ドラゴンとの対決!
「えっと。迷子かな?」
18歳ぐらいの女性ギルド職員に最初そう言われた。ダイが声を出さずに爆笑している。場は弁えるようだ。
「登録なんですけど‥‥‥」
「あっ!ごめんね!?この前迷子になっちゃったってここに来た子が居たから!」
「いえ、いいです‥‥‥それで、登録ってできますか?」
「保護者さんは居るかな?」
白亜はこの場で唯一人間の大人に見える召喚獣をじっと見る。未だ笑っている。
「いません」
「いや、その人だよね!?」
突っ込みが入る。
「気にしないでください。保護者って絶対必要ですか?」
「読み書きできる?」
「一応は」
「なら大丈夫ね。これ読める?」
白亜は薄めの冊子を渡されたのでパラパラと見る。
「あ、読めないかな?」
「有り難うございます。大体覚えました」
「え」
「速読は得意でして」
流石は名門校首席である。
「読んだの!?」
「はい。用紙をいただけますか?」
「本当に読んだんだ‥‥‥はい、これに記入してね」
用紙とはギルドカード発行申請書だ。先程渡された冊子に登録までの手順が書いてあったのでそれをそのままなぞった用な行動に驚いているギルド職員。ダイは未だ笑っている。
「これでどうですか?」
白亜は年齢に6、所属にランバート学園、名をハクア、戦闘に両手剣、精霊魔法、備考に召喚獣、水精霊、火精霊と書いた。
「召喚獣と複数精霊。凄いのね。それともしかして戦闘系の依頼を受けるつもりなの?」
「駄目だとはさっきの冊子に書いてなかったと思いますが」
「この後戦闘試験を受けてもらうことになっちゃうわよ。大丈夫?」
「はい。戦闘は得意なんです」
「そう‥‥‥変える気ない?」
「?ありませんが」
実は冒険者は戦闘系の冒険者と非戦闘系の冒険者に分かれる。戦闘系の冒険者は何でもランクさえあえば受けられるが、非戦闘系の冒険者は戦闘依頼は一切受けられない。
「まぁ、子供なら試験官も手加減するよね‥‥‥」
最後物騒なことを言って去っていった。書類を提出するらしい。
「ダイ。いつまで笑ってんの?」
「いや、面白くて‥‥‥!」
「はぁ‥‥‥」
『大丈夫ですよ。試験なんてジュードとの訓練に比べたら生ぬるいものですから』
『そう言うものかな‥‥‥』
先程の職員の呟きが気になって仕方ない白亜。
「おい!お前か!俺の試験を受けたいって言う奴は!」
奥から出てきた筋肉がバルドよりある職員にダイが掴みかかられていた。
「あの、私なんですけど‥‥‥」
「子供か!?ふざけるな!」
何故か怒られた。
「え?あの」
「子供なんかに時間を割かれてたまるかってんだ!」
「ええー‥‥‥」
「ガキ。あそこに居るやつを倒したら俺が試験してやってもいい」
「どなたですか?」
「あの一番奥のやつだ!馬鹿野郎!」
一番奥のやつって言うと確実にこの中で一番の手練れである。
「あの人に了承は?」
「俺がとってやる」
「わかりました」
確かにこの中では強いだろう。だが、ジュードの方が白亜には強そうに見えた。
「あの人なら、なんとかなるかな‥‥‥」
白亜の呟きは誰にも聞こえないほど小さかったが確信を持った口調であった。
「非殺傷魔法が掛かってるからな。好きなようにやれ。リグ」
「ふん!ガキのお守りかよ。報酬はきっちり払ってもらうからなぁ!」
「あらら。まだ開始も言ってないのに」
突っ込んできた。白亜はその一瞬で相手の弱点を魔眼で見抜く。
「少々右肩が上ですね」
「だからなんだってんだああぁぁぁ!」
手を振りかぶって白亜の鳩尾目掛けて突きだした。
「テレフォンパンチですか?」
あまりにモーションが大きすぎる。白亜位なら空気の流れを予測するだけでどこにどう来るのか判ってしまう。白亜は避け続ける。
「なんで当たらない!?ガキの癖に!」
「それこそ関係ないじゃないですか?いいですよ?終わらせましょう?」
白亜の足が消えた瞬間に白亜の数倍の重さはありそうな男が鼻血を吹き出しながら真横に吹き飛んでいった。壁にぶつかり、少し壁がへこんだ。
「はい。終了!じゃあ試験官!お願いします!」
白亜の目は戦闘時の輝きを放っている。
試験官は飛んでいったリグと言う男と白亜を交互に見る。顔は驚愕の色に染まりきっている。
「さ!やりましょう?あの人はそんなにでしたけど‥‥‥試験官って言うからには相当強いんですよね?最近あんまり歯応えある人居なくて。召喚獣はきまぐれだし、精霊達はまた戦闘方法が違いますから!楽しみです!」
白亜は別に楽しみではない。博識者にこう言えと言われているからだ。こうすれば相手は白亜のことを少しは恐怖し見直すだろうと。
「え‥‥‥あ‥‥‥」
「さ、さ!」
白亜の目はきらっきらだ。子供らしい目付きになっている。子供だが。
「ヒ、ヒイイィィッ!」
もう恐怖所ではない恐がり方だ。
「えっと。やらないんです?」
「あ、ああ。あいつに勝てるならご、合格だ」
戦ってないが。
「え?あ、ラッキーってことですか?そうですか。じゃあ今度お手合わせお願いしますね」
そう言って去っていく白亜の背を怯えきった顔で見送る試験官。この事は後にギルドの失態として語られることになる。これのお陰で子供だからと下を見られることが激減したらしいが、それは白亜には関係のない話である。
「終わりました」
「君‥‥‥何者なの?」
「あ、見てました?」
「見てたけど、どうやってやったの最後」
「?蹴っただけですが」
白亜は軽く蹴っただけ。ジュードの方がよっぽど強かったと今更ながら感じる白亜。まぁ、この二人が異常なだけだが。
「それで、登録はどうでしたか?」
「え、ああ。問題なく出来たわよ。これね」
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・ハクア(6)
・ランク1
・人間族
・水精霊・火精霊・召喚獣あり
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ランクは数字らしい。
「おお。ギルドカード」
「無くしたら500エッタかかるから気を付けてね」
1エッタ=100円なので5万円だ。結構高い。
「はい。仮眠室って?」
「今日使いたい?良いわよ。最初だからサービスね」
こうして白亜達は寝床をゲットした。
「んー。寝れたね。でも今日からどうしよう」
1日凌いだだけだ。
「まぁなんとかなるかな」
楽観的だ。
「おはようございます」
「あら。おはよう。寝られた?」
「はい、有り難うございました」
ちょっと話しているとあのリグとか言う男が見ていた。白亜は勿論誰が見ているのかさえわかっていたが。
「白亜。これなんかどうだ?」
ダイが依頼ボードを見ていた。
「どれ?」
ドラゴン退治だった。
「ランク足りないでしょ?」
「不問と書いてあるぞ」
ランク不問だった。
「でもなるべく沢山こなす方を優先しないと。宿がとれないんだから」
「それはそうだが‥‥‥」
白亜が行ったら一瞬でドラゴンが葉やら根やらで大変なことになってそうだが。
「それを受けるの!?」
職員が気づいた。
「某はこれがいいのだが」
「数こなさないと仮眠室とれないから無理だって」
「その為に依頼受けるの!?」
「はい」
ギルドにはその為に来たのだ。
「君だったら倒せると思う?」
「さぁ。分かりません。いけるとは思いますが」
白亜の敵で今のところ一番苦戦したのはあの魔族だ。とは言ってもそれでも十分手加減していたのでいまいち本人にも限界が分からないのである。
「じゃあもし倒せたら一週間分の仮眠室利用券あげる!」
「やります!」
あっさり乗せられた白亜も白亜だが、子供に勧める職員も職員である。
「あっちだな」
「白亜。某少し疲れたぞ」
「言い出しっぺがなに言ってんだよ」
白亜達は依頼を受けるために岩山を登っていた。とは言っても。命綱なしのほぼ垂直の壁である。所々垂直は越えてしまっているが。究極のボルダリングだ。全員空は飛べるが。
「ハクア。竜はこの上に居るのか?妾、少し不安なのだが」
「居るよ。魔眼で確認したから。間違いない」
こういうとき本当に便利である。
「白亜。飛んではいけないか?」
「見られたら困るだろ」
片手のみで岩にぶら下がる白亜。よくそんな体力が在るもんだと感心できるレベルではない。
「この世界じゃ空飛べるのは余程高位の魔法使いじゃないと出来ないらしいし」
「むむむ」
白亜はどんどん進んでいく。その後からダイが追う。下級精霊に変身している二人は精霊ならば浮いていてもおかしくはないので普通に飛んでいる。
「そうか!某ももとの姿に戻ればーーーーー」
「あほか!こんなところに黄龍が現れたら大混乱どころじゃすまないぞ!竜だって逃げちまう」
「むむむ」
白亜にあほと言われたのが嫌だったのか、空を飛ぶ許しがでなかったから渋っているのか。
「ついた。ここからは念話オンリーでいこう」
『ハクア様。この先に泉があります』
『ああ。音と匂いがするな』
『そこから潜り込んでみましょうか』
『いいと思います。偵察がいれば何かしら事が進むと思います』
『博識者もそう思うか。よし。頼んだ。キキョウ』
キキョウは早速ウンディーネに戻って水に入っていった。
「ぐおおおぉぉ‥‥‥ぐおおおぉぉ‥‥‥」
ランドドラゴン。土魔法を使うドラゴンだが、下級のドラゴンとして有名なドラゴンだ。
ーーーランドドラゴンーーー
・土魔法を使うドラゴン
・攻撃力はそれほど高くないが鱗は下級のドラゴンの中では最も固いとされている
・空を飛ぶことは出来るがあまり飛ばない
・鱗は防具に使うと防御力がかなり上がる
・縄張り意識が強い
ーーーーーーーーーーーーーー
ランドドラゴンは白亜達が近付いていることも知らず昼寝をしていた。
『ハクア様。此方は準備完了です』
『了解。ダイ』
『某も魔力充填完了した』
『そのまま待機。ルナは?』
『問題なく。ハクアの指示でいつでも行けるぞ』
『確率は97%位か?』
『はい。私は98%だと思いますが』
この確率は一撃でランドドラゴンを仕留めることの出来る可能性の確率だ。
『よし。開始!』
白亜の合図でキキョウが地下水を大量に呼び出した。
「ぐ、グオオオォォ!?」
ランドドラゴンはようやく気がついたがもう白亜の罠からは逃れられない。キキョウが水の壁を作り出す。ランドドラゴンが逃げ出そうとするが鉄を簡単に両断出来る程の威力の水に阻まれて身動きがとれない。
そこにルナの炎の攻撃が入る。水と炎で反発し合い、霧が発生する。
「ランドドラゴンが引いた!ダイ!」
「任せておけ!」
ダイが手に溜めていた電気を一気に解放する。霧に電気が通り続けランドドラゴンがなす統べなく感電する。
「我の魔力の前に大地はなすすべなし。地面を切り裂き仇なすものに正義の鉄槌を!地割れ!」
白亜の魔法が炸裂する。この魔法の詠唱は本当は倍くらい長い。白亜は誰にも教えていないが詠唱を短くする方法が有り、それを使っている。いつか無詠唱で魔法を使いそうである。
ランドドラゴンが落ちた。底にある剣山に身体を貫かれて死亡した。落ちるだけでなく下に剣山を設置した白亜も白亜だ。相変わらず敵にはえげつないことをする。
「死んだな」
「あっさりだった」
「そうですね」
「妾、もう少しやりたかったの」
ダイ、白亜、キキョウ、ルナの順でランドドラゴンの様子を見に来る。
『こんなものでしょう』
『もうちょっと粘るかと思ったけどな』
下級のドラゴンなら瞬殺可能な白亜のパーティ。普通なら冒険者が20人は絶対に入り、半数以上は死亡すると言われるドラゴン退治が僅か数分で終わってしまう程の攻撃力の高さを誇る既にギルド有数のパーティになっていた。
「終わりました」
「え?嘘!」
依頼を受けてから二時間ほどで帰ってきた白亜を見て女性ギルド職員は驚く。
「誰かに手伝ってもらったの」
「精霊と召喚獣に」
自分の戦力のみだが確かに手伝ってもらったと言える。
「そ、そう。言えないのね」
ギルド職員は変な方向にその言葉を捉えてしまったが。
「報酬って貰えますか?」
「え?ああ。良いわよ。討伐部位は?」
ランドドラゴンの討伐部位は1枚だけある逆鱗だ。
「はい」
「確認してくるから待っててね」
白亜は1人でボーッと待つ。ダイ達は依頼を受けるのが楽しいのか依頼ボードの前で次は何をするか選んでいた。普通は白亜が決めるような物だが。




