序幕
戸ヶ崎と五藤が、Νの光の後を追おうとしたのは当然の事だった。ただ、戸ヶ崎と五藤の目的は少しずつ変わって来ていたが。戸ヶ崎が勝沼に会いたいのは、彼が何の為に戦いに向かうか知りたいが故にだ。しかし五藤は違った。その違いは今は五藤にも言葉に出来ない物だった。自分の心をどういう風に捉えれば良いか分からなかった。
「戸ヶ崎隊員」
五藤が突然、銃座に座る戸ヶ崎に口を開いた。
「何ですか、五藤隊員?」
「勝沼に会いたいと思うのはおかしな事かな?」
「え?」
その一言に、戸ヶ崎は思わず耳を疑った。五藤の表情を見てみたかった。
「どう? 私が変なの?」
戸ヶ崎は少し迷った。
「どういう意味でですか?」
「どういうって……」
「もしも、もしも五藤隊員が、勝沼さんの力を利用したいとか、メサイアの戦力に加えたいとか言われるのでしたら、自分は五藤隊員を非難します。そんな考えで勝沼さんに当たるのは、人の権利を奪う事ですから」
「ううん、そうじゃ無いのよ。そうじゃ……」
戸ヶ崎は五藤の言葉に歯切れの悪さを感じた。そして同時に彼女の本心が見えなかった。
「戸ヶ崎隊員はどうして彼を信頼しているの?」
「自分を助けてくれましたから。それに、勝沼さんは、身を犠牲にして戦っています。人類の天敵であるプレデターを倒してくれて、あのΞとも戦います。それだけで、信頼するだけの価値が有ると思います」
「そっか、そうよね。メサイアがおかしいのよね」
五藤の言葉は尻すぼみだった。
「五藤隊員も、彼の事をどう考えていらっしゃるか分からないですが、危険な存在に見えましたか?」
五藤は迷った。そして答えた。
「ええ、そうよ」
「五藤隊員もですか……」
「ただね――」
「ただ?」
「メサイアとしては、彼は危険かもしれない。でも、五藤遥としては、彼を信じてみたいと思っているのよ」
戸ヶ崎は、それを聞き、正直とても嬉しかった。メサイアが勝沼をあまり快く思っていないのは事実だ。それは認めなければならない。ただ、メサイアはそうは言っても、勝沼に会った事が無い人間ばかりだ。しかし彼に出会った五藤がこのように考えを変えた。それは戸ヶ崎にとって、喜ばしい事であった。
「ごめん、戯言を言った。さあ、戻りましょう。くれぐれもδポイントでは勝沼の話はしないようにね」
「はい」
クロウ3は、δポイントへと垂直着陸するのだった。




