとしても死蔵しかけていたものなので良いといえば良いのだが。
「ありがとう。大事にするわ」
「エンはやりたいことあるんか?」
「ない。けど、強くなりたいんよ。強くなって、戦争を終わらせる」
伊東はワシャワシャとエンの頭をなで、
「がんばりや」
「任せとき。絶対に強うなって見せるで」
ずいぶんと頼もしいエンの言葉に苦笑いをするのだった。
「あ。あそこ!」
「着いたな。なんていうところなん?」
「城壁都市マーノインや。この国の首都でもあるで」
人の出入りは少ないがちゃんとあるようだ。エン以外の人間を初めて見た。
門などで出入りが制限されているかと思いきや、ガッツリ開いていた。夜に閉めるくらいで、そういう門の前で出入りの確認をするわけではないらしい。
「広いなぁ」
「うちの村の10倍はあるらしいで」
「そうなんや」
街道はよく整備されている。すると、突然怒号が響いた。
「待て、クソガキッ!」
「誰が待つかっ!」
男の子がやけにガタイの良い男に追いかけられている。
普通に考えたらすぐに追い付かれそうだが子供の足が異常に早く、そして体が小さく人混みに潜り込めるために大人を翻弄している。
そのままどこかへ走り去っていってしまった。
「くそ、ぜぇ、ぜぇ……うちの商品盗んでいきやがった………」
どうやら泥棒だったらしい。だが、周りの人たちはそれについて無関心。まるで日常茶飯事のように振る舞っている。
「先生。行こう」
伊東もそれを少しばかり見ていたが袖を引っ張られて我に返り、また歩き出す。
「泥棒捕まえんでもええんか?」
「ここではこれが普通なんや。生きるためには盗むしかないんやで」
「………さよか」
子供の服が汚れていたことを思いだし、そう言うしかなかった。今行ったとしても間に合うはずもないので仕方ないのだが。
「戦争で皆食べ物もお金もないんよ。住むところも少ないから、ああいう人が多いんや。一回盗まれたらもう二度と帰ってこんと思っとき」
だからなのだろうか。既にエンはカードを服の裏ポケットに移動させていた。
「じゃあ――――」
「やっと見付けた!」
エンに疑問を投げ掛けようかと思った瞬間、透き通るような声が辺りに響く。
聞こえた方に顔をやると、人形のような出で立ちの子供が立っていた。
「リシャットさん!」
「よかった………そろそろ三桁いくところだった」
「何が?」
「お前探してあっちこっち行ってたんだよ………本当にキツかった」
金髪に青目スタイルのリシャットだが、かなり服などの汚れが目立っていた。
「すいません」
「弁明は後で聞く。……俺も助けられたしな」
そっぽを向いてそう言うリシャットはエンの存在に気付き、一瞬眉を潜め、その直後に少しだけ目を見開く。
「その人は?」
「ああ、偶々会ったんよ。俺が勝手につけたあだ名でエンって呼んどる。エン、この人が俺の先生や」
「よ、よろしく」
へぇ、と呟いた。その顔は何故かなにか腑に落ちたような表情だった。
「………よろしく」
リシャットは挨拶してからすぐに伊東に顔を向けた。
「伊東。早くでないと時間がない。正直あと数分が限界だ」
「なにが」
「俺の体が持たない。帰るぞ」
突然そう言われた。エンがかけより、
「一緒にいきたい!」
「すまない、それは無理だ」
「なんで………」
「規則で送ることが出来ないんだ」
リシャットに連れていけないかと伊東も頼み込もうと思ったのだが、
「…………透けとらん?」
「だから早くしてくれと言ってるんだ。このままじゃ俺は消える」
「それはよ言わんかい!」
リシャットは消えかけている手でエンの手を握って、小さくささやいた。
「いいかい、ここから少し大通りを進んだ先に一人の少年がいる筈だ。赤い帽子を被っているから直ぐにわかるだろう。その子に『奪還を手伝いたい』と言いなさい」
「え?」
「それできっと助けてもらえる。………っ、時間がない。すぐ帰るぞ」
一瞬ふらついて伊東の手を握るリシャット。
「大丈夫。きっとうまく行くさ」
そう、エンに一言かけてから嵐のように消え去った。
気がつけば、見覚えのあるリシャットの部屋だった。
「あの別れ方はないと思うで」
「かもな。けど、彼は大丈夫。俺が保証する」
「根拠は?」
「あの人、俺の生前の仲間なんだ。よく先生という人がいるとは聞いていたが、お前だったとはな………変な喋り方なのも納得した」
「変ってなんやねん」
伊東がジト目でリシャットの顔を見ると、リシャットは小さく笑った。
「あいつの後の名はヴォルカ。俺の所属していたルギリア傭兵団の二番目のメンバーだ。俺の前に入ったからな」
「そうなんか?」
「まぁな。それにしても、ヴォルカのカードを真似て作った玩具がヴォルカのカードその物とは。偶然って面白い」
じゃあそれは誰が作ったんだということになりそうである。




