一周年記念番外 その2
「ということでまたこぼれ話をすることになったらしいぞ」
『最近私の出番が減ってきた気がするので私が司会を致しますね』
【そんなキャラでしたっけ……?】
『いつもマスターの台詞は映りますが私の台詞あんまり書かれていないんですもの』
「作者が面倒臭がってるからな……」
【え、そういう事だったんですか?】
「らしいぞ?」
『さて、気をとり直してこぼれ話その2です。マスターにお便りが届いておりますよ』
「手紙? 俺にか?」
【えっと、サヒュイ・レイルさんという方ですね】
「ああ、俺の同級生だな。サヒュイさんがなんて?」
『マスターには見て欲しくないと』
「なんで?」
【恥ずかしいんですって】
「ああ、成る程。確かに同級生に見られるのはちょっと恥ずかしいよな。じゃあ俺は席を外すぞ。終わったら呼んでくれ」
【はーい】
『今回はサヒュイ様視点でお届け致します。読者様も何故サヒュイ様がファンクラブ会長になったのか、その話は割愛されていたので気になっていたご様子でしょう』
【たとえ誰も気にしていなくてもそういう体で進めていきます】
『この話は丁度学園編の最初から最後まで、16話から53話までですね』
【ではサヒュイさんにバトンタッチをします。それではどうぞ】
『あ、それ私が言いたかったのに―――』
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この学園には様々な種族が揃っていますわ。
エルフや獣人、人間、混血や純血。本当にこの学園は他国との勢力争いに巻き込まれることなく他種族が平等に学べる素晴らしい場所です。
私はその中でもドワーフ、しかも純血種ですの。ドワーフの純血は貴族の証で私はこれでも王族の一人ですのよ。
しかし、ここに入るときに名を変え、只のドワーフとして入学しましたの。王族の名で行けば恐らく上のクラスへと行けたでしょうが、私は目立つ気は御座いませんので。
それにしても物凄い人だわ。護衛もつけずにこんな人の多い中を歩いたのは初めてですので、少し緊張してしまいますわね。
とにかくここを出るまでの数年間、贅沢と平民臭さは我慢、普通の学生でいて見せますわ!
まずは言葉遣いですわね。ですがこれ以外にあまり喋り方を勉強していないものですので急には変え辛いですわ。
暫くなれるまでは少し無口な女の子を演じると致しますわ。
「きゃっ!」
「おっと。大丈夫ですか?」
平民臭さのする場所を避けて歩いていたら前方からそんな声が聞こえてきましたの。興味が湧いたので少し見てみたのですわ。
「お怪我がなくて良かったです」
そう言って自分からぶつかってきた女の手をとって立ち上がらせている方に目を奪われましたわ。
顔は俯いていた上に少し前髪が長かったのでよく見えなかったのですが、一瞬見えたその人形のような顔立ちに芸術品を観たときのような感覚に陥りましたわ。
心臓が止まったかと思ったのですの。
「えっと、大丈夫、ですか………?」
「へ?」
鼻を触ってみると血が垂れておりましたわ。なんという無様な格好でございましょう。
ですが、そんなことは気にもなりませんわ。あの方を調べなければ!
その後彼は近くの男と共に歩いていきましたの。その相手は私もよく知っているあの武の王でしたのよ。
本当に驚きましたわ。あんなにもか弱そうな小さな男の子が噂に聞く第二王子の師だなんて。
こうなったらあのクラスに入るしかありませんわね。
私は自分のクラスに入り、覚える気もない教師の名や説明を聞き流しながらあの方のことをずっと考えていましたわ。
ああ、なんという神々しいお姿でしょうか……。ま、また血が……。
「それではテストを開始しますので―――」
いつの間にかテストが始まっていましたわ。気合いをいれなければ。
入学試験はかなり適当に受けたのでこのクラスに落ちましたが、本気を出せばきっとあのクラスへと上がれますわ。
それであの方との接点を………。
私は死に物狂いで筆記を終え、実技に入りましたの。
魔法なら負ける気はしませんわ。
「君が僕様の相手かい? 宜しくね、お姫さま」
なんだか偉そうなデブが私の相手ですわね。ああ、汚らわしい。あの方のイメージに入ってこないで頂戴。あの方が汚れますわ。
「では、はじめっ!」
そんな声が聞こえてきましたのでこんなデブと相対したくもない私は直ぐに詠唱を開始、電気でこんがり焼いてやりましたわ。
ププッ、豚の丸焼きですわね。
「そ、それまで………なぁ、こいつ医務室運ばなくても大丈夫か?」
焦げ臭いですわ。審判がこちらを見ていますが私は知ったことではありませんわ。あの方のクラスにいかなければならないのですから。
ただ、気遣わないのも私に品がないように見えますわね。少し心配してやるくらいの動きはしましょうか。
そうこうしているうちに治癒魔法を使える者が来て豚を回復しましたわ。別にそのままでも良かったと思うのですが。
「く、くそ………僕様が、負けた……」
恐ろしいほど弱かったくせに何を言っているのです? 超初級のウォーターボールで私に勝てるなどと付け上がっていると今のように痛い目見ますわよ。
「だい、じょうぶ………?」
こんな豚を気遣うつもりもないのですが一応声はかけておきましょう。後で問題になっても困りますわ。
「強いね」
「そんなこと、無いよ………?」
言葉を選ばなければならないのでゆっくり話すしかありませんわね。まぁ、そのうち慣れますわ。
「僕様のメイドの条件は僕様より強い女なんだ。僕様に勝った責任、とってくれるか?」
はぁ? 何を言っているのですかこの豚は? 私がメイド? ふざけるのも大概に………ああ、あの方のメイドなら喜んで引き受けますが、この豚は論外ですわ。
「ごめん、ね?」
「………僕様に恥をかかせる気か?」
あ、これ面倒くさいやつですわ。もう一発同じ魔法を喰らわせてやりましょうか。
「はいはいそこまでー。次の人詰まってるから早く端に寄ってねー」
おお、ナイスタイミングですわ。担任。
名前はなんでしたか…………あの方のことを考えていて聞いていませんでしたわね。眼鏡でいいでしょう。
ありがとうございます眼鏡。助かりましたわ。口には出しませんが。
私はさっさとここから離れますわね。豚が鬱陶しい。
女子寮に入れば豚は追ってはこれません。急いで駆け込み、息を整えます。私用で走るなど王家の者としては失格ですが今回は許してもらいましょう。
部屋は…………?
後ろになんだか視線が集まっていますわ。私は背が高くないのでしゃがんでそれを見てみましたの。
「あ…………!」
叫びそうになってしまいましたわ。はしたないですわね。仕方がないのですわ。あの方が居るのだもの。
女子寮に!
隣にいるのは………あのクラスの女ですわね。私ほどではないですが顔も可愛いと評判な上、あの種族の有力人物ですもの。調べていて当然ですわ。
それよりも何故彼が………? 特例で許されるのでしょうか………?
私なりに調べた結果、彼は………いえ、彼女でしたわ。女性でしたの。それでもあのお顔を見る度に息ができなくなるような緊張が走るのはなぜなのでしょうか。
その夜、私の部屋に誰かが来ましたの。
「はい」
「サヒュイさん、これを」
渡されたのはあのクラスへのクラス移動を命じられた紙でした。当然ですわ。
「どうしますか? このクラスに残ることも出来ますが」
「い、いえ………行きます。行きたい、です」
行きたいですわ! そう言いかけてしまいました。危険ですわね。我慢しなければ。
「そ、そうですか。ではここにサインを」
サインを書き、部屋の扉を閉めて…………その後何をしたのかはご想像にお任せしましょうか。ふふ。
それからは素晴らしい日々でしたわ。
ハクア様に初めて話しかけたとき、初めて話しかけられたとき、少し勉強を教わったとき、体の使い方を教わったとき………全て録音録画は勿論、コピーをいくつもつくって無くさないようにいろんな場所にしまいましたの。
もしここの部屋にハクア様が入ってきたりしたときに思いを寄せている事が露見しないように勿論全て隠してありますわ。
縫いぐるみの中ですとか。
「サヒュイさん、サヒュイさん?」
「はっ⁉」
「寝不足ですか………?」
「いえ、ちが、あの」
ハクア様に見つめられるとどうしてもハッキリと見返せないのですわ。夏休みで何があったのか教えてはくださらないけれど両目が黒く染まってしまっているのもミステリアスでまた………
「?」
ああっ! そんな目で見ないでください! 貴方が汚れますわっ!
「熱でも、あるんですか……?」
手が‼ ハクア様のお手が‼ わ、私の額に‼
「い、一生洗えませんわ…………!」
「? 熱はないかな…………?」
つい声が漏れてしまいましたが聞こえてはいないご様子ですわね。良かったですわ。
ハクア様はたまに突然によくわからない行動をとるので要注意ですわね。そこもまた良いのですけど‼
それと、ハクア様の癖の一つが本当に可愛らしいのですわ!
私はハクア様をじっと見つめます。
「サヒュイさん………?」
まだまだ見つめます。
「えっと、どうしました………?」
そろそろ、もう少しですわ。
「は、恥ずかしいのでそんなに見ないでください………」
来ましたわ! ハクア様のデレ! ハクア様は自分が見つめることには抵抗がないのですが他人に見られるのが苦手なのですわ。
本当に可愛らしいですわ。今、ちゃんと録画してあるので問題はないですわよ。後で見返しましょう。
ハクア様は少し斜め下を見て体を縮こませ、まだ私が見ていないかどうかチラチラと確認するのですわ! その時の表情がまたなんとも言えず………! しかも下を向いている状態ですので上目遣いになるのですわ!
エクセレント! 最高ですわ!
「え」
ああ……、頭がくらくらしますわ。熱がこもりすぎて………
「あ、ちょ、サヒュイさんが……」
おろおろしている姿も素敵ですわ………
「どうしよう……とりあえず涼しいところに」
ハクア様が私の後ろにまわって………へ?
「よいしょっ……と」
お、お姫さまだっこぉぉっぉおおお⁉
「さ、サヒュイさん⁉ 嘘、気絶した⁉」
我が人生に一片の悔いなしですわ……………!
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『………なるほど』
【な、なんかシアンさんが怖いんですが】
『マスターを好いていたのですね。当然です』
【なんか思ってたのと反応が違います】
『なんです、私が怒り狂うとでも?』
【マスターの相手は私です! 位は言うかと】
『ななななにを言ってるんです⁉ わ、私はただの、の、能力ですよ⁉ マスター風に言えばぷ、プログ、プログラムですよ⁉』
【動揺しすぎですよ】
【絶対に可能性がないとは言い切れないと思いますけどね? 天使と悪魔が結婚することだってあるし神が離婚することだってあるんですからそう考えれば無理ではありませんよ?】
『無理ですよ⁉ 例が極端過ぎます!』
【そうですかね? でも、形を持たない思念体が体を持つ方法は無いわけではありませんよ?】
『なんですかそれは! 今! 今すぐ教えなさい!』
【わ、ちょっと、おさな………グハッ】




