白亜は弟子を手に入れた!
「今日は家に泊まっていってください!」
あの王子‥‥‥《ジュード・フェル・リグラート》の提案により、三人は客間で旅行用の荷物をといていた。
「どうぞ、ごゆっくり!」
と言って先程ジュードが出ていったが、白亜はともかく、両親がガッチガチになってしまった。寛ぐに寛げない。
「こ、このベット‥‥‥いくらくらいになるのかしら?」
部屋の調度品を傷つけ無いように必死である。
「そんなことより、ハクア‥‥‥‥貴方いったいいつから戦えるようになったの?」
「‥‥‥‥生まれる前から、かな」
もうこの際全部はなそうと決めたようである。白亜はすべて話した。前世のことや転生したことなど。チカオラートの事は何となく話さない方がいい気がして話していない。
「転生‥‥‥」
「そんなことがあったのか‥‥‥‥」
両親は親身になって話を聞いてくれた。これが地球だったらこの子は頭が残念な子なんだなと思われても仕方がないような話だが、この世界に魔法と言う概念がある以上、ここの世界の人はこういう話を受け入れてくれるらしい。
「辛かったのね‥‥‥‥」
白亜を抱き締める母親。父親もその上から包むように二人を抱き締める。
「もう、大丈夫ですよ‥‥‥あっちの人たちがどうなっているのかは気になるところですが、きっと巧くやっているでしょう。そういう人を集めましたから」
本当に白亜は向こうの事を気にしていない。あっちならあっちで何とかするだろうと白亜は全部丸投げしたので。
「本当に大丈夫か?」
「はい。もう全てを捨ててきたので」
そういて白亜は立ち上がる。
「死んだのも自分の意思、もう一度生きると決めたのも自分の意思です。全てを合理的に進めるためでした。覚悟は勿論できていましたから」
白亜は両親に向き直る。その目はいつも通り死んでいたが。
「‥‥‥でも死ぬのって怖かったでしょう?」
「家族を失ったときの方が怖かったので。死に対する恐怖心は殆ど有りませんでしたし」
その時、
「師匠おおおおぉぉぉ!」
ジュードがかけ込んできた。
「そんな‥‥‥そんな過去があったなんて‥‥‥‥辛かったですよね。もう僕が居ます!一生ついていきます!」
「何でですか!って言うか盗み聞きしていたんですか!?」
「するつもりはなかったんですけどね‥‥‥何か話し声が聞こえたので扉の前で待ってたんです」
「防音しとけばよかった‥‥‥‥」
もう後の祭りである。
「そんなことより、師匠は年上だったんですね‥‥‥」
「ええまぁ。誕生日が一緒なので今は25歳ですね」
そう考えるとそろそろおっさんの道が近付いてきたようでちょっと嫌な気分になる白亜。
「結構上なんですね」
「ここの世界とは違って成人が20歳ですので‥‥‥‥」
この世界の成人は15歳である。
「あと、平均年齢が高くて、90歳を越える人も結構いましたね」
「人間族でですか!?」
「って言うか、人間族以外の種族居ませんから」
有り得ない。とでも言いたげな顔を白亜に向けるジュード。
「人間族以外がいない‥‥‥‥種族抗争も無いのですか」
「戦争自体、日本は70年間で一度もしていませんよ」
「パラダイスですね‼」
「さぁ?どうでしょうか。ストレスを溜まりにたまらせて自殺者が毎年かなり出ていましたから」
「自殺‥‥‥‥」
「いつか自殺が死因ナンバーワンになるんじゃないかな、とは前々から思ってます」
このままだったら多分そうだろう。
「怖いです‥‥‥」
ジュードは日本に完全にビビってしまったようだ。白亜は勿論、気がつかない。
「本当についてくるんですね‥‥‥‥」
「勿論です!師匠!」
巨大なリュックサックを背負ったジュードを見て呆れる白亜。
「そんなに何がいるんですか?」
「トレーニング用品です!」
「そうですか‥‥‥‥」
一年間ジュードと過ごしたのち、王都に来て学校に入る予定である。尤も、白亜の場合は今すぐにでも入ることは可能だが。
基本的に学校は6歳から入学可能だ。白亜は5歳だが、力量は申し分ないので今からでも入れる。
「直ぐに入ればいいのでは?」
「面倒ごとに捲き込まれるのがオチですよ。来年の方がいい気がするので」
っと白亜は言っておいた。実際は、ジュードの事をよく知っておかないと後々面倒な事になりそうだと直感したからである。
「行ってきます!父上!母上!」
ジュードの母親は美人さんだった。上半身の膨らみは殆どなかったが。種族柄小さいらしい。白亜は興味なんて一切持っていなかったが。
「ここですか、師匠の家は」
普通の一軒家を前にしてジュードは目を輝かせている。
「こんな感じの小さい家、憧れてたんです!」
かなり失礼な発言だが、気にする者は特に居ないので誰も注意しない。
「良かったですね‥‥‥」
白亜はジュードの相手でへとへとである。訓練ではへばったところを全く見せない白亜だが、人付き合いが苦手なのでこう言うのは直ぐにへばる。
ジュードは白亜の部屋と同じ部屋になった。何せ普通の一軒家なのだ。そんなに部屋はない。
「ジュードさん‥‥‥今から訓練いきますけど来ますか?」
「行きます!」
荷ほどきも程々に1階に降りて森に行く旨を伝える。
「暗くならないうちにね」
「はい」
「行ってきます!」
「師匠はいつもここで?」
「はい‥‥‥見つかる危険が少ないので」
ジュードが突然白亜に向き直る。
「師匠!いつまでも敬語はやめてください!」
「えー‥‥‥ジュードさんって王族じゃないですか‥‥‥‥」
「師匠と弟子の関係なのです!当たり前ですよ!」
「じゃあ、ジュードさんも敬語やめてください。あ、ついでに師匠ってのもやめてくれませんか?」
「師匠呼び以外は嫌です!」
「じゃあ‥‥‥‥師匠でいいから敬語やめてください」
ジュードは少々渋ったのち、
「わかった。これからよろしく。師匠」
「宜しくな、ジュード」
これで落ち着いたらしい。
「さてと。俺の力について話そうと思う」
「師匠の力?」
「ああ。創造者だ。両親にも話してないから内密にするように」
「了解!そんだけ師匠に信頼されたんだな!」
「え?あー。うん。そんな感じ」
白亜がここでこれを明かしたのは単に風呂に入れなくなるのが嫌だからである。
「創造者はその名の通り、物を造り出す。通常即興曲、鏡」
鏡を作り出してジュードに見せる。
「え!?いま、何処から!?」
「こうやって魔力があればいくらでも作れる。ただ、手から離れると消えるがな」
白亜は鏡を地面に置く。すると幻影だったかのように消え失せた。
「凄い‥‥‥‥!武器要らずじゃん!」
「確かに」
もし壊れてもまた直ぐに作り出せばいいのだ。無限に作れる。
「内密にな」
「はい!師匠と弟子の約束だ!」
ジュードは妙に師弟関係を貫いてくる。
「何で弟子にしてくれなんて言ったんだ?」
「師匠の技に惚れた!」
「この世界だと師弟関係って珍しくないのか?」
「?そうだが」
そこは違うんだなーと、思いつつ、気力で練習用の刀を二本作る。
「それも創造者で?」
「いや、これは前の世界で手に入れた力だな。気力ってよんでる」
はい。と言いながら片手で一本投げ渡す。ジュードはキャッチしようとして、
「おっもい!」
落とした。
「大丈夫か?」
「重くない?」
「30キロはあるからな」
「キロ‥‥‥‥?」
「あ、何でもない」
「兎に角、それで素振りだ」
「え、あ、おう!」
この後、ジュードは白亜に安易についてきたことに少しだけ後悔した。もう諦めて訓練を受け入れたが。
「今日はこの辺でいいだろう」
「ゼェ‥‥‥‥ゼェ‥‥‥‥」
「へばるの早すぎ」
「ば、化け物だこの人‥‥‥」
白亜は創造者で一軒、プレハブを作った。何故かと言うと、風呂である。
「風呂入ってくるから、ここにいてくれ」
「家まで作れるのか?」
「体が触れてないと駄目だけどな」
扉の中にはいるとただの風呂場である。白亜はいつも通り風呂に入ったあと、ジュードのもとへ戻る。
「もうなんでもありだな」
「入ってこい」
ジュードに色々説明して風呂の使い方を教える。このプレハブの凄いところは、周りからは一切見えない上に、シャンプーなどをボトルではなく備え付けタイプにしたために何度も作り出す必要がなくなったことだ。勿論その分魔力は喰う。
白亜の魔力は使いきったことがないほど大量にある。これぐらい片手で出来るのだ。
「すげえ!髪がサラッサラだ!」
リンスを絶賛するジュード。
「売ったら相当儲けられるんじゃねえか?」
「俺が手を離せば消えるし、この能力はそうそう見せられる物じゃない」




