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Wing Fighter Ν  作者: 屋久堂義尊
episode07 Ξ
21/69

第三幕

 クロウ3はΞに狙いを定めて、旋回を続けていた。

 本郷が操縦桿を倒し、一気にΞの背に周り込む。だがΞは、顔をハリアーに向けていた。それは、メーザーバルカンも振動ミサイルも効果を為さない事を示していた。

「真上はどうだ?」

「エネルギー爆弾ですね」

「ああ」

 本郷が機体を一気に天に向けて上昇させた。凄まじいGが、本郷と五藤を襲う。さすがの五藤も、歯を食い縛る。

「Ξ上空に出た。爆撃を開始せよ」

 一瞬の眩暈に襲われた五藤は、首を横に振ると、キーボードを操作してエネルギー爆弾を投下した。巨大な炎が立ち登り、Ξの姿が完全に炎の中へと包まれた。

「これで片付いたか?」

「そう願いたいですね、隊長」

 立ち昇った炎は段々と黒煙へと姿を変える。それがクロウ3へと達しようとした時、紫色の光線がそこから空へと放たれた。

「?!」

 本郷は機体を回転させて、それを回避する。

「これでも駄目なのか」

 本郷が一気に降下して、今度は低空飛行をした。Ξは紫色の光線を掲げた両手の間から放ちながら、ハリアーを追跡する。

「駄目だ、回避するので精一杯だ」

 本郷の手に汗がにじんだ。五藤は必死に重力に耐える。完全に後ろを取られたクロウ3は、逃げの一手に走っていた。だが、本郷は意地を見せた。今度は再度急上昇、太陽に向かって直進した。Ξは、手で眼を押さえた。

「Ξにも、眩しいという感覚が有るらしいな」

 本郷はそれで、Ξの攻撃を振り切った。

「こちらクロウ3。クロウ1、クロウ2、そちらはどうか? 援軍が欲しい」

 本郷の通信に、答えが返って来た。

「こちら宮本、現在ZAIASと交戦中。ZAIASは以前よりも強化されています」

「何とか始末してこちらへ戦力を回して欲しい」

「了解です、出来るだけ早く片付けます」

 宮本の通信はそれで途絶えた。



「クロウ1、ZAIASは完全に強化されている」

「ええ副隊長、私にもそれくらいは分かります」

「藤木、どうにか戦える方法は無いか?」

「奴の関節ならばまだ装甲が薄いと思われます」

「木元、ミサイルで奴の関節を攻撃。我々はメーザーバルカンでZAIASの眼を狙う」

「了解」

 クロウ1がZAIASの背後にホバリングした。ミサイルポッドから連続してミサイルが放たれる。それを出し切ると、クロウ1は空になったミサイルポッドをパージした。振動ミサイルは散開して、ZAIASの脚部関節を直撃した。

"GGGGGGGGGGGGGGGGGGGG!"

 ZAIASが悲鳴を上げると、黄色い体液が傷口から洩れていた。

「こちらも攻撃を開始する」

 藤木がZAIASの眼をロックすると、メーザーバルカンを放った。爆発音と共に、ZAIASの顔面が炎に包まれた。


「では、戸ヶ崎隊員。その男は完全に関与していると考えて良いのですね」

 片桐の尋問は相変わらず続けられていた。

「自分の予想に過ぎないのですが」

 戸ヶ崎は、多少の抵抗が有るものの、嘘は述べなかった。片桐の横に、注射器が置いて有るのが気になった。

「その男の名は?」

「分かりません。ただ、言える事としては、彼にはメサイアを攻撃する意思が、今の所は無いという事です」

「戸ヶ崎隊員の証言が本当ならば、その男はこのδ地帯にも侵入して来たという訳ですね」

「初めて彼に会ったのは、このδポイントでした。例の最終訓練の時です」

「成る程、Νは潰そうと思えばこのメサイアを潰せるのですね。しかしそれをしない。彼も我々の考えにある程度理解が有ると考えても良いのではないですか」

「随分と楽観的ですね。自分はそうは思いません」

「と言うと?」

 戸ヶ崎は深呼吸をして片桐の眼を睨んだ。

「人間同士の争いに、彼は関わりたくないのだと思うのです」

「人間同士? 彼はΝに関わっているのですよ」

「ですが、彼は人間です」

「戸ヶ崎隊員、甘いですね。無論それは悪い事だけでは無いと思います。しかし、Νの存在が、新たな戦争の火種になりかかっている事実を述べておきます」

 戸ヶ崎は面食らった形になった。言っている意味が理解出来なかった。それを片桐は察したように口の端を持ち上げた。

「アメリカ、中国、ロシア、韓国、その他多くの国々にΝの存在を隠しています。メサイアの存在同様に。彼等がΝを我々の"兵器"だと考えられれば、いや、例え脅威だと考えられても、それ等を口実にこの国にもう一度戦争の影がちらつくのは分からない話では無いですよね」

 戸ヶ崎はゆっくり頷いた。

「でしたら、Νが私達のコントロールから離れて、好き勝手されるのがどれ程危険か分かるはずです。プレデターの存在を隠蔽するだけでこんな苦労をしているというのに、そこにプレデター以上の脅威となり得るΝの存在。更に黒い巨人。私達がどれ程頭を悩ませているか分かりますか?」

「プレデターの存在も隠しているのですか? 一体どうやって?」

「世界中にプレデターは現われています。それをこのメサイアのような極秘部隊が処理して来ました。私達はお互いに情報を交換しながらも、同時に牽制しあっています。何故ならば、国のアーミーが関わると、それによって戦争に発展する可能性が生まれるからです。事実、米国では、軍部がプレデターをコントロールして、兵器として活用しようとする動きも有りました。その目論見は、米国の秘密組織、「ノア」が阻止しましたが」

「そんな事が……」

 戸ヶ崎は言葉を失っていた。事態が深刻である事は別に理解していなかった訳では無い。今片桐の口から出た問題を、全く気にしなかった事も無い。しかしながら、どうしてそうもプレデターの存在を隠して来られたのか。

「しかし、プレデターを目撃した者もいたはずです。そういう方々はどうなったのですか?」

「貴方は質問が多いですね。少し考えれば分かる事なのですが」

 戸ヶ崎はハッとした。まさか、そういう存在を、全て精神病院に送り込んでいるのではないか。戸ヶ崎が何度も脅されたように。

「尋問はこれくらいにして置きましょう。どうやら戸ヶ崎隊員はあまり情報源としては役に立てないようですから」

「そのようですね」

 黒服の一人が答えた。

「では戸ヶ崎隊員、出撃して下さい」

「出撃?」

「Νと黒い巨人、そしてZAIASが出現しています。貴方はメサイアのヘリコプターで北海道へ輸送されます。その部隊には今回の戦いで我々の力になった陸自の部隊を、電気治療に掛けるプロが乗り込みます。見ておいても良いかもしれないですね」

 片桐はにんまりと歯を見せた。戸ヶ崎は背筋に冷たい物が走るのを感じた。

「自分は結構です。では、出撃します」

 戸ヶ崎は、黒服に囲まれて部屋を後にするのだった。


 Ξはクロウ3を一瞬見失った。そこにミサイルが直撃するのだった。

「ウウウウウウウウウオ!」

 炎がΞから湧き上がる。Ξは、拳を作ると、炎を薙ぎ払った。そして背中に四枚の翼を広げると、それを羽ばたかせて空を目指した。だがそれは叶わなかった。Ξの右足を、Νが掴んでいた。ΝはそのままΞを大地に叩き付けた。

「今だ攻撃!」

 本郷の叫びと共に、クロウ3はメーザーバルカン、振動ミサイルを一斉射した。それは地面で悶絶していたΞを襲った。Νがその様子を静かに見る。炎と煙が消えた時、そこにΞが立っていた。

 Νは両手を横に開くと、指と指の間にスパークを起こした。そして、深紅に輝くエネルギー光球を作り上げた。Νは大きく構えると、それをΞに向けて投げ付けた。咄嗟にシールドを張るΞ。紫色の光の壁がエネルギー光球を抑える。そこにΝは、二発目を放った。Ξのシールドは限界を超えた。ガラスが砕けるようにシールドは割れて、エネルギー光球がΞを直撃した。

「ウウウウウウウオオオオオオアアアアアアアアア!」

 Ξの叫び声が響き、これまでに無い大爆発が起こった。

「やったか……?」

 本郷がその炎の周りを旋回した。爆発はそのまま空へと立ち昇った。

「爆心地にエネルギー反応!」

 五藤が告げる。本郷は、もう一度炎の直上を通過した。その中に黒い影が見えるのが分かった。

「何てタフなんだ」

 思わず呟く本郷。五藤も下唇を噛んでいる。

 Ξはゆっくり立ち上がると、Νと向き合った。Νは動じる事無く、それを真正面から受けていた。Ξはそれを見ると、ゆっくり身体を紫色の粒子に分解していった。ΞはそのままΝや本郷達の前から消えるのだった。Ξが消えた後、Νは力尽きたように身体を前へと倒した。そして最後の力を振り絞るように拳を作ると、エメラルドグリーンの光の粒子になって行くのだった。

「隊長」

「あの後を追いたいのね」

「ええ……」

 五藤が思わず本音を漏らす。本郷もその気持ちが分かった。

「今はZAIASを優先する」

 本郷はそう述べると、ハリアーのアフターバーナーを噴射させるのだった。


 ZAIASはクロウ2の攻撃で、単眼を一つ失っていた。怒り狂ったZAIASは、ネットを連続で空へ撃ち上げた。クロウ1、クロウ2はそれを避けるので精一杯になった。

「あれに捕まったら終わりだ」

 宮本が急上昇して、何とかネットから逃れようとする。木元のクロウ1も、何とか逃げ切っている。同時にZAIASは目からの熱線も発射した。空へ向けてネットと熱線の同時攻撃で二機を襲うZAIAS。

「反撃出来ない」

 藤木が必死にトリガーを握る。時折放たれるメーザーバルカンが、ネットを破るも、熱線がそれをカバーする。

「長くは持たん」

 宮本の苦しい声が藤木に聞こえた。

「捨て身で奴の懐に潜り込みましょう」

 藤木が提案した。

「ここで損害を出してもどうしようもない。何とか体勢を立て直す。木元、そちらはどうだ?」

「こちら木元です、ミサイルポッドが重くて避けるのが精一杯です」

「ポッドは捨てろ。何とか逃げ切るんだ」

 クロウ1の機体下部からミサイルポッドが落ちて行った。機動性を確保したハリアーは一気に上昇してネットを掻い潜り、熱線を避けた。

「奴へ格闘戦を臨むのは危険だ。爆撃を開始する」

「しかし、それでも効果は……」

 藤木が思わず口を開く。

「爆撃は、奴を円状に囲うように行う」

「足止めさせるのですね?」

 木元から通信が入った。

「そうだ。奴の動きを封じるのだ。作戦開始」

 ZAIASが熱線を乱射して、ネットを空中へ放つ中、二機のハリアーは円を描くように、エネルギー爆弾を投下して行った。爆発がZAIASを囲む。ZAIASは怯み、動きを止めた。

「良いぞ、効いている」

 宮本がゆっくりと機体を慎重に動かす。ZAIASは確実に動きを鈍らせた。炎がZAIASを囲むのだった。

「さあ、どう来る?」

 木元が不敵な笑みを漏らす。この戦いは勝ったという笑みだった。

 しかし、それはすぐに掻き消えた。ZAIASは炎に囲まれながらも、地面に穴を掘り始めたのだ。

「あいつ、逃げる気だ!」

 木元はそれを察した。宮本と藤木も同じだった。

「くそ、ここで逃がしては無意味だ。全機突貫せよ!」

 クロウ1とクロウ2は、上空からの爆撃を止めると急降下。メーザーバルカン、振動ミサイルを一斉射した。

"GGGGGGGGGGGG!"

 ZAIASが悲鳴を上げる。だが、ZAIASの動きは止まらない。

「どうしたら良い!?」

 思わず木元の口調が荒くなる。

「プロメテウスカノンを使用せよ」

 木元の耳にその声が確かに聞こえた。

「本郷隊長?」

 見ると、クロウ3が猛スピードで突っ込んで来ていた。クロウ3はメーザーバルカンをフルパワーで発射した。バルカンの銃身が、熱で溶けて炎を上げた。放たれたメーザーバルカンは、真っ直ぐにZAIASの右前脚の一本の関節を直撃した。爆発と共に黄色い体液が空を舞い、脚が破断されて宙へ投げ出された。

"GGGGGGGGGGGGGGGG!!"

 ZAIASが大地に転がり込む。切断された脚からは止めどなく黄色い体液が漏れ出していた。

「今よ、木元隊員!」

 本郷が、超高速でZAIASの直上を通過した時、木元はそれを待っていたとばかりにプロメテウスカノンを発射した。深紅の光線がZAIASに浴びせられた。ZAIASは、そのエネルギーを身に受けて、眼をちかちかと灯した。そのままZAIASが爆発を起こした時、クロウ1、クロウ2、クロウ3は目的を完遂して、大地から湧き上がる炎を前にホバリングするのだった。


 戸ヶ崎は、それをヘリコプターの中から見ていた。

「倒されたのか?」

 戸ヶ崎は通信機のスイッチを入れた。左腕の腕時計状のモニターに本郷の顔が映った。

「隊長、目標は?」

「戸ヶ崎隊員、ZAIASは完全に活動停止した。我々は後処理を手伝う。貴方は――大丈夫か?」

 戸ヶ崎は一瞬ホッと一息漏らした。だがすぐに、表情を硬くした。

「お聞きします。Νはどうなったのですか?」

「Ξとの戦闘後、光の粒子となって消えたわ」

「クシー?」

「あの黒い巨人の名前よ。ΞとΝはほぼ互角の力を持っているわね」

「そのΞは?」

「Νとの戦闘で、姿を消した。私達も後を追いたかったが、ZAIASがいたからね、後回しにしたわ」

「そうですか」

「戸ヶ崎隊員は、作戦ポイントA7γで我々と合流。藤木隊員をサポートして分析に周って」

「了解しました」

 戸ヶ崎は通信機をスリープモードにするのだった。


 勝沼は、重たげに身体を起こした。菱形のペンダントも、輝きを失っていた。

「何なんだ、あの巨人は……」

 勝沼は木に身体をもたれ掛けると、そのまま一気に座り込んだ。段々と吐息が落ち着いて行く。勝沼の瞼が閉じられて、木漏れ日が彼を照らす中、勝沼は眠りに就くのだった。


 夢の中で、勝沼は黒い巨人と戦っていた。あらゆる攻撃を全て防ぐ黒い巨人。格闘戦に臨むも、それ易々とこなすその姿。他の敵とは違う。勝沼は分かっていた。黒い巨人は自分と同じ能力を持つ戦士なのだ。同じ力を持つ者なのだ。だが勝沼は分かっていた。この戦いで特にそれを感じた。あの黒い巨人は、他の怪物共と同じく、邪悪な物に支配されている。いや、あいつこそが怪物共の首領なのかもしれない。圧倒的な破壊力と、他の怪物共が持ち合わせていない知性を持つ。本能を抑え、知性を剥き出しにして作戦を立てて攻撃して来る。黒い巨人はそういう存在だ。攻撃力も守備力も、勝沼と互角、いやそれ以上かもしれない。そして勝沼の戦える相手では無い可能性すら有る。

 そして勝沼は、もう一つ気掛かりな事が有った。それは夢の中の彼でも同じだった。黒い巨人が自分と同じならば、きっと奴にも自分のように「変身する」存在がいるはずだ。きっとその誰かも、自分のようにダメージを負っていると信じたい。勝沼が夢の中で見たのは、戦いを仕掛けて来る黒い巨人の存在だけで有って、その変身する誰かでは無かった。

 勝沼は、最後の一撃を決めようと、両手を大きく開き、指と指をスパークさせて、エネルギー光球である「クァンタムバースト」を作り上げた。それを思いっ切り投げ付ける勝沼。しかし、黒い巨人はそれを胸に受けても、全く動じなかった。そのままこちらへ進んで来る……。勝沼は何度もクァンタムバーストを投げる。だが、二発、三発と命中し、火花が散るのにも関わらず、黒い巨人はこちらへ歩みを止める事をしない。やがて勝沼と黒い巨人の距離がゼロになった時、勝沼の顔を、黒い巨人の掌が包んだ。真っ暗闇になった勝沼の視界。そこに紫色の光が集中して、勝沼目掛けて放たれた。

「うああああああああああああ!!」



 勝沼が叫ぶと辺りは夕方だった。思わず、ペンダントを見る勝沼。エメラルドグリーンの光が僅かに増していた。力を取り戻しているのだろうか。勝沼は震えていた。それは寒さに震えているのとは理由が違っていた。勝沼はそれが何か悟った。

「俺は怖がっているんだ」

 勝沼はよろよろと立ち上がると、そこを後にするのだった。

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