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Wing Fighter Ν  作者: 屋久堂義尊
episode15 殲滅戦
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第三幕

 FANKRAの出現を金澤が預言してから、メサイアの動きはスムーズだった。人工雨を発生させて、マイクロ波地雷を周囲にばら撒いた。そして、周囲の人々を避難させたのだった。

「こちら戸ヶ崎、目標の存在は感知出来ず」

「了解、引き続き警戒に当たれ」

 宮本が命令をする。

「こちら木元、同じく反応無し」

 木本のクロウ1の銃座には、金澤が座っていた。木元はそれがあまり心地の良い物では無かった。

「こんな電波女子の言う事に一回一回反応するなんて、メサイアも変わったなあ」

 木元はわざと、金澤に聞こえるように話した。

「何と思われても結構です。でも私は嘘は言いません」

 金澤はそう返した。

「実際にファンクラが現れれば、私の事を信頼して貰えるのでしょう? だったらもうすぐ明らかになります」

「貴方が裏で奴等を操っている可能性も考えると、完全な信頼は置けないわね」

「私が奴等の糸を引く黒幕だと言うのですね。そう思うのは勝手です。ですが、私は戦力に加えられてもおかしくないと思います」

 木元は溜め息を吐いた。何でこんなのと同じ機体に乗らなければならないのか。

「直ぐに来ます。注意して」

「マイクロ波地雷は準備完了していますか?」

「こちら本郷、金澤隊員の指示通りに設置した。これで外れなければ良いのだが」

「未来とは常に流動する物です。確かな物だと信じ切って良いのですか?」

 宮本の声だった。

「確かに未来は流動する。しかしだからと言って、最終的な結末に変化は無いはずよ。いずれ、FANKRAは滅びるわ。それが分かっただけでめっけもんよ」

 本郷は返した。彼女の中には、きっともう未来のビジョンが出来上がっているのだ。そこにはFANKRAも存在しないのであろう。本郷は信じている、金澤の事を。

「今はこれしか頼りにならない。木元隊員、金澤隊員に託そう」

 クロウ3銃座に座る五藤が続けた。

「はいはい」

 木元が半ばうんざりしたように返答した。

 五藤は胸騒ぎを覚えていた。FANKRA出現はもう預言されていた。しかしΝとΞに関してはまだ何も無い。もしもΞがΝを下すような運命が記されているならば、それは書き換えたい。だがアカシック・レコードは最初から定められているのだろう。この戦いで仮にΝを勝たせても、いつか果てが来る。その事は彼女の頭から離れなかった。

「戸ヶ崎隊員」

 五藤はクロウ3の通信機を切ると、操縦桿を握る戸ヶ崎に声を掛けた。

「何ですか、五藤隊員?」

「Νは、勝てるわよね?」

「都合が良いですね。勝つ為ならば何でも利用するのですか?」

「いいえ、そうじゃ無いの」

「違うと?」

「私、勝沼竜に会ったのよ。そこで思ったの。彼ならば信頼出来るかもしれないって」

 戸ヶ崎はその告白に、少々驚かされた。五藤がそんな事を口にするなんて……。

「あれ程殲滅しようとしていたのに、馬鹿みたいでしょ?」

「いいえ……。では、勝沼さんの事を、援護する事に賛成して下さるのですね」

「ええ、そうするわ。ただ、私が彼と接触した事は言わないで置く」

「どうしてですか?」

「片桐司令が怖いからね。彼が目的の為には何でもする男である事は私も分かっているから」

 そうだ、勝沼の事を知られれば、後に待っているのは彼への拘束だ。捕らえられた彼は人間からバイオウェポンへと認識を変えられるだろう。

「それだけは避けたいですね」

「ええ。有難う、こんな戯言に付き合って貰って。また通信機のスイッチを入れるわ。今の話題は忘れて」

「はい」

 戸ヶ崎は機体を旋回させるのだった。


 勝沼は覚醒した。あの化け物がまた現れる。それが分かった。

 勝沼は一気に駆け出すと、山道へと入って行った。

 人の姿が消えた山間道で、勝沼は胸のペンダントを手に持った。エメラルドグリーンの柔らかな光が漏れ出していた。

「変身」

 勝沼は瞼を閉じ、その光に身を任せた。勝沼の身体はエメラルドの光に分解されて、空高く昇って行った。


「来る!」

 金澤が叫ぶと共に、山中湖から何かが現れた。FANKRAだった。

「周辺の避難は完了している。攻撃開始せよ」

 本郷から通信が入った。

「了解。クロウ3、目標をエリアD5Ζへ誘導します」

 戸ヶ崎は低空飛行して、FANKRAの背後に周った。

「これでどうだ!」

 五藤が叫び、ジャベリンミサイルが発射される。ミサイルがFANKRAの軟体動物状の身体を貫通する。真っ黒い体液が溢れ出す。FANKRAが眼から黒い光弾を放つ。それを戸ヶ崎は軽く避けてみせた。怒り狂ったFANKRAは、クロウ3の後を追い、大きくジャンプした。戸ヶ崎はそれも避けた。FANKRAは自らマイクロ波地雷の中へと突っ込んで行った。雷鳴が轟き、FANKRAの身体を稲妻が走る。FANKRAは身体中から蒸気を上げて、地面を転がった。そして次々とマイクロ波地雷上を通過した。

「良いぞ、効いている!」

 宮本が雨を降らしながらその様子を見る。

 その時だった。紫色の光がFANKRAの横に降り立った。Ξだ。

「お出ましと言う訳か」

 木元が短く告げた。

「あれの存在は予知出来なかったんだね」

 木元が意地悪く金澤を責める。金澤は黙ったままだった。

 Ξは、苦しむFANKRAに紫の光を浴びせた。FANKRAの身体がみるみる内に治癒されていく。

「これでは攻撃が無意味になる。五藤、ジャベリンミサイルで攻撃」

「了解、ジャベリン放ちます」

 クロウ3のサイドミサイルポッドから先端をビームでコーティングした徹甲弾が放たれた。それはFANKRAを直撃した。

「邪魔してくれますね」

 その言葉は戸ヶ崎と五藤にはっきり聞こえた。

「撃ち落としてあげます」

 Ξは、両手を高く上げると、ダークネスレイを放つ構えに入った。

 その時だった。深紅の光弾がΞの肩を直撃した。

「?!」

 思わず戸ヶ崎が声を上げる。雨の中、Ξが振り向くと、昆虫のような翅を羽ばたかせたΝが着陸した。Νは即座に翅を縮めて収納すると、ファイティングポーズを取った。

「来たか」

 宮本が思わず漏らした。

「藤木、雨をFANKRA直上に集中させる」

 と、地面からレーザーライフルがFANKRAを襲った。本郷だった。

「急いで、もっと山間部へ追い込むのよ。プロメテウスカノンの使用も許可するわ」

「了解」

 戸ヶ崎が、再度低空飛行でFANKRAに接近する。クロウ1もメーザーバルカンで攻撃。FANKRAは段々と丘陵部に追い詰められて行く。再度、マイクロ波地雷を踏み、FANKRAが絶叫する。

 一方ΝはΞを連打で攻めた。Ξは一気に退き、一度距離を取る。

「竜ちゃん、やる気になってくれたんだね」

 Ξは拳を作ると、羽を伸ばし、Νの直上へ飛んだ。Νは飛び掛かったΞの股座に手を入れると、そのまま地面に転がした。Ξは羽を格納する間も無く地面に転がり落ちた。

「やるね」

 立ち上がったΞは、ゆっくり起き上がると、羽を収納し、Νへ向かった。ΝはΞの拳をもろに受けた。吹っ飛ぶΝ。Ξは嘲笑うかのように、腰に手を当てた。

「まだまだ勝負はこれからよ」

 Ξは両腕から紫の光弾を放った。Νは咄嗟に腕でガードしたが、その破壊力に圧されて背後に吹き飛ばされた。そのままビルに衝突して、Νは苦しみの呻きを上げた。

「ほら、立って。まだ戦いは始まったばかりよ」

 Ξは倒れるΝに近付くと、その両足を掴んだ。そのままΝを抱え上げると、地面に叩き付けた。雨の中土砂が舞う。Ξは再度、Νを地面に叩き付ける。そしてそのまま紫色の放電を放った。Ξの身体を伝ってΝの身体を紫色の稲妻が襲う。苦しむΝ。Ξは、Νをそのまま思い切りぶん投げた。Νはゴルフ場に投げ飛ばされた。体勢を立て直すΝにΞは空中から連続蹴りを食らわせた。Νは更に後退する。

「弱い、弱いわね」

 Νが肩で息をするのを見て、Ξは両腕を掲げた。必殺の一撃の構えだ。Νはその溜まったエネルギー目掛けて深紅の光弾を放った。爆発が起き、Ξが一気に背後まで吹き飛ばされた。Νはそのチャンスを逃さぬと一気に加速し、Ξに飛び蹴りを食らわせた。Ξが吹っ飛び、山中湖岸に身体を投げ出した。

「深雪ちゃん、戻って来い」

 勝沼の歎願が聞こえた。

「竜ちゃん、まだ分からないの? もう竜ちゃんと一緒には居られないんだよ」

 Ξは起き上がると、Νに再度殴り掛かった。Νはそれを組み伏せる。だがΞは即座に電撃を放ち、Ξを撥ね退ける。

「無駄な事は止めて、現実を受け入れなさい。もう竜ちゃんが知っている長峰深雪は死んだのよ。竜ちゃん自身の手でね」

「だからって、何でこんな悪事をするんだ、深雪ちゃん!」

「分からない? 私を苦しめたこの世界に復讐する為よ」

「深雪ちゃんは……深雪ちゃんはそんな娘では無い!」

「それは竜ちゃんの勝手な思い込みね。覚悟して貰うよ」

 Ξは握り拳を作ると、一気に駆け出した。Νは咄嗟にΞのストレートを受け止めた。

「正義の味方なんかに成り下がって、竜ちゃんには失望したわ」

「深雪ちゃん……!」

 ΞはΝの胸元に足を向けるとハイキックを浴びせた。Νはそれを受けて後退し、湖に入った。

 一方、メサイアは確実にFANKRAを攻撃していた。FANKRAはジャベリンミサイル、メーザーバルカン、マイクロ波地雷を受けて、どんどんと山間部へ逃れる。

「奴が次元移動しない内にトドメを刺せ」

 本郷が命じる。彼女はレーザーライフルで次々とFANKRAの触手を攻撃した。FANKRAは苦しみの声を轟かせて、ゴルフ場へと入った。

「今だ、プロメテウスカノンを!」

「了解。プロメテウスカノン、チャージ!」

 木元が待っていましたと、FANKRA向けて機体を向けた。機体上部の発射口に深紅のエネルギーが溜まりだす。

「プロメテウスカノン、ファイア!」

 木元の叫びと共に、深紅の破壊光線が真っ直ぐFANKRA目掛けて放たれた。FANKRAは深紅の光に足元から頭頂部まで、ゆっくりと焼き焦がされた。そして最終的にはその身体全体を蒸発させられてしまった。

「やった!」

「木元、お手柄だ!」

「木元隊員、見事よ」

 FANKRAが存在していた所から、真っ黒い煙が上がっていた。

「強敵を沈めたわね」

 FANKRAの消えた先を見て、本郷が思わず呟く。激しい雨が降り注ぐ中、本郷の注目点は、二体の巨人へと変わった。

「隊長、あの巨人はどうします?」

 藤木が問う。

「Νを援護。Ξを潰す」

「え?」

 その指示に誰もが一瞬戸惑った。だが本郷の言葉は誠だった。

「Νを援護だ!」

「了解!」

 三機のハリアーMK9はそのまま戦場を山中湖へと移した。

「こちら宮本。クロウ2のプロメテウスカノンを使用する」

「援護します」

 戸ヶ崎がそう述べると、一気に二体の巨人に接近した。ジャベリンミサイルが放たれる。それはΞの右肩を直撃した。思わずよろけるΞ。

「へえ、邪魔されるのですね? 良いのですか、そんな事して?」

 戸ヶ崎の脳に直接長峰の声が響いた。

「邪魔してやるさ!」

 戸ヶ崎は一気に機体を上昇させて、そのまま急降下した。上空からジャベリンミサイルとメーザーバルカンでΞを猛爆する。

 しかしその時だった。

「邪魔するな!」

 戸ヶ崎の頭に直接その声が入った。勝沼の物だった。

「今の……」

 五藤もその声を聞いたのであろう、思わずミサイルの発射を止めていた。

 クロウ3はΞのギリギリの所で機体を上昇させた。Gが戸ヶ崎と五藤の身体に掛かる。そのまま急上昇すると、再度上空で向きを変えた。

 下では本郷がレーザーライフルでΞを狙撃している。宮本と藤木の乗るクロウ2も、雨を降らす事を止めて、Ξへ攻撃を始めた。クロウ1も降下して、メーザーバルカンで攻撃を始めた。Ξはハエを払い除けるように手を動かして、ハリアーを追い払っている。一方Νは、その雨霰の中を一気に走り抜けて、Ξにドロップキックを浴びせた。Ξは一気に跳ね飛ばされて、山中湖から再上陸した。Νはそれを一気に攻め立てる。Ξの胸部に連続パンチを浴びせて、後退させて、ゴルフ場へ誘い込んだ。

「彼は自分で蹴りを付けたいのね」

「きっとそうでしょう」

 五藤は冷静だった。

「勝沼さんはきっと勝ちます」

 戸ヶ崎は述べた。その言葉に嘘は無かった。

 ΝはΞに深紅のエネルギーを込めたパンチを放った。吹き飛ばされるΞ。

「竜ちゃん、やってくれるね」

 Ξは右手で自分の頬を撫でた。

「このまま決着を着けるのも良いかもしれないわね」

 Ξはそう述べると、右手を伸ばし、紫色の光弾を連射した。何発もの光弾が、Νを襲う。Νはシールドを張ってそれを防ぐ。だが続けざまに放たれた光弾は、段々とシールドを浸食して、遂には打ち破った。Νは呻き声を上げながら、山中湖に沈んだ。

「悪の戦士の方が強かったりするのよ」

 Νは湖から現れない。ただ、沈んだ後の水飛沫だけが、空しく宙に舞っていた。

「あら、もう終わりなの?」

 Ξの挑発するような声がした。

「戸ヶ崎隊員、勝沼は?」

「まさか、倒されたんでは?」

「そんな……!?」

 五藤の声にはショックの色が滲め出ていた。

 その瞬間だった。山中湖の湖底からエメラルドの光が上昇して、空中でΝの形を作った。Νはそのまま抜刀する形で腕を大きく振った。ホーリーフラッシュが放たれて、Ξの真正面から直撃した。Ξはその攻撃を浴びて、紫色の光を傷口から放っていた。

「やるね、竜ちゃん」

 長峰の声がした。戸ヶ崎はそれを聞き、思わずガッツポーズを取った。

 Ξは身体を紫色の光に分解すると、そのまま天へと逃れた。Νがそれを見て、後を追うように翅を伸ばして、羽ばたき始めた。二体の巨人は、空へと飛んでしまうのだった。

「戸ヶ崎、追えるか?」

 宮本が聞いた。

「こちらの運動能力を目標が凌駕。追跡は不能です」

 戸ヶ崎が述べた。嘘では無かった。

「取り敢えず目標は達成されたみたいね」

 本郷からの通信だった。

「はい、FANKRAは殲滅出来ました」

 宮本が応じた。

「取り敢えず帰投しましょう。Ξについてはそれからでも問題は無いと思うわ。どうせ奴は追跡不可能な訳だもの」

「了解です」



 成層圏ギリギリの所で、ΝはΞの光の粒子に追い付いた。そして、深紅の光弾を放った。紫色の光の粒子は、それを避けるように散らばった。Νは、翅を震わせてそれを追跡した。しかしまとまっていたかに見えた光の粒子はバラバラになると、高速で今度は降下して行った。

 Νも後を追おうとしたが、Νは自分の異変に気が付いた。足元からエメラルドグリーンの光の粒子に分解され始めていたのだ。

「これまでか……」

 勝沼は悔し気に述べると、自らの力を緩めた。Νの身体はエメラルドの光になって散ってしまった。


 雨も止み、メサイアはマイクロ波地雷を撤去に掛かっていた。殆どがFANKRAへの攻撃で爆発していた。本郷は、それを指揮しつつ、ひとまずは安堵の溜め息を漏らした。まずは眼の前の目標を達成出来た事が何よりだった。

「全地雷、撤去完了」

 メサイアの一般隊員から報告を受け、本郷は、δポイントへ戻る事にした。

 本郷にはまだ判断が付かない事が沢山有った。片桐の言葉も気になる。矢張り真実を知るには、戸ヶ崎を尋問するしか無いかもしれない。それも検討する必要が有る。しかし、無論それには抵抗が有った。本郷は笑った。自分はこんなに甘かったとは。これも戸ヶ崎の影響か……?

 本郷は、トラックへ乗り込むのだった。

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