【女子力………】
すみませんでした!
カモミールとエルダーフラワー間違えてました!
各々が支度を終えてそろそろ出向こうと扉の前にたつ。
「あ、そうだ。これお腹すいたら食べて。さっきのサンドイッチと一緒だけど」
「お! ありがとうな」
保温バッグをヨシフに渡して見送る。
「多分二日は帰ってこれないから留守番頼んだぞ。まぁ、リシャットだから心配してないけど」
「判った。気を付けて」
車が排気ガスを出しながら走り去っていった。
「さてと。掃除でもするか」
『我は何をすれば』
「別に何もしなくていいけど」
『むぅ……暇なのだ』
「それはわからないでもないけど」
散歩でもしてきたら? と言われたので一人、否、一匹でその辺りをうろうろする。
『散歩とはなんとつまらぬことか………。暇だ』
つまらないと言っているわりに少し楽しげである。
【つまらないんですか? 楽しそうですけど?】
悪魔が参上した。
『む。何をしに来た』
【いえ? 特に何も。私も暇でして】
ケラケラと笑う。
『貴様、本当に悪魔か?』
【何を突然。勿論悪魔ですよ】
『先日インターネットとやらで貴様のことを調べたのだが』
【正確にはリシャットさんに調べさせたんですよね?】
『ええい、喧しいわ! 主従揃って我を苛めるな!』
ブンブン、と頭を振って威嚇する。
『どうでもいいことは放っておく。貴様は人間共には有名なのだな』
【そうですよ。これでも冥界の王ですから】
『想像図と貴様が似ても似つかないのだが』
【手厳しいですねー。そもそも人間に姿を見せたのなんてリシャットさんが初めてですしー】
神々しい想像図に比べて本人なんか安っぽい、というのがリシャットの言葉である。
【あ、ここだんだん増えてってますね】
開けた場所に小さな花がポツポツと咲いていた。この花、リシャットが以前生やしたのがどんどん増えていっているのだ。
『確か、ここに植えとけば育てなくても収穫できる、だったか』
【あの人結構面倒くさがり屋ですしね……】
ついでに自分の魔力もここら辺に少し入れたので植物の成長速度が普通の倍になっていることはリシャット本人でさえ知らない。
気休め程度のものとしか考えていなかったので。
『数年すればここもあの花で埋め尽くされるだろうな』
【ですねー】
足元に咲いていた一輪を摘み取って口にくわえる。
『!? ぶえっ、ペッ、ペッ!』
突然それを放り投げた。
『く、臭い! 臭いぞ!』
【あー……。確かエルダーフラワーって茎とか葉の部分すごい臭いんでしたっけ………リシャットさんがそんなことを言っていた気が】
『もっと早く言え! こんな臭いものをいつも貴様らは飲んでいたのか!?』
「その部分はお茶にしない。花の部分だけだ。因みに茎とかの部分は虫除けになるんだ」
『そうなのか。………っ!? いつの間に!?』
「気づくの遅いな」
リシャットが苦笑しながらエルダーフラワーを何輪か摘む。
「押し花にしようと思って取りに来たんだよ」
【女子力………】
「……なんか言ったか?」
【イイエナニモ】
何故か女子力高いと言われたくないらしい。それを言うと結構怒る。身内限定だが。
「さて、帰ろうか。家を留守にするのもいけないし」
『出てきたのは貴様ではないか』
「それもそうだけど」
そう言いながら家へと歩を進める。小さな花を左手に持ちながら。
「出来た」
「ウォン」
「ん? なんかお前の花弁取れてないか?」
「キューン……」
押し花の栞を人数分作り、本を読んだり、リシャット&シアン対欄丸対ライレンでトランプをやったりしているうちに日が落ちて辺りが暗くなった。
「そろそろ夕飯にするか。欄丸はいつものな」
『サンドイッチは』
「あれはたまにな。栄養偏るから」
『むぅ』
カラカラ、と自分の皿に盛られたドッグフードを不満気に見詰める。
「はぁ……。ヨシフさんがいないから特別だぞ」
「ウォン!」
リシャットがその上に冷蔵庫から取り出した肉を何枚か焼いて乗せてやると嬉しそうに食べ始めた。
「いつか太るぞ、お前」
溜め息を吐きながら自分のサンドイッチを半分にする。
「ん」
【ありがとうございまーす】
半分を口にくわえてもう半分をライレンに渡した。
【んー、美味しい】
「反応が女みたいだな……」
【そうですか? でもあながち間違ってないかもしれませんよ?】
「なんでだ?」
【私、女か男かなんて決まってませんし。実はどっちでもないんですよね】
どっちでもない。つまり、
『それは胸があるのか? 股間部に――――』
「欄丸。そこまで言わなくていいから」
【ああ、どっちもありませんよ? 見ます?】
「そういうのいいから」
二人の様子に辟易としながら自分のサンドイッチを小さく囓る。
「ヨシフさん達、大丈夫かな………」
【心配なんですか?】
「そりゃあな……。だって、あのヨシフさん達だぞ?」
心配どころが多すぎて逆に困るくらいである。
『我らができることなどないだろう。信じて待つ以外は………』
「……欄丸がそんなこと言うタイプだとは思ってなかった」
『失礼な』
その後、リシャットと欄丸で筋トレとジョギングをし、風呂で汗を流してから就寝した。
「ん………?」
リシャットは、どこかから聞こえてくる音で目が覚めた。
「なんだこの音………?」
すん、と鼻が動く。その瞬間、カッと目を見開きベッドから飛び起きる。
「ギャン!」
「あ、すまん」
弾みで欄丸が蹴飛ばされて壁際までぶっ飛んだ。
『何をする!』
「この音、気付かないか?」
『………? わからぬ』
「わからないならいい。……そこにいて」
そう言って服を着替えて外に出た。
欄丸も窓の外を後ろ足で立ち上がって見る。リシャットが家の前で立っているのが見えた。
【なにやってるんです?】
「ギャン!?」
突然真後ろからライレンに話し掛けられてそのまま後ろに倒れた。
『お、脅かすな!』
【いいじゃないですか。今帰ってきたので少し疲れたんですよ】
『む? 貴様に疲れるなどということはないと聞いたが?』
【気分の問題ですよ。気分の】
そう言いながら先程欄丸がやっていたように窓の外を見る。
【誰か来ましたね】
『見せろ』
【自分で立ったらどうです】
『我の骨格は二足歩行に適さないのだ』
【立てるならそれでいいじゃないですかー】
二人揃って結構頑固なのでどちらも譲らない。
【トラックから誰か降りてきましたよ】
『トラックが来ているのか?』
もう面倒くさくなったのか普通に立ち上がってライレンに並んで窓に顔をくっつける。
欄丸が初めて見る大きなトラックだった。引っ越し業者のトラックくらいである。
『なにか話して………!?』
二言三言リシャットがトラックから降りてきた男と話した瞬間、大きく右に吹き飛んでいく。
『お、おい! リシャットのやつ、殴られたぞ‼』
【見ればわかりますって。とりあえず私はあっちに行ってみます。ここにいてくださいね】
壁をすり抜けてリシャットの所へライレンが飛んでいった。
『わ、我はどうすべきなのか……』
あたふたしているとリシャットがライレンになにか言ったようだ。ライレンが帰ってきた。
【軍の方だそうです。無理矢理にでもリシャットさんをつれていくと言われたそうで。抵抗するらしいですが、何があるのか判らないので待機をお願いします、と】
『だ、大丈夫なのか』
【リシャットさんが大丈夫じゃない状況は早々ありませんよ】
ライレンがそう言うが実際目の前でぶん殴られているので信憑性が薄い。
【そんなに気になるのならあっちの音を聞こえるようにしましょうか】
そういった直後、部屋に二人の声が入ってきた。リシャットと、状況から見てあのリシャットを殴った男の声だろう。
まるで真横で聞いているかのような臨場感である。




