「どこ見てんの?」
もうすぐテスト週間が始まるので更新物凄い遅くなります。
休憩でちょくちょく書いていくつもりですがもしかしたら再来週まで行方不明になるかもしれません。
「………いいんじゃないですか?」
一瞬目を瞑って考えを纏め、さらっとそう言うリシャット。
慌てたのは周囲である。
「いや、君今日のラインサッカーちょっと見てたけどそんなに運動神経良いわけじゃないよね? やめておいた方がいいって」
「いえ、どちらにせよ実力は見ておかないといけませんし」
「なんかめっちゃ上から目線やな、この子………」
コキコキと左手を動かしてのびをする。
「岡村さん。どこでやれば? 人目がつかない場所がいいのですが」
「格技場がありますので、そこで」
「了解です」
さっさと移動を始める二人に混乱した教師達が止めようと必死だ。
「危ないからやめた方がいいって」
「この子二年生でしょ? 気弾教えるのだって中等部からなのに⁉」
「絶対やめた方がいいですって、校長!」
背後からそんな風に言われ、小さくため息をつくリシャット。
「やっぱりこういうのが普通の反応だよな……。俺の周囲が特殊すぎるんだな、多分」
「いや、一番特殊なのは貴方ですからね?」
否定できないので無言で肩を竦めるリシャット。
『ですよねー』
(シアンまで言うか……。まぁ、わかってるけど)
止められても平然と歩く岡村とリシャットに困惑しながらも後ろからついてくる。
格技場に到着し、カーテンを閉めきって外から見えないようにするリシャット。
「もし、今ここに魔獣が来たら、どんな格好で戦います?」
「え? えっと………そこに入っているやつだけど? それは小さいから自分用のやつだけどね」
カーテンを閉めながらそう訊くリシャットに代表して一人の教師が答える。リシャットが引き出しを開けると長物の槍のようなものや籠手などが入っていた。
「………自分の得物、持ってきて貰っても?」
「はっ⁉ 危ないからダメだよ⁉ 刃もあるし」
「なら尚更好都合です。持ってきてください」
「え、えええ…………」
有無を言わさないようなリシャットに引き気味になる教師達。
それを見かねた岡村が、
「いいじゃないですか。持ってきてください」
「………校長がそうおっしゃるなら………」
渋々武器を取りに行く教師達の背中を見ながら少しため息をつくリシャット。
「どうされました?」
「力の純度が低すぎる………。あれじゃあ気弾連発はキツそうだな」
「? 私に分かるように教えてはいただけないでしょうか」
「んー…………純度が低いと消費する気力が全然違う。少し見てみろ」
リシャットは両手を突き出し、気弾を発生させる。色は両方とも蒼白いが、右の方が少し色が暗く、濁っている上に小さい。
「右手の方はかなり雑に作ってみた。使っている気力は両方ともほぼ同じだが、左の方が当たったときの衝撃が大きく、また扱いやすい」
右と左で倍ほどの大きさがある。それほど純度というものは大切なのだろう。
「これは普段から気力を練らないといけないんだが…………見た感じやってないみたいだな」
「お恥ずかしながら………」
「いや、仕方ない。俺が死んでから大分時間が経っているんだ。うまく練習方法も伝わらないのが当然だろう」
フッと両手の気弾を消し、小さく欠伸をするリシャット。
「くぁ………まぁ、あの人達にやる気があれば色々と教えるさ。やる気があれば、な」
「なら、最悪私だけでも」
「ええー………」
ずいっと迫られて困っていると再び格技場の扉が開く。
「とりあえず持ってきましたけど」
「近距離が一人、中距離二人、遠距離二人ですか。少し見せていただいても?」
「危ないわよ?」
「大丈夫です」
槍のようなものを受け取り、隅々まで見渡す。
「………へぇ。気力でね………。中々悪くない作りだけど………ここもうちょっと回路がな…………」
『マスター。分析は後にしましょう』
「ん。それもそうか」
槍を返し、数歩その場から離れる。
「そうですね………私を魔獣だと思って殺しに来てください」
「「「は⁉」」」
何言ってんの、とでも言いたそうに全員が口を開けて驚く。
「そんなのできるわけないでしょ⁉ 大人をおちょくるのもいい加減に―――」
「大人…………大人ですか………」
突然黙ったのはリシャットが話し始めたからではない。その圧倒的な威圧感の前に言葉がでないのである。
「確かに私は子供に見えるでしょう………ええ、そうです。実際、現在は子供なのですから。ですが、ひとつ訂正させていただきます」
ゴキゴキっと首をならして不敵な笑みを浮かべるリシャット。その顔は怒っているようで笑っているような顔だった。
「私は…………いや、俺は年齢的には60越えてるからな。死線を潜った回数なんざ数えてすらいない。舐めてかかると………本気で死ぬぜ?」
怒気が孕んだ声でそう告げるリシャットに、誰も言い返せない。この雰囲気のどこが子供なのか。
「ああ、それと、君たちの攻撃じゃ俺に掠り傷一つも与えることなんて不可能だ。鍛練を怠っているようでもないかもしれん。だが俺の生きてた時代じゃ役立たず。いや、それ以下だ」
ギロ、と硝子のように透き通った目を真っ直ぐと向けて睨む。目付きが元からあまりよろしくはないリシャットである。
睨まれただけで動けなくなるほどの力があるのだ。
「本気で強くなる気があるのなら、俺が叩き込んでやる。なに、逃げ出したきゃそれでもいいし嫌ならやめて貰っても構わん。だがな、俺は自分で撒いた種はちゃんと面倒を見たい」
撒いた種を今まで放置していたのは誰だ、と言いたいところだ。
「この格技場の中、どんな方法でもいい。俺に1発当ててみろ。気弾でもいい。武器で直接でも殴って貰っても構わない。俺が避けれなかったら俺がそれまでだったというだけ。決めるのはあんた達だ」
実力を見せてみろ、と暗に言うリシャットはこの狭い格技場内をどう逃げ回るかと考えていた。
「でも、怪我をさせたら不味いしな………」
「それは問題ない」
小さく呟く相手に一つ、自分の力を見せる。
リシャットはポケットから取り出した多機能ナイフで軽く指を切った。
「何やって…………⁉」
赤い血が珠のような粒になって傷口から静かに出てくるが、突然血の勢いが止まったかと思うと逆再生するように傷が元通りになっていく。
「な、問題ないだろう? 他人にもできるから気にせず暴れてくれればいい。建物だって木っ端微塵に壊れようが俺が直す」
「あんた何者…………」
「それを知れるかどうかはあんたらの決断しだいだな」
鼻で笑って挑発するリシャットに全員が苛つきを覚えた。
「やったるわ! そこまで言いはるんならな! 怪我しても知らんで!」
「ええ、どうぞ。どこからでもかかって来てください」
どこからどう見ても無防備な立ち方をしている。全身に力が入っておらず、普通に考えたら今すぐ走る事すら不可能な体制。
その姿勢にすら苛ついているのか槍のようなものを力任せに斜めに振った。その瞬間、フッと音もなくリシャットの姿が掻き消える。
「「「⁉」」」
「どこ見てんの?」
リシャットは斬りかかってきた男の首筋に後ろからピタリと指先を当てて欠伸をしていた。
「くぁ……遅い。長物で近付きすぎだし。魔獣なら確かに仕留められるかもしれないけど筋も粗い」
手を離してグッと伸びをしながら片目を擦る。
「背中ががら空きだ。それと躊躇しすぎ………なのは、まぁ、仕方ないとして動きが雑すぎてどう来るのか簡単に予測できる。あとやっぱ遅い。遅すぎ。重心の移動がなってない。踏み込みが浅い。まだまだ指摘したい所は山ほどあるけど、一旦ここで止めておくよ」
ピタリと当てていた指先を離し、足音一つ立てず元の位置に戻る。
「………これで尚、俺がガキだと言うやつは?」
勿論誰も言い返せなかった。




