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Wing Fighter Ν  作者: 屋久堂義尊
episode19 MABIRES-II
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第三幕

 クロウ2は、大崎市上空からその戦いを見た。えんじ色の身体のMABIRES-IIが、小さな戦闘機を追っていた。本郷と金澤が乗るクロウ3だった。

「今、援護します」

 宮本が一気にMABIRES-IIの方向へ向ける。

「素早い」

 藤木が改めて感じた事を述べた。

「本郷隊長が囮となっている。今の内に奴を叩き落とす」

 宮本はそう述べると、本郷とMABIRES-IIのドックファイトに加算した。クロウ3、MABIRES-II、クロウ2の順に並んだ。

 クロウ2のミサイルポッドから、振動ミサイルが放たれた。それはがら空きだったMABIRES-IIの背中を襲った。MABIRES-IIは悲鳴を上げると、そのまま煙の尾を棚引かせながら、墜落していった。

「副隊長、有難う」

 本郷から通信が有った。

「地上で奴を叩きます」

「任せるわ」

 本郷は、そう言うと、クロウ3を雲の下へ向かわせた。

「私を忘れて貰ったら困りますよ!」

 超高速で雲の中に突き刺さる機体が見えた。クロウ1、木元の機体だった。

「地上で奴を足留めする。その間にプロメテウスカノンを!」

「了解、藤木隊員」


 大崎市で、MABIRES-IIは撃墜された。その巨体が吉田川に叩き付けられる。激しい水飛沫と共に、MABIRES-IIは恐ろしい叫び声を上げた。

 戸ヶ崎と五藤は、それを見届けると、イグニヴォマを構え、川の方へと走って行った。

「プロメテウスカノンを確実に当てる」

 宮本の決意が聞こえた。

「私も同感です」

 五藤が返した。

「クロウ1はいつでも撃てるように。クロウ2が囮になる」

「金澤隊員、大丈夫ですか!?」

 戸ヶ崎はインカムに怒鳴った。

 本郷のアクロバティックな飛行で頭を回していた金澤だったが、絞り出すような声で返事を送った。

「何とか……」

「金澤隊員、巨人は現われますか!?」

 戸ヶ崎は本題を切り出した。それを聞いた五藤も思わず歩みを止める。

「今の所は、そういうビジョンは無いです」

 金澤の答えを聞き、戸ヶ崎は礼を述べて、一気に駆けるのだった。


 MABIRES-IIは川の中から起き上がった。その顔面にメーザーバルカンの雨が降り注いだ。クロウ2が攻撃を更に加えたのだ。火花が、MABIRES-IIの顔に散る。MABIRES-IIは、首を横に振ると、今度は口を開けて、火球を放った。クロウ2が猛攻撃を受ける。

「藤木、奴の狙いをこちらへ集中させろ」

「了解です」

 宮本がMABIRES-IIを、わざとスピードを落として接近しつつ藤木に攻撃をさせたのはそういう狙いからだった。藤木も臆する事無く、メーザーバルカンと振動ミサイルを放つ。MABIRES-IIは怒り狂い、火球を次々に放った。

「良いぞ、狙い通りだ」

 藤木がほくそ笑む。宮本も冷徹な眼でMABIRES-IIをロックし続けた。

 MABIRES-IIはそんなクロウ2の攻撃を受けて、火球を乱れ撃ちした。しかし、クロウ2はMABIRES-IIの上空を通過し、それを避けつつ町への被害を減らしていた。

「単細胞め、今消し飛ばしてやるよ!」

 クロウ1が、MABIRES-IIをロックし、ホバリング体勢に入った。

 しかし、MABIRES-IIはそれに感付いた。突如翼を広げると、羽ばたき始めた。

「逃げる気だ!」

 藤木が振動ミサイルをMABIRES-IIの翼を狙って放った。所がそれは全弾、羽ばたいた際の風に押し流されてしまった。

「だったらこれで!」

 藤木はメーザーで攻撃を仕掛けた。MABIRES-IIの顔面を集中的に狙った。だがその炎の中でも、MABIRES-IIの眼玉の光は消える事無かった。

 逃げられる……!

 そう誰もが思った時、MABIRES-IIの足元から一条のレーザーライフルが放たれた。それは、MABIRES-IIの脚部を貫通した。

 羽ばたいていたMABIRES-IIは僅かに浮き上がったものの、その攻撃を受けて再度地面に衝突する事となった。今度は吉田川を越えて、広大な田園地帯に転がった。MABIRES-IIは泥だらけの顔面を持ち上げると、雄叫びを上げた。

「吠えたいだけ吠えな」

 木元はにんまり笑うと、プロメテウスカノンのトリガーに指を掛けた。

「これでお仕舞だ!」

 木元のクロウ1から深紅の破壊光線が放たれた。それは真っ直ぐにMABIRES-IIに吸い込まれて行った。

 MABIRES-IIは腹部にその一撃を受けた。そのまま肉片を撒き散らしながら、MABIRES-IIは光線の威力に押されてどんどんと地面にめり込んで行った。そして、プロメテウスカノンは沈黙した。

「直撃だ!」

 木元は興奮気味に勝ち時を上げた。

「ナイスだホムラ!」

 藤木も嬉し気に労った。

 地上で敵を牽制していた戸ヶ崎と五藤もイグニヴォマを構える手を緩めた。戦いは終わった。


 倒れたMABIRES-II。腹部に風穴が空いている。そこから煙がもくもくと上がっている。どす黒い体液が腹部の穴から溢れ出ていた。倒れた水田が、その黒い体液に染まっている。六つの眼は焦点を失っていて、光を灯していない。

 と、腹部の傷口からその黒い体液が溢れ出た。その巨体が倒れている水田に、振動が伝わって波紋が広がる。MABIRES-II傷口に、光が走った。その首が、痙攣するように動く。そして、皮膚に欠血管が浮き上がった。


 クロウ1とクロウ2が戸ヶ崎と五藤のいる作戦ポイントF1αの上空へと向かった。今の所、ΝもΞも姿は見えない。

「今回は邪魔が入らなかった。助かる」

 宮本が本音を述べた。

「これが僕達の実力ですよ」

 藤木は鼻高々だった。

「倒したのは私の攻撃だけれどね」

 木元が駆る口を叩いた。

 戸ヶ崎は五藤と並んで、沈み行く夕陽を見ながらMABIRES-IIの死体を眺めていた。そこは小高い丘になっていた。

「勝沼君は来なかったわね」

「長峰もです。お陰で作戦は無事に済みました」

「そうね。でも、少し複雑な気分だわ」

「複雑ですか?」

「ええ。前に戸ヶ崎隊員が言ったわよね。時間稼ぎをしているって。きっと今回もそうよ。Ξは――長峰深雪は力を溜めているのだと思われるわ。MABIRES-IIはその為に時間稼ぎをしたに過ぎない。きっと長峰は、勝沼君を倒す為の充電期間に入っただけなのよ」

「そうでしょうね。ただ、自分は勝沼さんの言葉をまだ信じています」

「信じる?」

「プロメテウスカノンを当てる為に、勝沼さんが奴を押さえると言った事です。勝沼さんも、今は力をチャージして、いつか自分達のピンチを救ってくれるでしょう。彼はそう信じて良いと思うんです」

「果たしてそうなのかしら?」

 戸ヶ崎は、五藤が突然疑問を投げかけたので怯んだ。

「私は危険に思っている。勝沼君が、いつ死んでもおかしくないという事を」

「あれだけボロボロになってまで、まだ戦い続けているからですか?」

「いや、長峰がプレデターを操っているとして、人間体の時の勝沼君を襲わせれば一溜りも無いかもしれないでしょう? もうそれが済んでしまった後だったら――」

 戸ヶ崎は眼を丸くした。そして噛み付いた。

「そんな事、無いです!」

 五藤はそんな戸ヶ崎を見て、少し憐れそうな顔をした。そして、選んだように言葉を紡いだ。

「そう言い切れないから心配なんじゃない」

 五藤の顔には疲れが見えた。戸ヶ崎はそれを見て、五藤が他人事で考えているのでは無いと知った。

「戸ヶ崎隊員、私は勝沼君がメサイアに下る方が良いのではと思っている」

「何ですって!?」

「確かに勝沼君の自由は奪われる。でも彼を狙う長峰やプレデターからは離す事が出来るかもしれないでしょ」

「しかし……」

「どちらを取るかよね、勝沼君が。でも私は共闘出来ると信じているわ。だからこそ、共にメサイアで一緒になって欲しいと思うの」

 戸ヶ崎は言葉を無くしてしまった。五藤の想いは、分からない話では無い。勝沼が危ないのは、彼が単独だからという点も有ると、戸ヶ崎は知らされたのだ。だが、戸ヶ崎は勝沼の考えているその真髄が分かっていた。そうだ、メサイアは信頼出来ないのだ。こんな組織が有ってはならないのだ。

 夕日が完全に沈もうとしていた時、戸ヶ崎と五藤の影は長く県道に延びていた。

 その時だった。

 肉が潰れるような音がした。そして、戸ヶ崎と五藤はその音がした方を見て言葉を失った。


 火の球が、真っ直ぐクロウ1を襲った。クロウ1は直撃を浴びて、機体はバランスを失い、炎を上げた。

「何なのよ!?」

 木元の苛ついた声がインカムに響いた。

「藤木、どういう事だ?」

 宮本はまだ冷静である。分析役の藤木に問いながら、クロウ2を急上昇させた。

「MABIRES-IIの生体反応、再度上昇!」

「何だって!?」

 木元が叫ぶ。

「だって、プロメテウスカノン直撃したのよ!」

 木元の機体は炎を上げながら高度を下げていく。その眼の前に、腹部に穴が空いたMABIRES-IIが立っていた。その口から火球が放たれる。しかし、ダメージは確実に有った。MABIRES-IIは、火球と共に、真っ黒い泡を噴き出していた。

「ちい! 二発目のプロメテウスカノンを使いましょう」

 藤木が提案した。

 しかしMABIRES-IIは翼を広げると、再度羽ばたき出した。その風は、クロウ2の機体を揺らした。

「一度距離を置く必要が有ります」

 藤木が切実な声を上げる。宮本はそれを聞き、更に機体を上げた。

 だがMABIRES-IIはそんなクロウ2を無視して、身体を宙に浮かせた。

「まずい、逃げられる!」

「焦るな藤木。奴の傷口を狙って再度プロメテウスカノンを浴びせれば良い。外すなよ」

「しかし、奴の運動性はこちらを凌駕しています」


 戸ヶ崎はイグニヴォマを構え、レーザー光線を撃った。それはMABIRES-IIの翼を撃ち抜いた。だが、MABIRES-IIは羽ばたきを止めない。

「副隊長、こちらで牽制します。何とかプロメテウスカノンを使って下さい」

 戸ヶ崎はレーザービームを次々と撃つ。

「奴の傷口を狙うんだ」

 藤木から指令が出た。

「やってみます」

 五藤が返し、バルカンを放つ。MABIRES-IIの腹の傷口に血飛沫が上がり、闇夜に真っ黒い体液が花を咲かせる。

「ダメージは加わっていないのか?」

 宮本の声が聞こえる。

「諦めたら駄目です、最後まで」

 戸ヶ崎は、シュツルムファウストを取り付けると、MABIRES-IIの傷口目掛けて放った。ボウっと爆発が起き、MABIRES-IIの浮いた身体から更に体液が溢れる。MABIRES-IIは悲鳴を上げたものの、上昇を続ける。そして、その邪魔をする戸ヶ崎と五藤を火球で攻撃した。戸ヶ崎は爆風に吹き飛ばされて、五藤も身体を倒してしまった。五藤の手から滑り落ちたイグニヴォマが、電柱にぶつかり、火花を上げる。

「武器を失った」

 五藤が呟く。そして、その五藤を、次々に火球の嵐が襲う。

「五藤隊員!」

 戸ヶ崎が起き上がりつつ叫ぶ。五藤の姿は爆発の中で戸ヶ崎の視界から消えてしまった。

「くっそー!」

 戸ヶ崎はイグニヴォマを構え、レーザーライフルを放った。

 炎に覆われた五藤は抵抗する手段も逃げ道も失っていた。その五藤の眼の前で紅蓮の火球がMABIRES-IIの口に燃え上がっていた。

「やられる――!」

 五藤は瞼を閉じた。

 勝沼君、助けて!


 その時、MABIRES-IIの貫通した傷口である背中で爆発が起きた。MABIRES-IIは腹部、背部、口からどす黒い体液を溢れさせて、地面に叩き付けられた。

「クロウ3!?」

 藤木が思わず声を上げる。

「金澤隊員、もう一発!」

「了解!」

 金澤はトリガーを引き、振動ミサイルを再度放った。それは真っ直ぐに地面でばたばたともがいているMABIRES-IIのその傷口を猛爆した。

「宮本副隊長、今よ!」

 本郷が促した。

「藤木、プロメテウスカノン!」

「プロメテウスカノン、ファイア!」

 クロウ2の機体上部に設置された砲門が唸り、深紅の破壊光線が放たれた。それは、地面を薙ぐようにMABIRES-IIの身体をなぞった。MABIRES-IIは、その光線を浴びて、一呼吸置いてから大爆発を起こした。MABIRES-IIは完全に消滅したのだった。


 五藤は炎の中、額に傷を負いながら生きていた。傷口からは血液が漏れ出ていたが、そんな物を気にしてはいられなかった。ただ、彼女は己の思いもよらない考えに驚いた。最期を感じた時、彼女は勝沼の名を、姿を、力を思ってしまった。

「何と都合の良い」

 五藤はそう呟くのだった。


 不時着したクロウ1から離れた木元は、赤面しながら金澤と向き合っていた。金澤がガンナーとして放った振動ミサイルが、今度の勝敗の起点となった事は、木元であっても認めざるを得なかった。特に、撃墜された木元はその事を素直に認めるのが恥ずかしかった。

「あ……有難う」

 木元はそう述べ、金澤に右手を差し出した。金澤はにっこり笑うと、その手を握った。

「今度の危機は、俺のミスです」

 宮本は本郷に謝罪した。

「油断大敵という事よ、副隊長。始末書、宜しくね」

 本郷はそう言うと、何も気にしていないよに手をひらひらさせるのだった。

 戸ヶ崎は、イグニヴォマを抱えながら、まだ戦いの余韻に浸っていた。危ない所だった。そして、金澤の予言通り、ΝもΞも現われなかった。MABIRES-IIの脅威からは、彼等は解放されたのだった。

 そして戸ヶ崎も、金澤の所へ向かった。金澤は、戸ヶ崎に謝罪した。

「すみませんでした、戸ヶ崎隊員。貴方のクロウ3を私が使ってしまったばかりに危険な眼に遭わせてしまって」

「いや、自分の事は良いです。それよりも、金澤隊員、良かったのですか?」

「戦いに参加した事ですよね」

 戸ヶ崎は本郷から、あの決定打だった振動ミサイルを撃ったのは金澤だと聞かされていた。だから気になって話し掛けたのだった。

「私は後悔していないです。覚悟が足りなかったんです。メサイアに入るという事は、こういう事になるんだと分かっていたようで拒絶していました。その皺寄せがここ最近の私の様でした。ですが、今はスッキリしています。晴れ晴れした気分です」

「そうですか。貴方に後悔が無いならば、自分はこれ以上何も言いません」

「勿論です。戸ヶ崎隊員、祝って下さい。私はこうして、自分の居場所を作る事がこのメサイアの中で出来たのですから」

 金澤は再度、満面の笑みを見せた。戸ヶ崎もつられて笑ってしまった。

「ようこそ、メサイアへ」

「はい。宜しくお願い致します」


 金澤はこうしてメサイア戦闘部隊に正式なウォーリアーとして登録された。単なる演算装置としての役割は終わるのだった。

「面白い事になっていますね」

 その晩、夜勤に向かおうとしていた本郷に片桐が話し掛けた。

「面白いとは?」

 本郷は、何気なく問い返した。

「金澤みのり隊員を、第一線で戦わせる事にしたと聞きましたよ。私の計算を越えています」

「司令の計算ではどういう予定だったのですか?」

「彼女は寧ろ、メサイアを指揮する立場に立たせるつもりでした。それが戦士になるなんて、意外でしたよ」

 本郷はフッと笑みを浮かべた。

「本人の望んだ事です。それで良いと思います」

「貴方には門脇隊長程の卓越した視点が無いようですが、それでも私は貴方の判断を重視しますよ」

「有難うございます」

「戸ヶ崎伸司、金澤みのり、本当に面白いですね。これからを期待しています。くれぐれも敗北の無いように。私はもう眠ります、それでは宜しく」

 片桐はそう言うと、本郷の前から消えるのだった。

「巨人達は何故現れなかったのかを、司令に聞くべきだったかしら?」

 本郷は一人立っていたが、夜勤に入る為にブリーフィングルームに向かうのだった。

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