「んー……あれは体のストッパーを一瞬外しているんですよ」
「それにしてもよくあんな速度出せるわね」
「慣れれば簡単ですよ」
洗い物を済ませながらリシャットとリズが会話する。因みにミラ達は先程帰っていった。
「私達のこと、怖いって思う?」
「何故です?」
「だって、何でも屋よ? 知らないかもしれないけど、その、荒事ばっかりやってるのよ?」
「それぐらいでは驚きませんよ。もしそれが嫌だったら壁に銃痕があるのに気付いた時点で逃げてます」
小さく笑いながら食器を拭く。
「気付いているでしょう? 私が普通ではないことくらい」
「そりゃそうよ! 普通の四才児がこんなご飯作れるわけないし、あんなに戦えないもん」
「ですよね………まぁ、それはどうでもいいことなんですけどね」
どうでもいいことなのかはわからないが取り合えずこの話はどうでもいいことで処理されるようである。
「そうですね………では、3つだけ」
「え?」
「3つだけ、質問にお答えしましょう。隠すことなく、真実しか言いませんので」
食器をしまいながらそう言う。
『なぜ3つなんですか?』
(適当に)
『そうですか……』
特に理由はないようだ。
「じゃあ君何歳?」
「それは実年齢ですか? 精神年齢ですか?」
「違うの!?」
「それ答えると質問二つに減りますけど良いでしょうか?」
「あ、そっか。じゃあ精神年齢」
精神年齢。シュリアの時に21、白亜の時に20、ハクアの時に19なので丁度60である。
「今丁度60歳です」
「おじいちゃ―――おばあちゃんじゃない!」
「別に言い直してもらわなくても結構ですよ?」
確かに、結構なお年寄りである。
『たまに考え方が古いですしね』
(シアンまでそういうか)
なんか裏切られた気がしてガッカリしているリシャットだが、リズはそれに気づかず再び質問する。
「えっと、じゃあなんで何でも出来るの?」
「別に何でもかんでも出来るわけではないんですけどね……年の功です」
「年の功のレベルじゃないと思うけど……」
そう言うことにするらしい。ただ器用なだけであるが。
「んー、じゃあ何が出来るか教えて?」
「何が、ですか。例えば?」
「お裁縫とか、運転とか」
「裁縫はそこまで得意ではないですが。運転はしたことないので無理だと思います」
「なんかすごいこととか」
急に抽象的な質問になった。
「凄いこと………あ、頑張れば光速で動けます」
「今日も高速で走ってたじゃない?」
「いえ、光速ですよ。光の速度です。速すぎてスピードガンじゃ測れませんけど……」
もう、次元が違う。リズが唖然としていると、
「3つ答えたのでもう後は内緒で」
静かに微笑んで部屋へ帰っていった。相変わらずの天然記念物であった。
「リシャット? どうしたこんな朝早くに」
「少し体を動かそうかと。ヨシフさんもですか?」
「おう。寒いから体を暖める為にね」
因みに昨日、模擬戦(?)をした後、リシャットの言う通り本当に雨が降ってきたので皆が家から帰ったのだが、その後の片付けが大変だったのだ。
リシャットはリズと一緒に洗い物をしていたので知らないのだがヨシフが一所懸命にリビングの掃除をしていたのだ。
なのでそれから夕飯の時しか話していない。
「リシャット。昨日のあれ、教えてくれないか?」
「昨日の………ただの膝かっくんですよ?」
「いや、そうだけどそうじゃなくて」
「早く動く方法ですか」
「そう」
準備体操をしながらそう言う。降った雨は既に乾いていて茶色い乾いた地面から砂埃が巻き上がっている。
「んー……あれは体のストッパーを一瞬外しているんですよ」
「ストッパー?」
「人間って本気が出せないようになってるじゃないですか。どれだけ頑張っても60%の力しか出せないって」
「ああ」
「あれを一瞬解除するんです。昨日は走る直前に少し解除して一気に筋力を上げました」
分かりにくいかなー、と思ったので近くにあった1メートル程の長さの枝を拾う。
「見ててください」
手の中でなにかを確認するように枝を弄っていたリシャットが徐に近くの岩に向かって枝を降り下ろす。
すると、数瞬後、岩がパックリと割けた。
「!?!?!?!?」
「岩に着くまでに加速を最大にまですればこんな風に枝で岩だって割れます。手刀とかでも可能ですが今の私だと手の方がダメージを受けそうなので止めておきますね」
こんな感じです、と笑顔で言うリシャット。この子供恐すぎる。
「どうやってやるんだよ、それ………」
「どうって………どうやってるんですかね?」
自覚ないらしい。
「感覚的なものなので何とも………」
「じゃあ無理だよ」
「そうですか。あ、これならできるかもしれませんよ」
枝を少し離れたところに放り投げて小指位の細さの三十センチほどの枝を地面に突き刺す。
「何をするんだ?」
「これ、乗ったらどうなると思います?」
「は? いくらリシャットが軽いとはいえ流石に折れるだろ」
「じゃあ乗りますね」
右足をその上にゆっくりと乗せ、体重を細い枝にすべて預ける。折れないのが不思議で仕方ない上、とんでもないバランス感覚である。
「おお」
「さっきみたいに壊す方法を知っていれば壊さない方法だって知れます。というか、感覚的に理解できます」
ちょんちょん、と枝の上で跳ねる。あんなに弱々しく見える枝なのにびくともしていない。
「これは体の体幹を鍛えれば自ずと使えるものです。分かりやすく言えば、周りの物に合わせる。自分が周囲に合わせれば使えてきますよ」
そう言って飛び降りる。地面に刺さっている枝を手で持って軽く力を込めるとぽきりと折れた。
「こんな脆いのに」
「そう難しくないですよ?」
「いや、無理だわ………」
「そうですか」
言葉で説明されても意味がわからない。リシャット自身、ほぼ感覚で動いているので伝え辛い部分があるのだ。
「もっと出来そうなやつから教えてくれないか?」
「それじゃあ普通に鍛練します?」
「あ、普通のもあるんだ……」
「はい。勿論。それで、何をやりたいんですか?」
「何でもできるって言ってたよな?」
「大抵のものは」
「じゃあ、さ。ナイフ術、って使えるか?」
意外、と一瞬思ったが、
「ナイフ術、苦手なんですか?」
それ専用のナイフを見たことがあるのでそう訊いた。
「ああ、なんかちょっとなれなくてさ」
「我流でよければ」
「おお! 頼む!」
リシャットのナイフ術講座はこの日から毎日早朝に行われることになる。




