「罰当りじゃないですか⁉」
足に包帯を巻きながらリシャットが欄丸に話し掛ける。
片手では包帯は中々巻けないので欄丸に手伝わせながら、だが。なぜか怪我の処理はリシャットより上手いのである。
リシャットの場合、治るからいいか、みたいな感じで適当にやっているだけだ。
「その腕、どうするつもりだ」
「戻すほどの力は俺にはない。暫くはこのままで落ち着いたら義手でも作るよ」
ポーションをかけたので切断面だとかは少しは再生しているが、無理矢理にやったので大きく削られたかのような痕が残ってしまっている。
「いいのか、それで」
「俺が決めたことだ。俺の好きにするさ」
「そう言うとは思ったが」
ため息をつきながら包帯を切る欄丸。
「痛いときはそう言え。背中をさするくらいはできる」
「背中さすってもなんの解決にもならないと思うんだけど……?」
地味にリシャットの空気読めない発言が炸裂する。
「気分の問題だ」
「へぇ」
「そんなことより、これ痛くはないのか?」
「痛いよ?」
それにしては平然としているリシャットの態度に眉をひそめる。リシャットは小さく笑って、
「今はちょっと体を弄ってて、感覚が少し鈍る代わりに痛覚をギリギリまでカットしているんだ。それでも痛いものは痛いけど、まぁ、ナイフが刺さってるくらいの痛みだから動けないこともないさ」
「………それで動ける方も異常だと思うのは自分がおかしいのか?」
欄丸は正常である。異常なのはリシャットだ。
「それで、さっき話したように頼むな」
「構わんが、それで何が起こっても責任は取れん」
「大人とはいえ狼にそれを求めはしないから安心しろ。ただ、お前ができる範囲でトラブルとかに対処して欲しい」
全ての傷に応急処置を施し、その場で少し動いて解けたりしないか確認する。
「よし、こんなもんか。………頼んだぞ」
「…………死ぬなよ」
「………それフラグだっての」
小さく笑いながら部屋を出る。欄丸は救急箱を片付けながら、またひとつ大きなため息をついた。
「なんでいるんだよ」
「だって私のパートナーがいなくなったんですよ。責任くらい感じてます」
「どちらにせよ清水は連れていけないし、行ったとしても途中で帰ることになるかもしれない――――」
「それでいいです。お願いします。私にも、相棒を探させてください」
「…………何があっても知らないからな」
「はい!」
屋敷をでたら、門の前に清水がいた。
清水にも少なからず責任を感じているリシャットは渋々清水の同行を認める。
「ところで、どこ行くんですか?」
「島根」
「え?」
「島根だ」
「思ったより近いんですね、異世界って………」
「誰が直接探しに行くと言った。今から行くのは協力者のところだ」
携帯を触り、一瞬苦虫を噛み潰したかのような顔をするリシャット。そしてそれをそのまま耳に当てる。
「………リシャット・アルノルドです。はい、ええ………ああ、お願いします………はい、では後程………」
通話を早々に終えたリシャットはそれをポケットにしまって歩き出す。
「いまのって? さっき言ってた協力者ですか」
「そうだ。っていうか電車賃あるか?」
「ええ、なんとか」
「そうか。じゃあ行くぞ」
駅から駅、少し歩いてまた駅から駅へ。
電車に揺られ、そろそろ清水の酔いが限界まで来たところでやっと到着した。
「あ、帰りの分のお金ないので後でATM行っていいですか………」
「別にいいけど………大丈夫か」
「吐きそうです………」
今にも死にそうな声を出す清水に少し呆れるリシャット。
「頑張れとしか言えないな………酔いを治す手立て無いし」
車酔いですら治せない自分に少しだけ腹をたてつつ、痛みを訴える右腕に鞭を入れる。
「そんなことより目的地だ」
「え? ここって………神社ですよね」
「そうだ。出雲大社………大国主大神のいる、神無月に神達の集う場所」
「縁結びの神様………でしたっけ?」
「そうだな。とりあえず参拝するぞ」
え、なんで? と疑問の声を漏らす清水を完全無視し、手を洗いにいくリシャット。平日の微妙な時間帯なので人は殆どいない。
「あの、なんでここなんです?」
「協力者がここにいるからだ」
「ここで働いてるってことですか?」
「あー………うん。まぁ、間違ってはいないかな」
鳥居の前で一礼をしてからスタスタと歩いていってしまうリシャットに急いでついていく清水。
片足を引き摺っているような歩き方なのにどうやったらあの速度が出るのだろうか、不思議でならない。
「っていうか参拝する必要あるんですか?」
「一応な」
「え」
「なんだ、何がおかしい」
「縁結びの神様ってことは、そういう出会いを求めているんですか」
「違う。正直そんなのどうでもいい」
さらっと言ってのけるリシャット。清水はますます参拝する意味がわからなくなっていた。
暫く歩くと巨大な賽銭箱が見えてきた。そろそろ結婚したいと考えている清水は財布からお金を取り出そうとした。が、それをリシャットが遮る。
「え、参拝するんじゃ」
「するけど、これをいれろ」
リシャットが渡したのは少し汚れた硬貨だった。リシャットの分と清水の分の二つある。
「なんですかこれ」
「とある国の金だ。これが合図になる」
「?」
「なんでもいい。とりあえず入れろ」
よくわからないまま箱に入れる。リシャットもそれを確認してから自分の分を中にいれ、律儀に柏手を打ち、礼をする。
清水も慌ててそれにならい、顔をあげるとリシャットが目を細めて近くの茂みを見ていた。
「どこ見てるんです?」
「………あそこ。茂みの乱れが不自然だ」
「わかんないです」
「だろうな」
茂みなんてそこまでまじまじと見ない。
「行くぞ」
「へっ⁉」
リシャットはその直後、そこに向かって歩き始めた。
「そこ、立ち入り禁止じゃ」
「だな。見つからなきゃいいだろ」
「罰当りじゃないですか⁉」
「かもな」
言っていることとやっていることが真逆である。
するとリシャットは困惑している清水になにかを投げた。
「それ付けとけ。こっから先は本来普通の人は入れない」
「いや、そりゃ立ち入り禁止なら入っちゃ駄目ですよね⁉」
「そういう訳じゃないんだけど。まぁ、それがあれば大丈夫だ。早くつけろ」
リシャットが投げたのは銀色の指輪だった。結婚指輪のようにも見えるそれには小さく文字が刻まれているが清水には全く理解できないものだった。
「それは周囲の環境から装備者を守るものだ。効果は12時間で使い捨てだからそれより先は壊れるから注意しろ」
いったいどこにいくつもりなのだろうか。一抹の不安を覚えながらも、それを中指につけるのだった。




