白亜のルームメイトはリンでした!
白亜は寮に行くために鍵を受け取りキキョウと一緒に女子寮のほうに歩いていく。
「ハ、ハクア君!」
「どうされましたか?リンさん」
「そっち、その‥‥‥女子寮だよ?」
「え?あー私、一応女子なんですよね」
「‥‥‥へ?」
白亜は自分がなんで男子制服を着ているかなどを細かく説明した。勿論転生の事は話していないが。
「す、すいませんでした!まさか女性だとは思わなくて‥‥‥」
「自覚してるから大丈夫ですよ」
「それと、私と同じ部屋になりますが‥‥‥」
「え?あ、本当ですね。よろしくお願いします」
二人で寮に向かう。途中女子生徒から鋭い目線を感じながらではあるが。
「1031‥‥‥これ狙ってんのかな?」
「?何か?」
「いや、何でもないです。行きましょう」
「ハクア様の誕生日ですね」
後ろからボソッとキキョウが白亜にささやく。そう。白亜は10月31日生まれだ。この世界と日本の時間軸が同じなので、生まれた日も死んだ日も生まれ変わった日も同じ日だ。
「そう言えばもう気力持ちの子供とか生まれてんのかな‥‥‥術式間違ってなきゃ大丈夫だけど」
「ハクア君?」
「あ、いえ。何でもないです」
「ここか」
「最上階ですね」
鍵を差し込み、捻る。カチャンと音がして扉が開く。
「うわー。すげぇ」
「スッゴいきれいなお部屋!」
「ハクア様。私の場を用意してくださいね」
キキョウに釘を刺されたがこの部屋、とんでもなく広い。スイートルームで確り個人部屋が二つとキッチンまである。白亜の前世の大学の寮と比べると大きさなんかはこっち、住みやすいのはあっち。という感じである。
あっちの方が住みやすいのは当然である。科学が発展しているので。
「私ここで良い?」
「ええ。じゃあ私はあっちにいきますね」
「その‥‥‥何時もジュード君とかに話してる言葉遣いが素なんだよね?そっちにしてくれないかな?」
「ええ。‥‥‥じゃなくて、ああ。こっちの方が話しやすいしな。リンさんは?」
「私はこれが素なので‥‥‥それと、リンって呼んで」
「判った。リン、これからは俺の事も白亜って呼んでくれ」
「う、うん。ハ、ハクア」
「私の事はキキョウと」
「それは無理です!」
『ウンディーネってそんなに位が高いのか?』
『はい。精霊の中でも1、2を争うぐらい格が高いです』
ほぼ最上位らしい。
「キキョウはそこで良いか?」
「はい」
白亜とキキョウは荷ほどきを済ませて自分のやりたいことをしていた。
「美しいですね」
「そうか?気に入ったならあげるけど?」
白亜はいつものごとく彫刻刀で気力で造ったクリスタルを削っていた。今作っているのはレリーフタイプのペンダントだ。真ん中にまるで機械で映写しながら削ったように色がついていないのに風景だと判る。
「本当ですか!」
「出来たらあげる」
そんなこんなで夜になった。6時に一階の食堂に行き寮母さんから寮の説明を受ける事になっているので、キキョウを連れて3人で一階へ。
「最上階だから遠いな」
「ハクア様は機能性重視ですからね‥‥‥」
キキョウが呆れているが白亜は気にも止めない。
「はーい!席についてね!」
「あっぶね。ギリギリじゃん」
「遠かった‥‥‥」
小声で話ながら席に座る二人。
「私がここの寮母のマリーです。それでは女子寮の説明をしたいと思います。ここのルールは朝は6時半、夜は24時が消灯時間です。呉々も間違えないように!」
『24時って。かなり長いな』
『日本が短いだけです。この世界では普通です』
『ふーん』
「お風呂は共同!ただし、部屋についてる人はそれを使っても構いません!それからもし消灯時間外に外にでたいと思ったら許可を必ず取ってください!」
『時間外に出られるんだ』
『基本的に自由な時間が多いのです。ご飯なども外に食べに行っても良いのです』
『適当だな』
「もし何かあったら各部屋についているベルを鳴らしてください。ただし、何かあったらです。遊びでさわらないように!」
『あったっけ?』
『ありました。あとで確認しましょう』
「後は冊子に記入してあります!そちらを読んでください。さて、なにか質問はありますか?‥‥‥ありませんね。ではこれで解散といたします。良い学園ライフを!」
「さてと。これからご飯どうする?」
「え?」
「ここ食堂だから」
「あ‥‥‥お財布忘れてきちゃった」
「奢るけど?」
「そんなのいいよ!部屋でご飯が良いな!」
「ハクア様ってお料理得意でしたっけ?」
「そこはまぁ博識者で」
「ああ、なるほど」
部屋に食材は無かったが白亜が買いだめしていたのでそれで作る。作るのは時間がそんなにないのでカレーだ。ルウは勿論創造者でこっそり出した。中辛のバー○ンドカレーである。
「カレー!?」
「あ、知ってる?」
「知ってるもなにも超高級品なんですよ!?」
「へー」
適当に作ったので味の保証はない。白亜は料理が中々苦手だ。可もなく不可もなくといった物ができる。
「はい。完成」
ご飯がないのでちょっと水を足してスープカレーっぽくしてパンで食べる。ナンは無かった。
「こんなに早くできるなんて‥‥‥!」
「全然煮込んでないからあんまり美味しくないと思うけど?」
『白亜様。まずカレーがこの世界では殆ど普及していないので』
『スパイスか?』
『はい』
カレーをスパイスから作ろうと思ったらどれだけ面倒なのか。ルウの有り難みを感じる。
「美味しい‥‥‥!」
「ルウがね?」
「ハクア様。それは言ってはなりません。これはハクア様の成果です」
ルウの成果だ。
「あー。お腹一杯」
「作りすぎたな‥‥‥明日の朝は食パンではさんでホットサンドにしようかな」
「名案です」
3人はリビングで寛いでいた。食休みだ。
「あ。お風呂どうする?俺はここで入るけど?」
「私は浴場にいきます。シャウちゃんも居ますし」
「そっか」
流石に白亜は浴場には行けない。恥ずかしいので。リンが出ていったあと、白亜は直ぐに準備を始め、
「通常即興曲、風呂用具」
早速シャンプーその他を作って風呂にはいる。
「生き返りますー」
「普通ウンディーネって水の中に居るんだっけ?」
「はい。私は力が強いほうなので離れていても問題ないんです」
「湖が枯れたら?」
「私も死にます」
「えー‥‥‥」
衝撃のカミングアウトだ。
「ハクア様のお側に居れば大丈夫ですよ」
「なんで?」
「魔力でどうとでも出来るので」
流石ウンディーネである。
「あー気持ちよかったー」
「あ、お帰りなさい」
「ただいま。何してるんです?」
「魔方陣書いてるんだ。防音壁張りたいし」
白亜の前にはメモ帳サイズの紙が置いてあり、周りにはコンパスらしきものや、定規が落ちている。
「これでいいかな!」
「流石です、ハクア様。所要時間3分です」
「あれ?もうちょっと掛かるかと思ってたけど」
「凄いね、ハクア。こんなに細かい魔方陣書けるなんて」
「それにしてもなんで防音壁?」
「それは‥‥‥あれだ。俺の寝言が凄いんだ」
「寝言?」
「嘘言ってどうするんですかハクア様。楽器が弾きたいんでしょう?」
白亜は単に楽器の練習がしたいだけである。
「言う必要は無いかなと」
「隠す必要も無いでしょう?」
「楽器ってなに?」
「「‥‥‥え?」」
リンは楽器を知らなかった。
「知らない!?ちょっと予想外の答えが返ってきた」
「知らないんですか?吟遊詩人が使うやつですよ?」
「あ、あの箱のことを楽器って言うの?」
「うん。楽器は総称だけどね」
「じゃあ私聴きたい!良いでしょ?」
「いいけど」
白亜は自分の部屋に入っていき、魔方陣の紙を丁度部屋の真ん中に置いて、
「陣、我の魔力を用いて音を通さぬ膜を張れ。発動」
すると、魔方陣が淡く輝き、部屋全体が防音完了となった。
「じゃあやるよ。そうだな‥‥‥弦、金、木だったらどれがいい?」
「え?」
「直感で良いよ」
「じゃあ金?で」
「了解。大きさは1から10でどれがいい?」
「じゃあ、1で?」
「はいよ。これだな」
机の裏側から出したように見せ掛けながらトランペットをケースごと作る。中から出てきた銀色のトランペットを見てリンが目を丸くする。
すると白亜は早速マウスピースを口にあてて吹く。
「ひゃっ!」
「あ、ごめん。ビックリした?」
「う、うん。あんなに大きい音が出るとは思ってなかったから」
音を出すものなので当然なのだが。白亜は吹く曲を決めたようだ。曲は、『ホール・ニュー・ワールド』。知らない人も居ると思うので説明しておくと、この曲はディ○ニーの映画の曲だ。
なぜこれをチョイスしたのかは完全に謎である。
「物凄い綺麗!」
「んー。途中音ずれちゃったからな」
「そんなのは普通わかりません」
キキョウ、それを言ったらおしまいだ。白亜はその後何曲か吹いた後、練習を止めた。
「もう?」
「10時越えたら流石にね」
10時以降は吹かない。白亜の謎ルールである。
「じゃあもう寝ますか」
「そうだね。明日も聞かせてね?」
「判った判った。お休みなさい」
「お休みなさい」
寝るのは本当に早い二人だ。
翌朝。リンが起きた頃には白亜は居なかった。
「おはよう御座いますリン様」
「キキョウ様。おはよう御座います」
リンは辺りを見回し、
「ハクアを知りませんか?」
と、訊ねる。今は6時15分。まだ消灯時間だ。
「ハクア様はジュード様と訓練中で御座います」
「訓練?でもまだ消灯時間では?」
「ハクア様とジュード様は例外で許可を頂けるのです」
「例外で?」
「はい」
ジュードが王族なのでまぁ、当たり前である。
「ハクア様が朝食をご用意してくださったようです。その後私はあちらに向かいますが、一緒に来ますか?」
「はい!」




