序幕
倒れたΝにCAANSは容赦無い攻撃を加えた。まずはその右腕に鋭い牙が突き立てられた。Νの噛まれた傷口からエメラルドグリーンの光が漏れた。Νは抵抗出来ないかのようにされるがままだった。
「副隊長!」
戸ヶ崎が怒りを交えた声を上げた。このままではΝは敗れてしまう。するとどうなるのだろうか? 勝沼の命が失われるという事だろうか? だとしたら、Νを援護しないといけないと戸ヶ崎は思った。勝沼さんと約束したんだ。人として彼を助けると。しかしガンナーである五藤が動かなければ意味が無い。
だったら――。
戸ヶ崎は武器管制を自分に移す事にした。五藤も眼を瞑ってくれるだろうと信じて。
「戸ヶ崎、何故お前が武器管制をする?」
早速お叱りの言葉が宮本から出た。
「まさか戸ヶ崎君、Νを援護するつもりじゃないの?」
「止して置け、どうせ効果は無いさ」
木元と藤木の声が更に戸ヶ崎を落胆させた。やってみる前から駄目だと決めつけるのは怠慢と一緒だ。戸ヶ崎は、編隊から抜け出すとそのまま一気に降下した。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
叫ぶ戸ヶ崎はジャベリン、振動ミサイル、メーザーバルカンをCANASにぶつけながら錐揉み飛行をした。戸ヶ崎も漸くこれ程、機体を制御出来るようになったのだ。ツイストを描くように次々とミサイルが、メーザーが襲い掛かる。だがどれもそのCANASに打撃を与えたようには見えなかった。戸ヶ崎は機体を急上昇させて、再度同じ角度から攻撃を仕掛けようとした。
だが次の瞬間、武器管制を奪われた。五藤が再度ガンナーとして登録された。
「五藤隊員!?」
戸ヶ崎は半ば苛つき、半ば絶望でその五藤の表情を見ようとした。だが見えないのが事実だ。
「五藤隊員、何故邪魔をするのです!?」
「戸ヶ崎隊員、私達は一抹の感情で動いていてはいけない存在よ。忘れたの? Νが味方だとしてもそれを無闇矢鱈と掩護は出来ない」
「じゃあ、このまま勝沼さんが死んでも構わないと仰るのですか!?」
「そうは言わないわ。ただもう少し辛抱が必要だとは思うけれど」
「辛抱ですって!? 現に彼はあんなに傷付いているのですよ!?」
「そんな事分かっているわ!」
五藤が怒鳴ったので戸ヶ崎は怯んでしまった。戸ヶ崎にしたら、五藤の発言は許せる物では無いと言えたが、だが五藤は正しいとも分かっていた。彼女は保険を掛けているのだ。あまりΝに――勝沼竜に近付くと情報が漏れる可能性が高い。それを警戒していたのだろう。
戸ヶ崎は額に汗を浮かべていた。




