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Wing Fighter Ν  作者: 屋久堂義尊
episode03 勝沼
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第三幕

 戸ヶ崎は五藤と合流していた。

「何か手掛かりは?」

 問う五藤に戸ヶ崎は少し躊躇した。しかしそれが顔に出たのであろう、五藤は察したように戸ヶ崎の眼を見詰めた。

「戸ヶ崎隊員、何か見たのね?」

 戸ヶ崎は怯んだ。先程の男の事を話すべきか、真剣に悩んだ。彼が消えたエメラルド色の光は、Νの消えた光と同じだった。その事を戸ヶ崎はまだ、誰の元へも報告しなかった。いや、したく無かった。

「あのプレデターの痕跡を見ました」

 戸ヶ崎は咄嗟に嘘を吐いた。それは賢明な判断とは言えなかったかもしれない。ただ、戸ヶ崎は、自分が彼を守らなければならないと思っていた。もしも、彼の予想が正しければ……。

 戸ヶ崎は思い出した。あの男の腕の傷。あれは、Νの噛まれた傷と同じだ。同じ所を怪我していたのだ。彼の予想は段々と確信になっていった。

 戸ヶ崎はだからこそ、白々しく嘘を吐くのだった。もし、彼の事が知られれば、メサイアは何をするか分からない。メサイアが、黙っているはずは無いのだ。それは彼にも良く分かった。

「で、戸ヶ崎君、その痕跡ってのはどうなのよ?」

 木元が無邪気に問いを投げて来た。戸ヶ崎は一瞬怯んだ。その事を考えていなかったからだ。

「戦闘の……戦闘の跡が有ったんです」

 少ししどろもどろになりながらも戸ヶ崎は答えた。それが嘘では無い事は確かだった。

「そんな物、私達でも見付けられるわ」

 五藤が呆れたように言ってのけた。それを聞き戸ヶ崎は少し安心した。五藤が巨人の事から眼を逸らしたからだ。

 戸ヶ崎は、先程の男を思い出していた。至って普通の何でも無い男。しかしΝと同じエメラルドグリーンの光に消え、Νと同じ所を負傷している。これは偶然なのか? そんな事は無い。

「戸ヶ崎隊員。プレデターの後を追うわよ」

 五藤が述べると、戸ヶ崎は一気に現実に引き戻された。

「了解しました」

 戸ヶ崎はそう述べると、五藤、木元に続いた。


「あのプレデター、コードネームはGARLANDと決まったわ」

「GARLANDですか」

 宮本がゆっくり頷いた。恐竜型の姿をしたGARLANDとΝの戦う様子を見ながら、藤木が端末を叩いていた。

「GARLANDは矢張り蛋白質で構成されています。今まで現れたプレデターと同じですね」

「では、Νの方はどうなの?」

 本郷がゆっくりと尋ねた。

「構成する物質は分かりません。まさに光です」

「光、か……」

 本郷は腑に落ちない顔をした。

「奴等をどうにかするには、新兵器が必要ね」

「新兵器、ですか?」

 宮本が聞き返した。

「振動ミサイルでは限界が有るわ。もっとダメージの大きい物を手配して貰いましょう」

「国が頷くかどうかですね」

 宮本はクールに返した。それを聞いて、藤木も頭を縦に振るのだった。


「あいつ、どこに消えやがったんだ?」

 木元がイグニヴォマ片手に、森を進んでいた。森は靄がかかっていて、視界が良いとは言えなかった。戸ヶ崎が見付けたと言うそのプレデターの跡は、地面に出来た巨大な穴だった。奴が潜り込ん出来た穴だとは誰が見ても明らかだった。

 木元はセンサーを見た。何の反応も無い。

「こちら木元、問題無しです」

 木元は五藤に連絡を入れた。

「了解した、引き続き調査を」

 五藤は五藤で、全く相手が見付からない事を矢張り良く思っていなかった。プレデターが市街地にでも出るとすれば、それは大惨事の幕開けだ。そんな事はさせたくない。それは誰もが抱く考えだった。そして厄介なのはΝだ。あんな強大な力を持った化け物がプレデターと戦ってくれている内はまだ良い。全てのプレデターを倒した時、Νはどうなるのか? 或いは人類に牙を剥く可能性は無いものなのか? いやそうとは言い切れない。戸ヶ崎隊員のように全面的にΝを味方だとは言えないだろう。そう思う方が普通だと五藤は考えていた。

 するとそこに、宮本から通信が入った。

「こちら五藤」

「宮本だ。政府が圧力をかけて来ている。何とかならないか?」

「副隊長、我々のサーチシステムでは限界が有ると考えられます」

 五藤は至ってまともな返答をした。勿論それは、宮本であっても分かる事だった。

「了解した。俺達も合流する」

 宮本はそう言うと、通信を切った。



 戸ヶ崎は、イグニヴォマを構えて慎重に前へと進んだ。

 その時、地面の下から何かが突き上げるような地震が起きた。戸ヶ崎は急いで腹這いになり、イグニヴォマのシュツルムファウストをセットした。地震は少しずつ治まって行ったように見えたが違っていた。震源が動いているのだ。このままの方向だと町へ出てしまう。

 戸ヶ崎はどうしたら良いか考えた。そして、本郷へ連絡を入れた。

「こちら戸ヶ崎。現在辰野町Q3αポイントで移動する震源を確認。ガーランドだと思われます」

「戸ヶ崎隊員、良く見付けたわ。直ちに攻撃を開始する。戸ヶ崎隊員もハリアーへ移りなさい」

「しかし、このままだと市街地に被害が……」

「貴方のような歩兵に何が出来るの? 落ち着きなさい。丁度いま、副隊長と藤木隊員がクロウ2で向かっているわ。五藤、木元の両隊員もハリアーへ。GARLANDを爆撃しなさい」

 戸ヶ崎は躊躇したものの、すぐに自分の機体へ向かって、全速力で走るのだった。

 山肌を伝う道路がコンクリート塀ごと吹き飛び、GARLANDが姿を現した。GARLANDは真っ直ぐ人口密集地帯を目指していた。そこにメーザーバルカンの光線が襲い掛かった。宮本と藤木を乗せたハリアーMK9だった。

 GARLANDの口に紅い光が灯って、それが直線状に発射された。宮本の操縦する機体は、宙返りをしてそれを交わした。

「あんな特技を持っていたとは……」

 宮本は、ハリアーをホバリングさせると、真後ろに周り込んだ。振動ミサイルが発射されて、真っ直ぐGARLANDの背中に突き刺さって爆発した。

“GWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!”

 GARLANDが、悲鳴を上げる。

「効いています」

 藤木が報告し、更にロックをする。次の振動ミサイルを発射した。再度背中にそれが突き刺さろうとした瞬間、GARLANDの背中が発光し、ミサイルの軌道が変わった。

「何だ今のは?」

 宮本がGARLANDを正面に捉えながら間合いを計っていた。

「強力なジャミングです」

 藤木の手には汗が握られていた。

「そんな能力まで持っているのか?」

 GARLANDがこちらを振り向き、紅い光線を口から吐き出した。宮本はアクロバティックな飛行で何とかそれを躱した。宮本はメーザーバルカンに攻撃を切り替えるように藤木に命じた。青白い光線が、GARLANDに降り注ぐ。しかし、振動ミサイル程の効果は無い。

「あの化け物を倒す方法は無いのか?」

 宮本は考えた。奴の――GARLANDの弱点は無いのか?

 一方GARLANDも、口の中に紅いエネルギーを溜めていた。そこに、大量の振動ミサイルが襲い掛かった。だがGARLANDは紅い光線で、ミサイルを薙ぎ払った。目標に到着する事無く、爆発をするミサイル達。GARLANDの肉食恐竜のような姿が炎の中に浮かび上がる。まさに悪魔だった。

 木元のクロウ1が最初のミサイルポッドをパージして次のミサイルに切り替えていた。

「ホムラ、駄目だ。あいつには誘導タイプのミサイルは通用しない」

 藤木が報告する。

「厄介な相手だ」

 宮本は、一度空中にハリアーを飛ばして、真下にGARLANDを捉えた。そのまま藤木に命じてレーザーバルカンを発射した。GARLANDは紅い光線を放って抵抗するも、頭上には届かない。

「思った通りだ」

 宮本の口に僅かながら笑みが浮かばれた。

「奴の死角は直上だ。頭の上は攻撃出来ない」

 それを聞いて、木元機も上昇する。だが、ミサイルポッドが有る分機動力の落ちたクロウ1は自らの弱点を曝してしまった。GARLANDは紅い光線を放つと、木元機のがら空きな腹部を狙った。火花を上げる機内。木元機は煙を上げて、段々に高度を下げていた。

「まずい、やられる!」

 木元が覚悟を決めた時、青白いメーザーバルカンの攻撃が、GARLANDの右眼を直撃した。

“GWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!”

 悲鳴を上げるGARLAND。

「お待たせ」

 五藤が操縦し、戸ヶ崎がガンナーを勤めるクロウ3が到着したのだ。

「良いタイミングだな」

 宮本の声が機内に響いた。

 一方木元機は、無事山肌に不時着し、木元がコックピットからイグニヴォマを担いで出て来るのが分かった。

「副隊長、奴を牽制します。頭上からの爆撃をお願いします」

 五藤はそう述べると、機体を低空飛行させて、GARLANDの足元を攻撃した。

 一方クロウ2は一度機体を水平にして、腹部からエネルギー爆弾を落とした。それが、GARLANDを赤い炎に包んだ。GARLANDはひたすらそれに向かって光線を吐いていたが、それはどれもクロウ2に届かなかった。宮本は執拗にGARLANDを爆撃させた。その攻撃は、確実にダメージを与えていた。また、戸ヶ崎の狙う位置も意外と正確で、GARLANDの足元を執拗に、これでもかと攻撃していた。と、森の中からミサイルが飛んで来た。恐らく木元であろう。

 左眼を無くしたGARLANDは、まず自分の周りをうるさく飛び回るクロウ3を第一目標にする事にしたらしく、紅い熱線を浴びせて来た。だがそれを避けるのは五藤にしてみれば大した仕事では無かった。エネルギー爆弾が一発GARLANDの頭を直撃した。GARLANDは悲鳴を上げて、地面に転がり込んだ。

「今だ!」

 戸ヶ崎、藤木は振動ミサイルを有りっ丈発射した。それは真っ直ぐに片や下の方から、片や直上から突き刺さって爆発した。

「これで終わりか?」

 木元がイグニヴォマに、シュツルムファウストを備え付けて煙の方を見た。もうもうと上がるそれの中に、蹲る影が有った。木元は銃を構えた。目標からは外れていない。

 GARLANDは立ち上がると、傷だらけの身体で空を憎々しげに見上げていた。木元は構えていたイグニヴォマのシュツルムファウストを発射した。それは真っ直ぐにGARLANDの首元を直撃した。爆発し、倒れるGARLAND。そのまま動かない。

「勝った?」

 木元は次のシュツルムファウストを銃の先端に取り付けて様子を伺った。

 クロウ2も、爆撃の体勢を解除して、降下して来ている。

 クロウ3は、一旦着陸をした。回収班の到着まで、警戒を怠らないという訳だ。

 森に入ってまずは目標の監視が必要だった。処理班が入るまで、マスコミ等を近付けないという訳である。

 戸ヶ崎は山中を歩いていた。敵であるGARLANDが仕留められたからと言って、油断は出来ないしイグニヴォマを離す事も出来ない。センサーにも反応は無いが、気を緩める事も不可能である。戸ヶ崎は周囲を警戒した。

 その時だった。突然熱源が発生した。戸ヶ崎はイグニヴォマを構える。その先には、男がいた。黒い服、黒いズボン、黒い靴。半袖では有ったものの、全身真っ黒の男だった。その男が、エメラルドグリーンの光から突然現れたから戸ヶ崎は驚いた。以前見た男だった。

「貴方は……」

 戸ヶ崎は、銃を男へ向けた。

「貴方は一体何者なのですか?」

 男は顔色一つ変えずに戸ヶ崎へ向き直った。

「俺は……」

 戸ヶ崎は男の右腕を見た。傷跡が生々しく残っている。

「矢張りそうなのですね」

 男は戸ヶ崎の述べた事の意味が分かったらしい。ゆっくりと頷くと、エメラルドグリーンの菱形のペンダントを握り締めた。光がそこから洩れだす。

「お前の思っている通りだ」

 男は口を開く。それだけで、今の戸ヶ崎の思う所はクリアー出来た。

「貴方はΝなんですね?」

「お前達は俺をそう呼んでいるみたいだな」

「プレデターと戦うのは何でなのですか?」

「それが俺の使命だからだ」

「使命?」

 戸ヶ崎はその答えに一瞬怯んだ。何故一般人であるだろうこの男に、使命が付き纏わるのだろうか?

「今回は、素直に礼を言う。あの化け物を倒してくれたのだろう?」

 戸ヶ崎は複雑な表情を作った。

「以前貴方が戦っている時に、自分達が妨害したのです」

「そうかもしれない。だがそれは仕方が無い事だ」

「仕方が無い?」

 男は右腕の傷を押さえた。

「お前達の仲間が俺を敵視しても間違ってはいないのではないか? 俺は、化け物共、プレデター共と大して変わらないしな。そこは仕方が無いだろう」

 戸ヶ崎は、本当に申し訳無いと感じた。彼の主張をもっと押し通すべきだったと考えたのだ。

「共闘するつもりは無いのですか?」

「無い」

 男はにべも無く答えた。

「どうして?」

「俺はメサイアを信じていない。人々を騙してδ地点なんて物を作って、軍隊を持っているのと変わらないではないか。それは日本国憲法に反すると俺は考える。もはや専守防衛の域を越えているだろう、メサイアという組織は」

 戸ヶ崎は黙るしか無かった。そう、彼もメサイアに疑問を感じている。戦うか、精神病院へ行くかの二択しか無いあまりにも暴力的な組織、それで良いのかと戸ヶ崎は悩んでいた。

「お前達の組織が正義の為に戦うと言う名目で強大過ぎる戦力を手にした。俺は俺で、プレデターと戦う為に、この力を手に入れたんだ。それだけの違いだ」

 戸ヶ崎の頭は混乱した。この男が何を言っているのか理解出来なかったのだ。彼にしてみれば、結局同じ事なんだ、同じ志で動いているんだと思ってしまった。だからこそ手を組めると思っていたのだ。だがそれは戸ヶ崎の勝手な思い込みだったらしい。

「俺の事は、報告するのか?」

 戸ヶ崎は、その問いに首を振った。

「メサイアは貴方をきっと束縛します。貴方に兵器としての価値しか求めないでしょう。それはあまりにも酷過ぎるとは思います。自分は、報告はしません」

 男はフッと笑うと、ゆっくりと背中を向けた。

「あの、貴方の名前は⁉」

 戸ヶ崎が急ぎ尋ねた。

「勝沼竜だ。また会おう、戸ヶ崎伸司」

「どうして自分の名前を?」

「俺にはそういう能力も有るんだよ、戸ヶ崎」

 男――勝沼はエメラルドグリーンの光に飲み込まれていった。

 そのまま光の粒子となり勝沼は消えた。戸ヶ崎の眼の前にはただの森が広がっているだけであった。

 戸ヶ崎はイグニヴォマを構えると、再度警戒任務に戻るのだった。

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