五話目
学校での生活はかなり忙しかった。
最初は春樹にたまにでも会えたらいいなあなんて思って受験したんだけど、ものすごく広い校内では入学式から二ヶ月近くたつというのに一度も会った事がなかった。
偶然にもルームシェアすることになったけど、そうじゃなかったら一度も会わないまま卒業とかもありえたかも…なんて今更ながら思う。
本当に忙しいので、お弁当なんてとても作る余裕もなく、毎日学食を堪能している。
これがなかなか美味しいんだよね。
最近は、学生以外の一般の人も食べに来るくらい人気があるとか。
「今日はラーメンにしよーっと。」
ラーメンはこの学食の名物の一つでかなり美味しい。
「じゃあ、私はオムライスにするかな。」
最近仲良くなった同級生の佐々木 亜紀ちゃん。
たまにこうしてお昼をご一緒している。
亜紀ちゃんは外部からここの大学院からきた私と違って、大学からここに通っている正真正銘のエリートさん。
話していても、本当に頭がいいんだなぁって驚かされる。
ま、この学校の人は基本みんなそんな感じだけど。
それぞれ注文してきた料理を持って空いている席に座る。
さて、いただきまーす、という瞬間に食堂に入ってきた春樹と偶然目があった。
春樹は、友達(見事に全員女の子)と一緒にいて、ゲッとつぶやいたあと、こっちみんなという顔をした。
どうやら、私とのことは隠しておきたいようだ。
感じわるっ。
だけど、私の横に視線がずれた瞬間、突然笑顔になってこっちにやってきた。
「利香じゃないの。偶然ね。」
胡散臭いくらいの笑顔。
なんだか、めちゃめちゃ私と仲良さそうな態度だ。
「ああ、うん、ほんとだね。」
あれ、学校ではあんまり親しくしたくなさそうだったのになーと思って返事をすると、春樹はすでに私の方は見ていなかった。
「利香のお友達?」
視線は既に、亜紀ちゃんしか見ておらず、とても人の良さそうな笑顔で春樹は話しかけた。
はっ…。
そうか、亜紀ちゃんはかなりの美人さん。
こ、こいつ、亜紀ちゃんと知り合いになるためだけに私に声をかけてきたのか?!
「初めまして。利香ちゃんの友人の佐々木 亜紀です。」
呼び捨てで利香、と呼んでいるところに私と親しい友人かと思ったらしく、亜紀ちゃんは特に警戒することもなくにこやかに答えた。
「私は、利香とは小学生から一緒の友人なの。
利香のお友達なら是非私もお友達になりたいわ。
春香と呼んでちょうだい。」
…。小学生から一緒のお友達とか言うと、ほんと親しそうに聞こえるよねー。
ま、実際は一緒に住んでる仲なんですけどね。言えないけど。
しかし、私には下心が透けて見えるくらい胡散臭いんだけど、他人から見たら春樹は女の子にしか見えないからねー。
警戒心も持たれないんだろうな。
「まあ、小学生から一緒なんですね。
そんなに仲良しの子が同じ学校にいるなんて羨ましいわ。」
全く疑う事もなく亜紀ちゃんは言った。
いや、そこまで仲良しじゃあないんですけどね。
っていうか、春香って呼んでとか、お前は春樹だろー!とめちゃめちゃ叫びたい。
ま、言ったらものすんごい怒られそうだから言えないけど。
春樹は美人さんの亜紀ちゃんとお知り合いになれてかなりご満悦のご様子。
確かに、昔から春樹の好きそうなタイプだけどさ。
私の友達とかほんと勘弁してほしいよ。
ただでさえ、忙しい院生で外部からやってきた私には友達作るチャンスなんて滅多にないんだからさ。
私の恨みがましく冷たい視線に気づいてるだろうに、春樹はさっさとお友達と共に私たちの隣の席に座って、一緒にお昼を食べようとしている。
おかしい…。
何年も片思いしていて、大学まで追いかけてきて、やっとこさ一緒にランチが食べれるというのに全く嬉しくない。
むしろ、かなり虚しい。
私は、すっかり伸びてしまったラーメンをわびしくすすった。