序幕
白銀の巨人は青い身体をした昆虫状の怪物と激しい肉弾戦を展開していた。背中に馬乗りになり、全力でパンチをくらわす。その威力は、あまりの衝撃で、殴られたそこから火花が散るくらいである。怪物も悲鳴を上げながら、四つん這いになって地面を右往左往している。
だが、白銀の巨人が優勢だったのはそれまでだった。
怪物は、サソリのような巨大な長い尻尾を巨人の首に巻き付けた。そしてそのまま、巨人を引き摺り降ろすのだった。
「こ……これって……」
その戦いを足元から見ている防衛組織メサイアの新隊員の戸ヶ崎伸司は、その様子にどんな言葉を添えれば良いか分からなかった。
“KISHARRRRRRRRR!”
怪物は立ち上がると、鋏を振り上げて、巨人の前に躍り出た。巨人はフロントキックをお見舞いするも、それは怪物の二本の鋏に弾かれる。続いて巨人はタックルをかますも、巨大な鋏がそれを待ち受けていた。巨人は首を挟まれると、そのまま上へと持ち上げられていった。
戸ヶ崎はその時、巨人の声を聞いた。
「うおお、うおおおおおおおおおお……」
巨人の口からその呻き声が漏れた。
巨人の身体はとうとう空中に浮いて、足が地面から離れた。
これまでかと思ったその時、爆発が辺りを包んだ。そして、ハリアーMk9が通過して行った。
「戸ヶ崎隊員!」
戸ヶ崎が後ろを振り返ると、そこには五藤と木元がいた。
「プレデターが二体。どちらもMABIRESでは無いですね」
木元がイグニヴォマを構えながら述べた。
爆発の衝撃で、巨人は鋏から逃れた。巨人は怪物から距離を取った。鋏を警戒しているのだろう。
「どうするつもりなんだ?」
五藤がぼやく。
先に動いたのは怪物の方だった。怪物は口から真っ赤な光線を放った。巨人はそれが直撃する寸前、光のシールドを腕を伸ばして展開し、身を守った。だが、そのがら空きな背後に、ハリアーがミサイルを叩きこんだ。
「ううあああ……!!」
倒れ伏せる巨人。そこに怪物が再び赤い光線を放つ。爆発炎上する山。怪物はそれを満足そうに見ると、背中の甲羅を開き、薄い翅を展開した。それを羽ばたかせると、一気に急上昇した。
「こちら宮本、藤木、追尾する」
ハリアーが、天に向かってアフターバーナー全開で飛ぶ姿が、戸ヶ崎に見えた。
「あの巨人はどうしたのでしょう……」
「死んだんじゃない?」
木元が明るく述べる。
「プレデター同士の仲間割れか。獲物の取り合いでもしたのか。或いはプレデターは共食いでもするのか……?」
五藤がヘルメットを脱ぎながら、火の勢いの鎮まらない巨人が倒れた地点を睨むのだった。