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編入*2
母の車は住宅街を走る。
家での会話が尾を引き、車の中で会話は無くどことなくぎこちない様に見える。
沈黙は編入する高校へと着くまで続いた。
沈黙を破ったのは母からだ。
「到着。さて、校長室に行きましょう。」
何も無かったかのような声音に軽く頷き、助手席のドアを開け外に出る。
ふわりと舞った風に導かれるように空を仰ぎ見ると青々した木が視界に入る。
「あっ、桜の木…。」
正門から校舎までの道のりは何本もの桜の木で道が出来ている。
すでに桜は散っているが、桜が咲いたらピンク一色のアーチができて数日は幻想的な風景になるのだろう。
そぅ、あの時も…
「——葵?」
青々しく立派に立ち誇る桜の木に目を奪われ、封じ込めた記憶が厳重な鍵を壊し少しずつ漏れ始める。
母の呼びかけに頭を左右に振り、再び厳重に鍵をして踵を返した。
桜の木を背にして…