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Wing Fighter Ν  作者: 屋久堂義尊
episode07 Ξ
20/69

第二幕

 δ地帯にメサイアは集まっていた。結局、黒い巨人についての手掛かりは全くと言って良い程掴めなかった。しかしながら、戸ヶ崎の証言は重要だった。ウイングファイターは人間である。それはすぐに片桐の耳にも入った。

「司令、このたびは報告が遅れた事をお詫びします」

 片桐の横に本郷が並んだ。本郷は、自分の部下である戸ヶ崎が重要な証言を今まで隠して来た事を今更ながら謝るのだった。

「君が頭を下げるのを見る為にやって来た訳では無いです。戸ヶ崎隊員を詰問します」

「尋問をされるのですか?」

「今有る情報を全て吐き出して頂きます。自白剤の使用も辞さない構えです」

 片桐は早足になって、本郷をまいた。


 司令室で、宮本と木元が戸ヶ崎と五藤に向き合っていた。その奥で、藤木がひたすらパソコンに向き合っていた。

「Νが人間と関係性が有る事を何故報告しなかった?」

「副隊長、それは彼がメサイアに知られれば、その身に危機が訪れると判断したからです」

「人間が絡んでいるなんて――」

「さすがのホムラも動揺してしまうか」

 藤木が横から口を挟んだ。

「勿論。プレデターは人間すら利用するのね」

「そうじゃ無いと思う」

 戸ヶ崎は思わず声を漏らしてしまった。それを聞いて、木元が溜め息を吐いた。

「戸ヶ崎君って本当にお花畑なのね」

 戸ヶ崎は肩を落とした。所詮相手にはされないという事実を彼は忘れていなかった。しかしそれでもこのメサイアの態度には幻滅した。

 所が……。

「私も、あの男がそんなに凶悪な人間だとは思えない」

「え?」

「五藤隊員、何が有った?」

 宮本が短く問う。

「私、会ったかもしれないのです。現場を捜索時に、ある男に出会いました」

「男?」

「そうです。彼はエメラルドグリーンの光を放っていました。Νと同じ光です。それが偶然だと思えないのです」

「その男は?」

「木元隊員、彼はエメラルドグリーンの粒子となって消えたわ。まるで幻のようだった」

 藤木がそれを聞き、すぐにパソコンに何かを打ち込み出した。

「皆さん、これを見て下さい」

 戸ヶ崎達は、メインスクリーンに眼を集中させた。そこには、北海道の稚内の地図が出ていた。

「あの黒い巨人が現れたその時、エネルギーの移動が三つ有りました。一つはZAIASの物。もう一つは、例の黒い巨人関連の巨大なエネルギーの移動、収束。そしてもう一つ、これです」

 戸ヶ崎が眼を凝らしてそれを見る。僅かながら、光が移動しているのが見える。

「この生体反応は一切無視していました。これは、プレデターの動きに合わせて動いている可能性に今気が付きました」

「メサイアもその程度か……」

 戸ヶ崎は歎いた。

「プレデターやΝのエネルギー量に比べて僅かな為に、全く意識していませんでしたが、もしやこれが、Νの移動体なのかもしれないです」

「移動体?」

 戸ヶ崎が耳を向けた。

「そう、移動体」

「どういう意味ですか?」

「プレデターが突然現れる事は我々には疑問に上がらなかった。プレデターがまるで何も無い所からいきなり現れると思っていた。しかし実は違うのかもしれない」

 五藤がハッとした様子を見せた。それは戸ヶ崎にも分かった。

「プレデター検出は人間の動きに関わっていたのか?」

「分からない。でも可能性は無いとは言えない」

「五藤隊員が抱いた疑問はとても重大だ。戸ヶ崎隊員、もっと本当の事を話せ」

「戸ヶ崎隊員。私は貴方が言っていた事を全てそのまま疑う事も出来ないようになったわ」

 五藤が諭すように述べた。戸ヶ崎は、五藤の言葉に嘘が無いと感じた。

「自分にも良く分からないのです。彼が何者なのか、彼が何の為にプレデターを追うのか、彼がどうやってΝとなったのか……?」

「矢張り、彼がΝなのか?」

「五藤隊員、もしかすると彼がそのままΝになるのかは分からないです。それは特撮の見過ぎだと思います。でも何かしら、重要なポジションに有ると思います」

「だったら――」

 木元が次の言葉を言おうとしたその時、司令室の扉が開いた。そこには、本郷と片桐が待っていた。

「話の内容は私が引き継ぎます」

 片桐はじっとメサイアの隊員達の眼を見た。刺すような眼と言って良いだろう。本郷も横に着き、口を真一文字に閉じている。

「戸ヶ崎伸司隊員、少しΝについてお話を」

 戸ヶ崎は覚悟を決めたように頷いた。

「他の隊員は私に報告を。どんな些細な事でも良い。今は情報が必要だ」

 本郷はそう締めた。



 真っ黒い中にスタンドライトのみが照らされている部屋。そこに戸ヶ崎は立たされていた。ライトの先には、片桐が座っている。彼はノートパソコンを傍らに置いていた。その横に、黒いスーツの男達が並んでいた。戸ヶ崎の腕には手錠がはめられている。

「戸ヶ崎伸司隊員、それはもう必要無いでしょう。取り外します」

 どういう仕組みになっているか分からないが、戸ヶ崎の手錠が、電子音と共に外れた。戸ヶ崎はそれを見て、片桐へ眼を戻した。

「戸ヶ崎隊員、Νについて何故貴方は攻撃する事を拒んだのですか?」

「それは、Νが味方だと判断したからです」

「戸ヶ崎隊員、その根拠は?」

「Νを見た時に瞬間的に判断したのです」

 片桐は周囲の黒服に眼を向けた。

「榊原さん、どう考えます?」

 片桐がそう聞くと、スタンドの光が黒服の一人に向けられた。榊原と呼ばれた男は、ゆっくりと話し出した。

「非常に論理性に欠いています。メサイアにはこんないい加減な隊員がいるのですね」

 再び片桐にライトが向けられた。

「申し訳無いですね。自衛隊時代の戸ヶ崎隊員の活躍に期待した私のミスかもしれないです」

「一体何をお考えなんですか?」

 戸ヶ崎の口から出た言葉はいつまにか質問調になっていた。片桐が右の眉を吊り上げた。それはどういう思いが込められているか戸ヶ崎には分からなかった。片桐は、溜め息をほうと吐くと、周囲の黒服に目配せをしてから、口を開いた。

「戸ヶ崎隊員、我々の総意を述べます。我々は貴方に疑いの眼を向けています。Νとその謎の男の関係を、貴方は知っていましたね。そしてそれを隠していた。どうしてですか?」

「メサイアが彼を利用し始める事を避ける為です」

「この非常事態に何を言うのか?」

 別の黒服が反応した。光は当てられていないが、かなり大柄に見える。

「メサイアは統一した一つの概念を元に動いています」

 片桐が語り出した。黒服達が一斉に頷いた。

「概念?」

「平和です」

「平和? これが平和ですか?」

「平和の為には多少の強引さも必要です。この国が軍隊を持たないという事を主張しつつ、それでいながら専守防衛を越えるような莫大な防衛費を求めている事や、同盟国の言いなりになって、それを戦争協力に用いている事から考えてみますと、我々の方がまだマシではないですか? 貴方も自衛官だった、分からない話では無いですよね?」

「それは……」

「平和の為には、本当に平和を目指す者としては、Νの動き次第でこちらの対応も変える必要が有ります。Νをコントロール出来るならば、それに越した事は無いですよね」

「その為に彼の人権を奪う事を許せと言うのですか? それは詭弁ではないですか?」

「例え詭弁でも、平和の為に理由が着けられるならば、問題は無いです。私達の背後には一億人レベルの民間人の命が掛かっているのです。それを守る為に、多少の犠牲は必要です。それは貴方も含まれています。貴方の権利を奪ったのも平和の為です。ただ、今回はレベルが違います。プレデターを倒す為には、Νの協力を得る事も有り得ます。それをあなたの報告のミスの為に、我々はΝもプレデターと同等の扱いをするべき存在だと判断したではないですか」

 黒服が一斉に頷く。

「どの道、Νが他のプレデターを違うという貴方の主張は通る事になりそうです。それは確実でしょう。我々は地団駄を踏んだ結果になりましたね」

 戸ヶ崎は握り拳を作った。そしてゆっくりそれを解いた。

「今度の戦いで、Νをどうするつもりですか?」

「質問をしているのは私達です。貴方の質問に答える義務も無いです。ですが……」

 片桐は手を組み、肘を突くと、拳の上に顎を乗せた。

「貴方の意見を聞くのも良いですね。実際にΝとコンタクトを取れたと思われる唯一の人物ですからね。質問をする事を認めましょう。ただ、今の問いには答えられないですね」

「では、別の問いをぶつけます」

「どうぞ」

 戸ヶ崎は、深呼吸をすると、眼をキッと見開いた。

「自分はどうなるのですか?」

 その問いに、片桐が肩で笑った。

「自分の事が大切ですよね。その考えは大事です。ではこう考えて下さい。私達メサイアは、貴方を監視付きの人物として認識します。貴方は更に自由を奪われるでしょう。それに関して文句は言えないと思って下さい。ただ、貴方を今ここで失うのは戦力的にも情報的にもデメリットが大きいです。今の所、貴方の証言は嘘が無いと認識します。その為、私は貴方を信頼しましょう。さて、尋問はまだ始まったばかりです。Νの事、更に話して頂きます」

 片桐の顔がライトにぼっと浮かび上がるのだった。


 勝沼は、菱形のペンダントを握り締めていた。光が漏れて、勝沼を包み込んだ。勝沼の息は荒い。雪はすっかり止み、空は真夏の太陽が、例え北海道と言えども浮かんでいた。

「何だ、今のは……?」

 勝沼が眼を閉じると、エメラルドグリーンの光が鼓動のように波打った。

「あの巨人は、俺の敵だよな……?」

 勝沼が呟くと、背後で何かが動いた。振り向く勝沼。ガリガリの狐が、木と木の間を通過して行った。

「動物か……」

 その時、紫の光弾が、勝沼の方へと放たれた。爆発する大地。狐がバラバラに吹き飛び、勝沼は地面に転がり落ちた。眼を左右上下に振って、敵を探す勝沼。木と木の間に、黒いそれが見えた。巨人だ。巨人は腕を伸ばし、紫の光弾を放った。勝沼はペンダントを握り、光のシールドを作った。光弾はそれに弾かれて、辺りに散らばり、木々を抉った。

「何だ、貴様は?」

 勝沼が叫ぶも、巨人は容赦無く光弾を連射した。それは大きな爆発へと発展するのだった。


「本郷隊長、あの黒い巨人は何なのですか?」

 木元が片桐と戸ヶ崎が去った後、本郷に問いかけた。

「こちらでも分からない。ただ、Νに良く似た存在である事は事実だ」

「確かに、Νとあの黒い巨人の放つパルスパターンは等しいと言ってもおかしく無いです」

 ノートパソコンを叩きながら藤木が解説する。メインスクリーンにΝと黒い巨人のデータが現れた。

「この巨人も、蛋白質で出来ているとは考えにくいです。矢張り光の粒子で形作られています。いや……」

「どうした藤木、言ってみろ」

「ええ、副隊長。これは僕の勝手な見解かもしれないですが、あの黒い巨人は、Νのダークサイドです」

 五藤が頷く。

「理解出来ない話では無いわね。Νに良く似ているけれど、全く真逆の存在と言って良いのではないでしょうか」

「あの黒い巨人は、闇の巨人と言う事か」

 本郷がモニターに近付く。

「もしもあの巨人がΝと同じならば、Νと同じく再度姿を見せる可能性も有る訳か」

「その可能性は高いですね」

 藤木がゆっくりと背もたれに身体を預けた。

「何とか奴等の事を追跡出来るように成れれば良いのですが」

「不可能な事を言っても仕方が無いぞ、藤木隊員」

「すみません、隊長」

「今後、あの黒い巨人をΞと呼称する」

 本郷が述べると同時に警戒警報が発令した。

「北海道遠別町にプレデター検出!」

 五藤の叫びと共に、メサイアは出動する構えを取った。その時だった。

「待って下さい」

 藤木がそれを制した。

「天塩町にΝと思われる存在を確認」

「Νだと?」

「Ξと思われる存在と戦闘中です」

 本郷が首を左右に振った。

「奴等戦力を分散させる狙いか?」

 本郷は、意を決したように、自分のヘルメットを取った。

「今回は私も出る。戸ヶ崎隊員が出動出来ない状態だ。クロウ3に乗る。ガンナーは、五藤隊員だ」

「了解しました」

 メサイアの面々は、一気にイグニヴォマを取ると、ハンガーへ向かうのだった。

「隊を二つに分ける。クロウ1、クロウ2はプレデターを。私達はΝを何とかする。無理はするな」

「了解」

 発進した三機のハリアーは、北へ向かって進んだ。そして北海道に入る時には

二手に分かれていた。

「五藤隊員、一気に片を付けるわよ」

「はい、隊長」



 ΝとΞは激闘を広げていた。Ξは、Νの接近戦に対応していた。Νの右ストレートを左手で受けると、そのままΝをねじ伏せた。馬乗りになり、Νを殴り続けるΞ。Νは巴投げでそれを離した。Νは攻撃を、射撃戦に切り替えた。Νが指先にエネルギーを溜めると、光弾を放った。真っ赤な光は、Ξの胴体を直撃した。怯むΞ。その瞬間、Νは翅を羽ばたかせて空へ飛び上がった。回転しつつ、光弾を撃つΝ。しかしΞはバリアを張ると、それを全て受け止めた。勝負は一進一退をだった。

 クロウ3がやって来たのは、Ξが羽を広げて空へ向かった時だった。ΞとΝ空中戦を繰り広げていた。それを見て五藤が息を呑んだ。空中で戦う二体のスピードは生半可な物では無かった。

「隊長、ロック出来ないです」

 五藤の悲痛な叫びが聞こえた、

「私が本気を出せばこんな動き……」

 本郷は、一気にノズルを引くと、急上昇した。そのスピードは五藤も経験した事が無い物だった。目の前にΞの背中が見えた。

「今だ! 翼を狙え」

「はい」

 五藤が振動ミサイルを放つ。それは真っ直ぐ、Ξの羽の付け根を猛爆させた。

 Ξが仰け反ると地面に向けて落ちて行った。Νはそれをチャンスと、急降下して、拳をΞの腹に放った。Ξは地面に転がり落ちた。Νが空中で回転をして、Ξの元へ降り立った。そこをΞがタックルした。吹き飛ばされるΝ。Ξは連続で光弾を放つ。Νを火花が覆う。Ξは腕を頭上に上げると、そこにエネルギーを溜めて、熱線を放った。Νを爆発が襲う。

「Νを援護するぞ」

「了解しました」

 クロウ3はメーザーバルカンでΞを撃った。Ξは扇形のシールドを張ると、それを防いだ。

「振動ミサイルを!」

 振動ミサイルが機体から放たれる。それは真っ直ぐにΞ目掛けて進んだ。しかしΞは、手から光弾を放つと、ミサイルを撃ち落とした。

「死角に周り込む」

 本郷が、操縦桿を握り、大きく横へ逸らす。ハリアーは、前方にΞを捉えたまま、攻撃する場所を変えるのだった。



「出たな、ZAIAS!」

 木元が、地中から顔を出している、節足動物状の怪物をロックオンして、ミサイル攻撃に移った。ZAIASは猛爆されて、顔面を上空に向けた。

「木元、気が付いたか!?」

 クロウ1に通信が入った。

「副隊長、分かっています」

 木元の機体が、ZAIASの上空を通過した時、彼女は気が付いたのだ。ZAIASの眼が再び六つに再生している事を。

「あの時潰れたはずなのに……!!」

 木元は機体を宙返りさせるように一気に上昇して、上空からミサイルを放った。それを合図に、ZAIASの真正面から突っ込んでいたクロウ2もミサイルを発射した。二つの軌道を描くミサイル達が直撃して、爆発が起こる。

「やったか!?」

 木元のクロウ1が急降下して、爆発のすれすれを通過した。

 その煙の中で、紅い六つの単眼が、鼓動を描くように波打っていた。

「何だこいつ、振動ミサイルが効かないのか?」

 宮本が機体を上昇させる。

「副隊長、今の攻撃による目標へのダメージは、殆ど無いと思われます」

 藤木が冷静に解説した。

「耐性が付いたという事でしょうね」

 藤木は再度、ミサイル発射の構えを取る。宮本が呼応するように、上空から狙いを付ける。

「どうすれば良いのですか?」

 木元の悲痛な叫びが、宮本の耳に入った。

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