序幕
戸ヶ崎は気が付くと、宮本に介抱されていた。何が起きたか戸ヶ崎には分からなかった。
「副隊長、一体……?」
「森の中で倒れているお前を木元隊員が見付けたんだ。周囲に人の物と思われる足跡が有った。今五藤隊員が調べている」
戸ヶ崎の耳に軍靴の音がした。戸ヶ崎が身を起こすと、五藤が立っていた。
「どうだった?」
「副隊長、矢張り何者かがいた形跡は有りますが……」
「どうした?」
「忽然と消えているんです、その痕跡が」
「戸ヶ崎隊員、何を見たんだ? 覚えていないか?」
「少女です……」
「え?」
「少女がいたのです」
戸ヶ崎は胸元を摩った。痛みが有った。
「少女? その少女がお前に何をした?」
「少女が自分を攻撃しました。それをまともに受けて、自分は……」
戸ヶ崎はゆっくりと眼を閉じた。
「あの巨人は、どうなったのですか?」
戸ヶ崎が思わず問う。
「分からない。そもそも何が起こったのか整理すらついていない」
五藤が、ゆっくりと戸ヶ崎に向き直った。
「戸ヶ崎隊員、貴方の方が私よりも詳しいのでは?」
「え? どういう意味ですか?」
「もしも私の推測が正しければ、Νは人間が関わっているのでしょ」
「何だと?」
宮本の口調が変わった。そしてその眼が戸ヶ崎に向けられた。
「まさか、お前、事実なのか?」
戸ヶ崎は、その言葉の強さに思わず鼓動を速めた。
「会ったのですか、彼に……」
戸ヶ崎は観念したように口を開いた。
「ええ。これは自分の推測の域を出ていないのですが、Νは人間が変身した物です」
「という事は……」
宮本が目尻を吊り上げた。
「さっきの黒い巨人も、人間が関わっているのでは?」




