序幕
「勝沼君がどうして戦士になったのかしら?」
その唐突な問いは、夜勤の交代の時に発せられた。マグカップを持ってコーヒーを淹れていた五藤は、これから仮眠に入る戸ヶ崎に聞いた。
「五藤隊員も気になりますか?」
「ええ。彼が特別に選ばれた事に理由が有るのか、それについては気になるわ」
「どうしてそんな事を?」
「代わってあげたいから……」
戸ヶ崎は思わず眼を皿にした。
「何か変な事言ったかしら?」
「いえ……、確かに勝沼さんでは無い誰かが、Νとなって戦えるならばそうしたいと思います。勿論自分もこの身を立てるつもりです」
戸ヶ崎の言葉に嘘は無かった。勝沼が苦しんでいるのは余りにも見ていられない様子なのだ。ただ、疑問も残る。勝沼の代わりに戸ヶ崎がΝになったとして、Ξを倒せるのだろうか? いや、違う。“誰が”Ξになるかだ。
その事は五藤も感付いたらしい。
「勝沼さんだから、長峰深雪だったんでしょう」
「私もそう思う。もし、私達がΝになれば、長峰深雪では無く、別の人間が敵として現れる。きっと、私達が戦いにくい相手が」
戸ヶ崎はそれを聞き、ゆっくり頷いた。認めざるを得ない現実だった。勝沼の苦悩を背負う事は、生半可な覚悟では出来ない事だった。
「ごめんなさい、もう仮眠に入って良いわよ。後は私が処理するから」
「はい、お疲れ様でした」
戸ヶ崎はブリーフィングルームを後にするのだった。




