三話目
「えええ?! 春樹?! なんでここにいるの?!」
私はかなりうろたえて、春樹を指差しながら叫んだ。
「 それは、私が聞きたいわ。
うちの大学の学生限定で出してたはずなのになんで利香が来るのよ。」
普段あんまり動揺したりしない春樹もさすがに驚いたのか目をパチパチさせながら言った。
「 それは、私が帝国大学の院生になったからだよ!」
「え、利香が? うちに受かったの?」
春樹はかなり意外そうに言った。
…。失敬な。
そりゃ、春樹に比べれば遥かに劣るけど、私だってそこそこには学力あったの忘れてるのだろうか。
いや、むしろ私の学力なんていちいち把握してないか…。
ってか、問題はそこじゃなくて…。
「ってか、春樹、ルームメート募集してた人の名前、斎藤 春香になってたじゃん!!
あんたの名前は、斎藤 春樹でしょ?!」
そう、そうなのだ。
もちろんルームシェアするんだから、何度もメールでやり取りした。
名前だって確認するに決まってる。
春樹に似た名前だなあとは思ったけど、まさか本人が偽名を使ってるなんて考えもするはずもなく、全く気づかないまま今日を迎えてしまったという訳だ。
「 一文字くらい…。いいじゃない…」
さすがに、偽名がバレて多少後ろめたいのか、春樹は私から目を反らして言った。
「 一文字くらいって…。そういう問題じゃないでしょー!
ってか、春香ってなんですか!」
思わず敬語になっちゃった。
「 春香っていうのは、私が学校で名乗っている名前よ。
だって、春樹だなんて言ったら男ってバレちゃうじゃないの。」
春樹は当然のように胸をはって言った。
「バレちゃうって…。偽名まで使って性別偽ってんのー?!
ってか、女の子限定でルームメート募集してたよね??
女の子のフリして、一緒に住むつもりだったわけー?!」
「えっとお…。」
さすがの春樹も、私の突っ込みに口ごもる。
「 ってか、女の子の格好してるけど、あんた女の子大好きでしょ?
一緒に住んでどうするつもりだったのよ。」
「 ちょっとそんな大きな声で言わないでよ、外に聞こえたらどうするのよ。」
私の言葉に、さすがに慌てた春樹は私の腕をつかんで玄関から家の中に引っ張りこんで言った。
「 …。ちょっとかわいい女子大生と一緒に住めたら楽しいかなって思っただけよ。」
仁王立ちで睨み付ける私に諦めたのか、春樹は白状した。
こ、こいつ…。まじで最悪だ。
「 はあー。せっかくかわいい女の子と楽しく暮らそうかと思ってたのに…。
利香じゃ正体バレてるし…。好みじゃないし…。
まあ、気を使わなくていっか。 よろしくね。」
春樹はぶつぶつとつぶやくと、一人で解決したのかにこっと笑って手を差し出してきた。
好みじゃないとか、地味に聞こえてるよ!
片思いの身としては実はかなりのダメージを受けたんだけど…。
って、そうじゃなくて。
「 いやいやいや、よろしくねって、春樹そんな格好でも一応男でしょ?!
仮にも女の私とルームシェアなんてさすがにないでしょー?!」
「 一応男とか、そんな格好とか失礼ね…」
えーっと、春樹に言われたくないわー。
「 ってか、利香私とルームシェアしないにして、他に住むとこあるの?
もう明後日から学校始まると思うけど。」
「 うっ…。」
春樹の言葉に口ごもる。
確かに入学式も終わり、明後日から学校が始まる。
大学生と違ってかなり忙しい日々になるだろうと予想されているので、今から探したり引っ越したりする時間があるとはとても思えなかった。
「 で、でも…。」
「 っていうか、さすがに小学校から知ってる利香にはなんかしたりはしないわよ。
それに私、利香の事女の子として見たことなかったし…。」
っておい、全くフォローになってないよー!
そりゃ、薄々はそうかなあとは思っていたし、冗談っぽく利香じゃなくて利男とか呼ばれたりもしてたけどさ。
はああー。
「 何よ、その怖い顔。」
怖い顔じゃなくて傷ついている顔なんですけどね!
「 わかったよ。よろしくね。
でも、女の子連れ込んだりしないでよね?」
私は恨めしげな顔をして春樹に言った。
さすがに、同じ家に住んでて、他の女の子でも連れ込まれたりした日にはさすがの私も立ち直れる気がしないもん。
「 わかってるわよ。お互い騒がしいと勉強の妨げになるでしょ?
だから、同性でも連れ込み禁止にしときましょうよ。」
そっか、こんな格好でも、春樹は春樹だもんね。
めちゃめちゃ勉強家なんでした…。
「それに、気を抜いてるとこ、利香の友達にでも見られちゃうと正体ばれちゃいそうだしね。」
そして、春樹はにやっと笑って言った。
こ、こいつ…。
私の友達まで狙う気なのか?!
そして、波乱万丈な同居生活が始まることになる。