「死んだぞ?」
キリのいいところで切ったので短めです。
気付いたら250部入りましたね。もう直ぐ連載始めて一年ですし……。
番外編でも書こうかなと思ったり思ってなかったりします。
書かなかったらごめんなさい。
「どうする? やる? やらない?」
意地悪い笑みを浮かべるリシャット。先程までなら苛立ちを覚えていただろうが、今はそれどころではない。
「全然見えなかった………まさか気力に瞬間移動が………」
「あ、これは瞬間移動じゃない。それに気力で瞬間移動は多分やる前に気力枯渇するから無理だと思うよ? 空間系って相当力使うから」
出来ないこともないとは思うけど、と付け足しながらポキポキと左手の指をならすリシャット。
「ここまで見てればわかるかもしれないけど、俺、昔右腕怪我したから右腕はあんまり動かないんだよね。精々軽い荷物運べるくらいだ」
肩に手をやりながら労るように優しく撫でるリシャット。
「ま、そんなのはどうでもいい。全員の戦闘能力を見たいんだ。そうだな………十分。十分以内に俺に傷を付けたら君らの勝ちってことにしよう。折角だから賞品あった方がいいよな」
なんかあったかな、と一瞬首を捻って鞄に手を突っ込む。
「ん………あ、これでいいや」
シャラン、と綺麗な音をたてながらリシャットが取り出したのは気力で作ったチェーンのブレスレットである。
「「「⁉」」」
「これでどう?」
「そんな高価なもの⁉ なんで持ってるんだ⁉」
「これ高価なのか? ………ああ、でも前売ったやつは100万越えたな、そういえば」
なんでもないことのようにさらっと言うリシャットは自分の腕にそれをつけながら、
「これを俺からとったら勝ちってことにしよう。その方がやる気出るだろ?」
等と、とんでもないことを言い出した。それに先程、『何をやってもいい』と明言している。つまり、不意打ちでもなんでもいいから俺からこれをとってみろと言っている。
リシャットにとってはあまり価値のない物でも他人からしてみればとんでもないお宝である。
「………本当にとったらくれるの?」
「ああ。俺は冗談は言っても嘘は言わん。少なくとも今この時はな」
教師達が互いに目を見合わせて陣形を組む。
やる気になったようだ。元からやらなければならないという感じはあったが、それに火がついた感じだ。
「やぁっ!」
剣くらいの長さの棒を振り抜くが、すんでのところで躱されて小さく舌打ちをする。
だが、それも思い違いだったらしいとその直後に気付いた。
すんでのところで躱しているのではない。わざとスレスレで回避しているのだと。
「余裕だ、な‼」
「んー、まぁ、余裕があるってのも間違いではないな。だが、俺はこういう戦いかたってだけだ。当たると思った攻撃と牽制の攻撃じゃ力の入れ具合も剣筋もかわる」
ひょいひょいと軽やかに跳躍して少し距離をとる。その行動でさえ洗練されていて着地でも音が一切しない。
「本当に何者だよ………」
「さぁ? 俺も知りたいね」
挑発するような笑みを浮かべながらもなんだか楽しそうである。
「じゃあこっちからも少ししかけてみるかな」
小さく呟き、だらんと腕を下げる。明らかに力を抜いているその様子に全員が疑問符を頭のなかに浮かべた。
「んー………これは無理だったか」
次の瞬間、耳元で聞こえた声に全員がぎょっとする。どこから取り出したのか、芯を出していないシャープペンシルを前衛二人の首筋に当てている。
直ぐにそれをポケットに仕舞い、仕掛けてくるように促すも誰一人とリシャットのギリギリで躱すスタイルを崩すこともできなかった。
ピピピ、と軽やかな電子音が広い格技場に鳴り響く。
「十分経ったか。………まぁ、予想していたほど酷くはなかったが酷いことには変わりなかったな………」
ズケズケと心に刺さる言葉を平然と口から垂れ流すリシャット。その周りには武器を持ったままぐったりと地面に突っ伏す大人達がいた。
「いやー、お見事」
「………あんたも参加すれば良かったのに」
「連携の訓練なんてもう何年もやってませんからね。足手まといになるだけですよ。特に貴方と戦うなら、ね」
「………ふーん」
ゼェゼェと荒く息を吐く大人達を一瞥し、何かを考えるように目を瞑る。
数秒後に目を開き、手に付けていたブレスレットを鞄にしまった。
「はぁ、はぁ………完敗ってこういうことを言うんだな………正直舐めてた」
「俺はこんな体だしな。無理もない。別にその辺はどうも思ってない」
どうも思ってないというより、慣れただけなのだが。
「あんたのこと、教えてもらえるんだろ?」
「それは構わないが、必然的に俺に扱かれることになるぞ?」
「それはもういいよ。敵わないってわかったし、何より私たちも強くなりたいしね」
「せやなー。これでも生徒を守る義務があるからな」
もうその辺りは諦めている様子だ。
「そうか………。じゃあ一応言っておくが。俺は今世はリシャット・アルノルド。以前は揮卿台白亜という名だった。宜しく」
「「「………………は?」」」
さらっと告げるリシャットになに言ってるんだ、とでも言いたげな目を向ける。
「いや、死んだやろ」
「死んだぞ?」
「じゃあなんで生きてるの」
「所謂輪廻転生だな。ちょっと裏技使って記憶を持ったまま転生した。因みに今世は四度目だ」
色々とぶっとんだ説明にただ口を開けて聞くしかない。
その後も何度も質問と応答を繰り返すが誰もが冗談だと心のどこかで思っていた。
「そうだな………ん」
グッと手を握り、その手を開くと半透明の宝石のようなものが握られていた。先程のブレスレットと同じ物である。
「「「えええええええ⁉」」」
「これが何よりの証拠だろう? 俺はこれを力さえあれば作り出せる。ま、これ自体は脆いから色々と材料は必要だがな」
手の中からザラザラと水のように宝石が溢れ出すその光景にただただ衝撃を受けていた。




