序幕
残暑が厳しい年だった。戸ヶ崎はタンクトップ姿で、ベッドに寝転がっていた。しかしセミの声は鎮まっていた。この組織に入ってから幾日経ったのだろうか。戸ヶ崎は時の感覚を失っていた。メサイアは休暇中を除けば完全に周囲から孤立しているように感じた。もしかすると、隔離措置を受けているのかもしれない。メサイアに関する情報は本当に少ない。それはメサイアに所属していても変わりは無かった。
もうそろそろ夜勤の交代の時間か。戸ヶ崎は起き上がると、パワードスーツに身を包んだ。群青色の服にも段々と抵抗が無くなっている。それで良いのかも分からない。
一方金澤は案外馴染んでいるようだった。彼女の能力は確かに買われていた。それは事実だった。彼女は自ら自分の居場所を確保したようだ。それは未だ戸ヶ崎には出来ない事だった。戸ヶ崎は、木元に言わせれば、ただの電波野郎なのだ。金澤もそうだったが、彼女には実力が備わっていた。そこは大違いだった。
戸ヶ崎は、部屋を後にした。夜中の二時だった。
ブリーフィングルームに入ると、金澤がいた。金澤は戸ヶ崎に気が付いた。
「もう交代の時間?」
「そう、自分が変わる」
「有難う」
戸ヶ崎に礼を言うと、金澤はブリーフィングルームを後にした。
彼は複雑な気持ちだった。




