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白亜対武の王の模擬戦開始!

「えっと‥‥‥‥模擬戦ですか?」

「そうだ。私に勝てるくらいの力量が無ければ王都から追い出すぞ」


 この人もかなり無茶苦茶だ。普通なら大の大人に5歳の幼児なんて力量に差があるどころの話ではない。


「‥‥‥‥確実にクリティカルヒットで1発KOしそうなんですが」

「くりてぃかるひっと?」

「あ、いえ。何でもないです‥‥‥‥‥」


 話が進まない。


「国王様!この子は戦闘の経験もありません。武の王と呼ばれるあなた様にはーーーーー」

「貴様に発言権はない。牢にぶちこめ」

「そ、そんな!」


 白亜がこっそり戦闘訓練をしているのを知らない母親が反論を試みたが、王の権力に負けた。


「おまちください‥‥‥!母を連れていかないで下さい!」

「ならば私と戦え」


 白亜はその言葉を聞いても動じない。こう来ることは既に予想済みだったからだ。


「‥‥‥‥判りました。‥‥‥‥幾つか条件を付けさせていただいても?」

「それはかまわない。戦ってくれるのならな」




「なんでこんなことになっちまってんだよ‥‥‥」


 白亜と国王が木の棒を持って向かい合う。


・魔法使用禁止

・国王は身体強化使用禁止(白亜は使ってもよい)

・寸止め有り

・降参するか、寸止めか、意識が無くなった時点で試合終了

・木の棒以外の武具、防具の使用禁止


 が、白亜の出した条件だ。両親に戦闘を見られたくなかったので「多分瞬殺ですし‥‥‥‥そんなの見ないで下さい」

 とかなんとか適当なことを言って両親はここにはいない。


「魔法使用禁止や寸止め有りか‥‥‥余程私に勝つ気満々なのだな」

「違います‥‥‥‥寸止め有りとかにしないと下手したら木の棒を振り抜かれただけで死にかねないので‥‥‥‥」


 王の考えていることが白亜は未だに判っていない。


「あ、それと私に負けたら来年度の入学の件、無しにして貰うぞ?」

「ええええ‥‥‥‥」


 相変わらず目が死んでいるうえに緊迫感がない。


「そなた、戦えるであろう?私には判る。それほどの隙の無い身のこなしをしていて戦闘経験が無いなどあり得ないからな」

「‥‥‥‥‥」


 返答に困る質問をしてくる国王に白亜は少し迷う。今ここで勝ってしまったら、国王の面子が丸潰れだ。わざと負ければ学校に行けなくなるどころか、母親が捕まってしまう。


「俺はどちらもとらなきゃいいのか」


 そう。ただ逃げ続ける事を取れば、ただ単に逃げ足の早い子供と見られるだけだ。


「互いに手加減なしだぞ?」

「‥‥‥‥‥子供にそれは卑怯な気がしますけど」


 審判が奥から出てくる。


「それではよろしいですね?戦闘、開始!」


 その言葉を聞いた瞬間、王がかなり早いスピードで白亜に間合いを詰める。白亜の右手に持っている棒が届きにくい左腕の斜め後ろに滑り込む。


「あー。ちょっと予想外です」


 白亜は棒を左手に持ちかえて攻撃を受け流し、バックステップでその場から一旦退く。その目は戦闘時と同じ様に今までの目は何だったのかと言わんばかりの輝きに満ちている。


「やはり戦えるか。これに反応できるとは相当な腕だろう」

「やべえ‥‥‥‥つい‥‥‥‥」


 戦闘時となると周りが一切見えなくなる白亜らしいミスだ。


「いくぞ!」

「隠す必要はもうないかな‥‥‥‥」


 再び王から繰り出される剣技を白亜はなんなく捌いていく。横にずらし、回避し、フェイントなどにもしっかり対応する。


「はぁ‥‥‥‥はぁ‥‥‥なぜ、仕掛けてこない?」

「仕掛け方が分かりませんので」


 こう言うしか避けるオンリーの戦闘は不可能だ。


「嘘をつけ。私に隙が出来るとそこに目がほんのすこしそこにいくのは知っている。攻撃も出来るだろう」

「‥‥‥‥‥」

「そうだな‥‥‥‥攻撃してこないなら父親も牢にぶちこむぞ?」

「なっ‥‥‥!」


 伝家の宝刀が抜かれて白亜の表情が目に見えて焦る。


(不味い‥‥‥‥非常に不味い。ここで俺が勝たないといけない理由ができちまった)


「さぁ、仕掛けてこい」


「‥‥‥‥‥お互い、恨みっこ無しですよ?」


 白亜が動く。常人なら目に見えない速度で。審判にも見えていない。武の王と呼ばれる国王には辛うじて見える速度だった。

 気付いたら、白亜の木の棒が後ろから国王の首を掠めるように寸止めされていた。今の一瞬で白亜は後ろに回り、まるで人質にとるようなポーズで国王の首を狙っていた。


「‥‥‥これでどうでしょうか?」


 国王の圧倒的勝利かと思われた模擬戦は白亜の一方的勝利に終わった。


「あはははははは!これ程までとは思ってなかったよ!僕の敗けだ‼」

「‥‥‥‥それは良かったです」


 突然、国王の言葉遣いが柔らかくなった。こっちが素なのだろう。

 白亜の目はもう既にいつものやる気の無い死んだ目に戻っている。


「ハクア!君はなんて素晴らしいんだ‼僕が敗けたことは何度かあるけど、ここまで一方的な敗北は初めてだよ!どうか弟子にしてくれないか!?」

「はい?」

「よろしくお願いします!師匠!」


 国王が白亜に土下座する。


「え?え?ちょ?」


 白亜は未だに全く理解できていない。


「し、審判さん!?これどういうことですか!?」

「俺も弟子にしてください!」

「何言ってるんですか!ちょ!近い近い近い近い!」


 審判は助け船を出すどころか、一緒になって懇願し始めた。勿論、土下座である。


「一番弟子は僕で!お前はその次だぞ!」

「わかっておりますよ!国王様!」

「もう、何が起こってんの‥‥‥‥」


 5歳に弟子志願する大人二人。しかも片方は武の王と呼ばれる王族には珍しい武の才に長けた有名な王である。

 カオスとはこの事を言うのだろう。




「こんなことになりました‥‥‥‥」


 一旦謁見の間に帰る白亜。勿論、二人も付いてくる。


「なんてこと‥‥‥」

「避け続けてたんですが‥‥‥‥終わったらこんな感じでして」


 両親に事の顛末を話す。もう隠していても仕方ないと思ったからだ。


「ハクア‥‥‥あなた、そんなに強かったの?」

「逃げ足が早いだけです。逃げ続けてたので国王様が疲れていたところを卑怯に狙っただけです」


 白亜はもうそういうことにしたらしい。


「師匠!」

「違います!」

「師匠のご両親。申し訳ございませんでした。師匠に戦っていただきたくて貴殿方を餌にしました!本当にすみませんでした!」


 国王の土下座はかなりインパクトが強い。


「い、いえ!そんな!か、顔を!顔を上げてください!」

「私のしたことは土下座ごときじゃ埋まりません!このままでお願いします!」


 もう、どうにでもなれと白亜は思い始めていた。この城に来たことがそもそもの間違いだった気がするとさえ思い始めた白亜。完全に現実逃避だ。


「師匠の弟子にして貰うために、父に頼んできます!」

「父‥‥‥ですか?」

「本当の国王です。あと、僕の師匠ですので敬語は結構です」

「え?国王じゃないんですか?」

「はい。僕は次男ですし、国王の座はもう諦めています。というか、国王は36歳ですし」


 白亜のみ、全く知らなかった。両親は知っていたらしい。実はこの人は戦線で戦う珍しい王族だったのだ。

 周辺諸国にも噂が広がっている上、国王の座は半分座っているようなものらしい。なので両親は特に何も言わなかったらしい。


「本当の国王だと思ってました‥‥‥」

「それで弟子は要らないと仰ってたんですね。もう大丈夫ですよ。僕はフリーです!」

「いや、そんな年上の弟子をとる気はさらさら無いんですけど‥‥‥‥」

「大丈夫です!僕は8歳なので!」

「「「え!?」」」


  白亜と両親の声がシンクロする。


「‥‥‥‥嘘ですよね?」

「本当ですよ?僕の母は妾でして。成長が早く、寿命が長い種なのです」


 人間でも無かったらしい。


「‥‥‥‥何て言う種なんですか?」

「エルフです。ご存じ有りませんか?」

「エルフですか‥‥‥‥」



ーーーーエルフーーーー


・子供の時期が短く、大人の時期が長い上に長寿として知られる亜人種

・大抵が美しい容姿で弓や精霊魔法を得意とする

・外見的な人間との違いはさほど無い

・人間に対して高圧的な場合が多い


ーーーーーーーーーーー


「出てきちゃったよ‥‥‥‥」


 情報眼で見てみたら速攻で出てきた。


「何がですか?」

「何でもないです‥‥‥」


 常時発動しておこうと心に刻む白亜。相手の情報を無理矢理覗く物なのであまり多用したくないと考えている白亜だが、こんなことがあったのでその考えは捨てたようである。





「ワシの息子が、すまなかったな‥‥‥」

「いえ‥‥‥‥」


 本当の国王に謝られた。


「と言うことで君があいつの師匠になってくれぬか?」

「そこでなんでそんな話になりますか‥‥‥‥?」

「あいつはああなると聞かないのだ‥‥‥。昔、魔法を習いたいといって聞かなかったから部屋に閉じ込めたんだが、壁をぶち破って出てきてな‥‥‥」


 判ってはいたが、中々アクティブな王子だ。


「頼む‼」

「えっと‥‥‥‥」


 白亜がかなり返答に困っていると、


「勿論、学校に一緒に入れさせる‼」

「いや、問題そこですか!?」


 もう白亜は諦めた。


「判りました‥‥‥ただ、あの審判さんはちょっと」

「そうか。あいつを引き取ってくれるだけでも問題ない。あの審判をしていた男には悪いが、諦めてもらおう」


 あの人まで付いてきたらめんどくさいことになることは必須だ。


「じゃあ、条件を付けさせていただいても?」

「うむ」


 白亜はその辺りは抜かり無い。


・もし何かあってもこちらは責任をとらない

・この事は一応内密に

・あの王子の資金だけは払ってほしい


 条件付けるまでもなさそうではあるが、何かあったときに裏をかかれたくない白亜らしい提案だ。


「よかろう。これからもよろしく頼む」

「えっと‥‥‥よろしくお願いします」


 これからどれだけ波乱な日々を送らなければならないのか、白亜は始まってもいない生活をもう既に心配し始めていた。

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