白亜のほのぼの(?)学園生活!
「昨日のカレーが入ったパンですね」
「ホットサンドと言います」
リンとキキョウは白亜の手抜き料理を食べた後、訓練場へ向かう。
「使ってる人いるんですか?」
「実質あのお二方のみだそうです。何でも申請が大変だとかで」
「成る程」
訓練場からキン、キンと金属がぶつかる音がする。
「‥‥‥凄い‥‥‥!」
二人の動きはリンには殆ど見えていなかった。
「師匠。僕のルームメイト居なかったんですよ」
「いや、一緒にして問題が起きたらそれこそヤバイからだろ。学園なりの配慮じゃないか?」
「ですよねー。ルームシェアって憧れてたんですけどね」
「俺とルームシェアしたじゃん」
「師匠とじゃなくて、対等な立場の人が良いんですよ」
「成る程」
無駄話をしながら高速で走り回り、互いの剣をぶつけ合う。30分以上これを続けているのに白亜は息一つ乱していない。ジュードは少し疲れが見えるが。
「お、隙あり」
その瞬間、ジュードがコケた。その上から白亜の剣が寸止めされている。
「くー。これで師匠の1223勝ですか」
「ジュードの1223敗だな」
それだけ手合わせしていたことに驚きだ。とは言っても、最初は文字通りの瞬殺だったため1日に何十回も戦闘し続けることも珍しくはない。
「あ、キキョウ。と、リン!?」
「あ、おはよう、ハクアとジュード君」
「おはよう御座います、リンさん」
キキョウは何故か白亜の事をスルーした。
「凄いね二人とも」
「あー。見てたのは知ってたけど、リンだとは思ってなかった」
「師匠気づいてたんですか!?僕全然分かんなかったです」
「視線が二つあったから先生か誰かだと思ってたんだけど」
そんなことを話しているとベルがなった。
「お、学校行くか」
「そうですね」
「師匠、置いていかないで下さい!」
「二人とも凄いな‥‥‥負けてられない」
一行は訓練場から教室に移動した。
「おはよう」
「おはよー」
朝の学校風景である。ただ一人とんでもなくオーラが黒いが。
「ヒ、ヒノイさん。おはようございます」
「‥‥‥‥」
ヒノイだ。昨日の模擬戦で白亜にぼろ負けしたので周りの評価はかなり低い。白亜に勝つなんてここの教師でも不可能だが。
「はーい、みんな昨日の試験の結果が出たわよ」
ーー魔法テストーー
1位 ハクア
2位 ジュード・フェル・リグラート
3位 リン、ヒノイ・ゼンテス
5位 ザーク
6位 シャウ
ーー体術テストーー
1位 ハクア
2位 ジュード・フェル・リグラート
3位 ヒノイ・ゼンテス
4位 バルド、ザーク
ーー剣術テストーー
1位 ハクア
2位 ジュード・フェル・リグラート
3位 シャウ、ザーク
5位 ヒノイ・ゼンテス
ーーーーーーーーー
「わー、あたい魔法テスト最下位じゃん」
「でもこれって不公平じゃないか?ハクアは判るが、他は戦ってないぞ?」
「これはあの記録水晶が戦闘を自動解析して出してくれるのよ。だから、相手が強すぎだからこっちの点数が入らない、何て事は無いのよ」
成る程。良くできている。これなら揉めないしそれなりに評価されやすいだろう。
「それにしても、あの師弟コンビ強すぎだろ」
「大体は判ってたけど全部上位二つを独占しているとなると流石にこっちがヘコむ」
その師弟コンビは朝の訓練で何が悪かったのか検討中である。つまり、無駄話だ。
「はーい、結果は‥‥‥まぁ、判ってたけど。そんなことより、今日からもう一人このクラスに編入者がいます」
『早いな』
『特殊クラスですので、変動が大きいのでしょう』
「はいっておいで」
「失礼します‥‥‥」
扉から出てきたのは女の子だった。
「えっと、ドワーフのサヒュイ・レイルです。年は7歳、電気魔法が得意です。その、よろしくお願いします」
7歳。白亜より一つ上である。
「サヒュイちゃんは昨日のテストで実に良い成績を残したので早速特殊クラスに編入になりましたー」
実に良い成績と言われるとどれくらいか判断しにくいが、余程良かったのだろう。たった1度のテストでこのクラスに入れるのだから。
「「「よろしくお願いします」」」
「それでは分散して自分の科目を受けにいってください」
最初の自己紹介の時に皆言っていたが、この学校では選択して授業を受ける事が可能だ。特殊クラスは絶対に受ける必要はない。最悪、全く受けなくても問題はない。そんなの学校に来ている意味がないが。
「師匠どうしますか?」
「そうだな‥‥‥まずは精霊魔法の所に行くか」
「そうですね」
もう既にかなりの人数が教室には集まっていた。精霊魔法は誰にでも使えるので結構人気がある。
「席はここにするか」
「自由なんですねー」
「俺達だけな」
特殊クラスは受けても受けなくても良いので本当に自由だ。途中で抜け出しても良い。そんなことはしないが。
「起立。礼!」
「「「お願いします」」」
「着席!」
『あ、懐かしい』
『ここの世界では大人たちの会議などでもある風習です』
「えー‥‥‥私はエルフのヘンデルだ。精霊魔法の授業を受け持っている。それと契約精霊の火精霊のガーデンだ」
青い髪色のイケメンとその後ろに立つ中級精霊と思われる火精霊のガーデン。絵になる光景だ。白亜もだが。
「それでは授業を始めるが、ここに契約精霊が居るってやついるか?手を挙げてくれ」
白亜やその周りにちらほらいる。30分の1位だろうか。精霊魔法を主体とする魔法使いは珍しくはないが、子供のうちから精霊と契約している人は早々いないのである。
「お、そこの目立つ男子」
完全に白亜である。キキョウは博識者に言われ、あちらから見えないように白亜の後ろに隠れる。
「精霊魔法はどうやって発動するか知ってるか?」
「はい。精霊に魔力を譲渡し、それを元に精霊に魔法を打って貰うもの、ですよね?」
「100点だ。それでは細かく説明するぞ」
キキョウが見つかって大混乱にならずにすんだ。
「いやー、思ったより為になる話でしたね」
「だなー。あの魔力の効率よく回す方法ってのは中々面白かった」
二人はただ校内を歩いていく。
「ジュードはこれからどこに行く?」
「そうですねー。特殊属性の授業を受けようかなと。師匠は?」
「ちょっと調べものに行こうかな。図書館あるよね?」
「勿論。じゃあまた後で」
「ああ。午後の授業でなー」
そう言って別れた。因みにあまりキキョウが話さないのは下級精霊の振りをしているからだ。下級精霊は精霊語しかはなせない事が多いからだ。
「ここが図書館‥‥‥思ったよりでかいな」
そこには天井近くまで本棚がならんでおり、ギッシリ本が入っている。これを読みきるどころか名前を確認しようと思っただけでも何日も掛かるだろう。
「上の方どうやってとるんだろ」
本当にそこが謎だ。白亜は空を飛べるが寧ろ飛べない人の方が多いだろう。というか、とる以前に見えない。
「ハクア様。あちらのレールでは?」
そこには。トロッコのようなものとレールがあった。レールは上にまで続いている。
「図書館でトロッコって‥‥‥」
異世界に来たのを白亜は忘れていたようだ。
「誰じゃ!」
「わっ!」
突然しわがれ声が白亜を怒鳴り付けた。
「まだ講義中だろう!講義に戻れ!」
「特殊クラスなので免除されてるんです」
「なんじゃ。そういうことだったのか」
声の主は完全に、それだった。
「あの、話してます?」
「話してるにきまっとろうが!若造が!」
そこには1冊の本があった。
『この世界って喋る本があるの?』
『この本が特殊な魔法がかかっているだけです。解析しますか?』
『お願い』
「聞いとるのか!」
「聞いています!」
「わしはここの管理を任されとる。気軽にビューと呼ぶが良い」
「あ、特殊クラスの白亜です。こっちはキキョウ」
「ここのルールを教えてやる」
・トロッコの移動は常識の範囲内で
・走らない
・騒がない
・貸出しは無し(例外あり)
・魔法の使用は絶対に禁止
・本を傷つけたらそれなりの金額を払う
・飲食禁止
「思ったよりも少ないですね」
「そうか。お主は何を探しに来たのじゃ?」
「魔法のことですかね」
「講義を聞けばよいのではないか?」
「いえ、自分で調べたくて」
白亜は自分の魔法やそれ以外の魔法を探しに来たのだ。簡単にいえば趣味である。
「そうか。トロッコは魔力で動くからな」
それっきりビューは話さなくなった。というか寝た。鼾が静かな図書館に響いている。
「これがトロッコ」
「面白い乗り物ですね」
取り合えず、乗ってみる。
「おおー。なんかそれっぽい」
それっぽいの意味がわからない。
「魔法の一角はあっちだな。‥‥‥魔力を此処に流せば良いのか」
少しずつ流すとドンドン進んでいく。
「面白いですね、これ」
キキョウは気に入ったようだ。何が良いのかは解りかねるが。そんなこんなで魔法書の場所に到着した。白亜とキキョウは目ぼしいものを取り合えず全部運ぶらしい。
「ちょっと多くないか?」
30冊位本を持って机のあるスペースへ。かなり多い。白亜は鞄から紙とペンを取りだして本の内容の気になった部分をひたすら書いていく。勿論キキョウもだ。
「お主、ちと多すぎやしないか?」
「すぐに終わりますので」
そういう問題ではない気がする。が、二人とも書くペースが半端じゃない。
「よし。終わった」
「こちらもです」
「お主等何者なんじゃ‥‥‥‥」
ビューのツッコミに答える者は誰もいなかった。
「魔晶の意味がわかった」
「そうですか。なんだったのですか?」
「核だ」
「核ですか?」
そう。白亜が使っている魔晶属性の根元は魔晶と呼ばれるこの世界の核なのだ。
「自然は核と直接繋がっている」
「成る程!それでですか!」
核を操れるのだからそれにくっついている植物や地面を操れる。これが白亜の魔法だった。
「それと、これ見てくれ」
白亜がキキョウに見せたのは1冊の本。それは、
「古代魔法?」
「そうさ。俺はそれを使ってみたい」
古代魔法はもう今は廃れてなくなってしまった魔法だ。威力が高く、属性の適性は関係無しに使える。それの中には、『重力魔法』、『幻覚魔法』等があり、多くの学者が復元に失敗している。
何故かと言うと、それを遡る魔法がないのだ。分かりやすく言うと、氷魔法を遡れば水魔法に、雷魔法を遡れば電気魔法になるように、基本的に魔法には元となる魔法がある。
それがないのだ。もう絶滅した魔法。ロマンである。
「面白そうです」
キキョウも話に乗ったようだ。
「ただな、どんなものかさえ分かんないから適当に造ってみるしか‥‥‥‥」
ベルがなった。ジュードと待ち合わせの時間だ。
「おっと。片づけようか」
「はい」
「古代魔法、ですか」
「ジュードはどう思う?」
「師匠でも難しいかもしれませんねー。なんせ世界中の学者が研究し続けている物ですから」
「だよな。まぁ、やるだけやってみるさ」
「その意気です、師匠」
目は死んでいるが。
「はーい、みんな。算術の時間ですよー」
算術とは、算数である。かけ算割り算くらいまでしか何故かやらない。
「ハクア君!56+62=?」
「118」
ほぼタイムラグ無しで白亜が答える。
「師匠早っ!」
「そうかな‥‥‥?」
「す、凄いね。じゅあジュード君!83-34=?」
「え、えーっと。あ、49!」
「正解」
白亜が答えられるのは当然である。大学まで通っていたので。
「それじゃあ、バルド君!23+92=?」
「え、えーっと‥‥‥13?」
何故減るのか謎である。
「リンちゃん。73-61=?」
「えっと‥‥‥多分、12?」
もっと自信を持って答えればいいのに。
「シャウちゃん!11+38=?」
「‥‥‥‥62?」
増やしすぎだ。
「サヒュイちゃん。48+27=?」
「っと、75です」
この中では頭はかなり良いようだ。
「ザーク君。62+92=?」
「む‥‥154か」
ザークも中々である。
「ヒノイ君!66-26=?」
「っふ!40だ」
6が重なっているのでサービス問題だが。
「じゃあテストね。順位が出るからしっかり取り組むように。始め!」
ーー算術テストーー
100点 ハクア
93点 サヒュイ・レイル
90点 ザーク、リン
88点 ヒノイ・ゼンテス
86点 ジュード・フェル・リグラート
62点 シャウ
52点 バルド
ーーーーーーーーー
白亜は100点が取れなかったらどうしようかと思っていた。小学一年の問題で間違えるなどということがあったらどれだけ恥ずかしいか。
「サヒュイちゃんすごーい!」
「でもハクア君には敵わなかったよ‥‥‥」
「あいつに勝てたら異常者だよ」
白亜はもう一番以外は取らない人間として周りに評価されているようだ。
「僕低かったですね‥‥‥」
「次頑張れ」
ジュードは点数は悪くないが、エリートクラスだと下の方になってしまうのは仕方がないだろう。それに貢献しているのは間違いなく白亜だが。




