「企業秘密です」
「っと、裸足だしちょっと汚れてるね。洗っちゃおっか」
そのまま風呂場に連れていかれる。
「はい、服も洗うから脱いで…………え?」
リズは無理矢理脱がされたリシャットをまじまじと見て、
「リシャット………女の子だったの?」
「あ……はい」
「うっそ!? じゃあ名前もっと可愛いやつに………」
「大丈夫、です。男として扱ってくださっても構いません。というか、寧ろそっちのほうが楽です」
子供にしては語彙力が高すぎる。が、リズは地味に混乱していて気づかない。
「い、いいの?」
「はい」
リシャットはその後、同じ反応をヨシフにされることとなる。
「で、ここが寝室」
「はい。ありがとうございます。これで全部ですか?」
「ええ。これで全部よ?」
「じゃあそこはなんですか?」
「……え?」
リズはリシャットが指差す方を向いて固まる。
「ただの本棚だけど………」
「そうですか。……いえ、これ以上はなにも言いませんので」
わざとらしく含みを持たせてそう言う。何故かというと、
【ここに隠し扉ありますよー。ほらほら。あ、ここの本を抜くと回転するみたいですよー】
先程から、ライレンが煩いのだ。
「それでは、これから宜しくお願いします」
「よ、よろしく………」
あまりに察しがよすぎるリシャットにタジタジである。
「ところで、何をすれば?」
「え?」
「いえ、掃除でしょうか? 料理でしょうか?」
「いや、子供にそんなことさせられないよ!」
「基本的に大抵のことはできますよ?」
器用過ぎるのがたまに傷だが、本当になんでもできてしまうのだ。
「え? じゃあ……一緒にご飯作ろうか」
「はい。メニューはどうしますか?」
「何が作れる?」
「自分が食べたことあるものは大抵再現できると思います」
「君何者?」
口に出して、あ、今のは子供らしくなかったな、と反省する。既に大分子供らしいところなんて見当たらないが。
「材料は何がありますか?」
「あー………最近買い出しに行けてないからなぁ………」
冷蔵庫を開ける。絶句するほどすっからかんだった。
「「…………」」
これで何を作れと。
「あー……野菜室なら、あるかな………」
開けてみた。地味に入っているが量が確実に足りない。精々リシャット1人分だ。一人前もできない。
「缶詰は?」
「あ、それならあるかも」
缶詰はそれなりにあった。が、
『見事に偏ってますね………』
【乾パンばっかりですね】
リシャットは数秒考え込む動作をして、
「……やってみるか」
と小さく呟く。
「え、なにかできるの?」
「はい。少しお時間いただければ。何人分作ればいいでしょう?」
「三人分………っていうかヨシフと私とリシャットの分だけど」
「なんとかなりそうです。座って待っていてください」
一緒に作るという話はどこへ行ったのか。
「1人で大丈夫?」
「はい。危ないと思ったらお手伝いしてください」
意気揚々と作り始め………られなかった。
『背が足りませんね』
【小さくなっちゃいましたから】
「お前らもう少し言葉慎めよ……」
「何か言った?」
「え? あ、なんでもないです!」
気を抜くとシアンとライレンの言葉に普通に返してしまう。
とりあえず背丈が足りないのは椅子を使うことでカバーした。だが、背が足りないということは手足も短いということだ。
『マスター……』
【言わないであげてください】
(お前の方が酷いわ)
先ず、手を洗おうとしたが、石鹸が奥の方においてあるので届かない。それ以前に水を出す菅が遠すぎて手の位置に来ない。
【仕方ありませんねぇ】
なんだか、触れていないのに物が動いている気がする。
「って、おい‼」
「へっ!?」
「あ。なんでもないです………」
つい、普通に話しかけてしまった。
『魔法は使わない方がいいと思いますよ』
【それもそうですかね】
(気付くの遅すぎるんだよ………)
先程からライレンが面倒臭い。
「手伝わなくて本当に大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
度々視界に入ってくるライレンに苛ついたリシャットは強行手段に出た。
包丁をライレンに向ける。霊体に近い存在なので意味はないのだが、
(………死にたい?)
凍りついた笑みを浮かべ、ライレンに威圧と殺気を飛ばす。
【ごめんなさい】
「きゃっ!? 何!?」
「あ、なんでもないです」
そこから先はライレンが大人しくなったので作業が捗った。捗りすぎてしまった。
人参を手の上で一回転させた瞬間に綺麗に外側だけ剥がれ落ちる。まな板の上など、一瞬置かれた瞬間に見事に等間隔に切り揃えられている。
子供の芸当ではない。
缶詰等最初の方はちゃんと缶切りを使っていたのに、途中から面倒臭くなったのか、指で抉じ開けるようになった。
しかも綺麗に上の蓋部分だけ包丁で切ったかのようにスパンと真っ二つである。
子供とかその次元ではなく、人間業ではない。
幸か不幸かリズには死角になっていて見えなかったようだ。
「出来ましたよ」
「早くない?」
「そうでしょうか?」
ものの数分で出来上がってしまった。
「材料が少なかったのでシンプルなスープに。寒いでしょうから少し辛めの味付けにして、先程乾パンを…………まぁ、色々とやって柔らかめのパンに」
「何やったの!?」
摘まんでみると、食パンのような柔らかさである。
「企業秘密です」
リシャットはそう言ったが、単に説明が面倒臭いからである。
「飯作ってるのか? あいつらが昨日来たからなんにも残ってないだろ………って、結構量あるな。そんなに食べ物残ってた?」
「いえ、そんなには。その代わりに缶詰を使ってしまったのでまた補充した方がいいと思います」
手際よく洗い物を済ませたリシャットがスープを器に注いでいく。
「温かいうちにどうぞ。先に鍋だけ洗ってしまいますから。乾パンのお代わりなら結構あるので」
ささっと片付けを済ませながらそう言うリシャット。そういわれても食べ辛い。
「え、えっと………じゃあ、頂きます……」
「頂きます」
あの固いパサパサした乾パンは何処へいったのやら、フニフニした柔らかいパンを噛んでみる。
それを一口食べてリズが目を見開く。
「味がある!?」
「戻すときに味付けしてみたんです」
実はこの乾パンを柔らかくする方法、ジュードが使っていた方法だったのだ。
冒険者の間では結構有名な方法で、この食べ方が見付かったのはつい最近だったそうだ。
まぁ、シアンが改良を加えてもっと美味しくなっているが。
「美味い! これ本当にリシャットが作ったのか?」
「はい。基本的なことは大抵出来ますので」
自身も座って食べ始める。
「リシャット………本当に何者?」
「ただの四才児です」
「まじか」
それで納得できてしまう辺り、この二人も相当な強者なのだろうか。
宗教によって食事前の挨拶が違うので頂きますで統一します。
だってよくわからないんだもの。




