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灰色の獏  作者: 丸虫52
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(3)

 ゆっくりと、時を待とう――そんな話を舞子まいことしたのに、事態は待つゆとりを与えてくれなかった。眠った途端、私は前回の続きの〝霧の夢〟にいた。


          ◆◆◆


 向かってくる〝光の球〟の集団を、私は頭を抱えて体を捻ってなんとかやり過ごした。

 通り過ぎた〝光の球〟の行方を見遣ると、まるで相談するようにしばらく集まっていたかと思うと、泡が弾けるように四方八方へとび散った。

 私は次に〝光の球〟が現れた時の為に身構えたが、何も起こらなかった。どれだけ待っても、〝光の球〟は現れなかった。

それからは目が覚めるまで、最初の頃のように霧の中に私一人だけだった。


          ◆◆◆


 私はベッドの上でぼんやりしていた。

 今まで散々夢の中で走り回っていたのに、急にそれが無くなると何だか物足りない。変な言い方だが、寝た気がしないのだ。

 〝霧の夢〟だけだと意外に体が楽なのだと改めて気付いたほどだ。

「かなり、〝光の球〟に毒されていたんだなぁ……」

 私は登校の準備をしながら呟いた。

 舞子は〝光の球〟が消えたと言ったら、何て言うだろう?


「え、消えちゃったの?」

 舞子はそう言うと、その場に立ち止まった。

「うん。朝起きるまで何にも出てこなかった」

 私が言うと、首を捻りながらしばらく考えて込んでいた。と思ったら、真面目な顔で言った。

「本当に、消えたと思う?」

「どういう事?」

「私はね、一旦集まってから散ったって言うのが気になるの。相談してたみたいだったんでしょ?」

「私がそう感じただけで、ほんとはただ集まっていただけかもよ。それにあれに知能なんてあるの?」

「だって、花生里かおりの夢よ? 花生里が感じたんならその可能性は高いと思う。それに今までの事を合わせて考えると、馬鹿にできないような気がする」

「そうかなぁ」

 私は首を傾げた。

 半信半疑だったが、この舞子の預言(?)は見事に当たる事となった。


          ◆◆◆


 私は毎晩必死に〝光の球”を避け続けていた。

 運動神経なんてほとんどない私が、しゃがんだり、体を捻ったり、飛び上がったりしてそれを避ける――流石さすが夢だ、と感心しつつどこから来るのかわからない〝光の球〟から私は逃げて続けていた。


 〝光の球〟が現れなかったのは、あの一晩だけだった。あの夜以来、〝光の球〟は〝霧の夢〟を見る度現れた。元々神出鬼没だったからどこから現れるか、いつ現れるか、見当もつかない。真っ直ぐ前から来たり、横や後ろは勿論、上や下からだって迫ってくる。いつ現れるかわからないから、ボンヤリしている暇がない。

 確実なのは今までは必ず私を避けていた〝球〟が、物凄いスピードで私目がけて突っ込んでくる事だ。

 だから私は、今までと逆の鬼ごっこをする羽目になってしまった。


          ◆◆◆


「お疲れね」

 朝、顔を合わせて開口一番、舞子が言った。

「相変わらず鬼ごっこしてるの?」

 私はげんなりとした顔で、頷いた。

「体は大丈夫? また猛烈に眠いとかって、無いの?」

 舞子は心配そうに私の顔を覗き込んだ。私は首を振ると、

「今度は体が疲れるような事は無いんだけど……、頭がね」

「頭が、どうしたの?」

 頭が痛いのだ。長時間考え事をしたようにこめかみが脈打ってるような、ズキズキする痛みだ。頭がボンヤリするのではなく、逆に冴え渡っているような気がする。まぁ、私の頭じゃ冴え渡っても大したことはないけれど。

「なんだか、何かがわかりそうで判らない――そんな感じなの」

「何かって?」

「それがわからないのよ」

 もどかしい、という言葉が一番ぴったりする。――〝光の球〟は、何を私に告げたいのだろう?


          ◆◆◆


 そんなある日、急に目の前に現れたピンポン玉くらいの〝光の球〟を、つい反射的に手で叩き落してしまった。

 パチン!

 水風船が割れたような音がして、途端に小さい頃の事が目の前に浮かんだ。

 まだいじめなんて言葉も知らなかったころ、自分の周りが愛情と優しさと眩しい光でできていたころのことだ。誰もが好きで、誰にも好かれていると思っていた、未来はたくさんの可能性でできていると思っていたころだ。

『花生里ちゃんは、大きくなったら何になるの?』

 そう訊かれて、毎回違った答えを返していた。それほど未来は可能性の塊だった。

 今の私からは信じられないくらい前向きだった。

 それが少しづつ自分の力量がわかって、可能な事と不可能なことを知った。頑張ってもダメな事があると知った。諦める事が『大人に近づくこと』だと知った。

 〝光の球〟を叩き落とした手は、ジンジンと痺れてほんのりと光っていた。


          ◆◆◆


 ベッドで目覚めて、私は夢を反芻していた。

 何も知らない無垢なころの事を思い出すと、懐かしいというより寂しくなる。もう二度と戻る事ができない、『純粋』だったころ。いじめにあっていたころ、大好きなものがたくさんあった小さいころに戻りたいと何度思ったことだろう。

 あのころは周りを否定して憎んで、反発する事でしか自分をこの世に繋ぎとめて置けなかった。周りの意見を少しでも認める事は、自分の存在を否定する事だったから。私がこの世に必要ないと認めてしまう事だっだから。

 私は必要なんだと、ここにいてもいいんだと、誰かに言ってほしかった。誰も言ってくれないなら、せめて自分だけでも自分に言ってあげなくてはと、そう思っていた。いじめなんかに負けたくないと思う私と、抗い続けても無駄と諦めている私がいた。心の天秤は、いつでもゆらゆらと揺れていた――その片方を離さずに持っていてくれたのは、舞子だけだった。

 いつの間にか涙が流れていた。……ダメだなぁ、あのころの事を思い出すと、まだ平静でいられない。もう乗り越えた過去の事だから、いいかげん平気にならなくちゃダメなのに……。


「そんなの、無理よ」

 翌朝いつもの様に〝霧の夢〟の話をして、つい愚痴ってしまった私に舞子はそう言った。

「心の傷って言うのは、目に見えないけど深くて大きいと相場が決まってるのよ。五年や十年じゃ治らないわよ、治るまでに時間がかかるものなの」

「でも、しつこいって思われない?」

「それだけ傷が深いってことでしょ。現実に傷ついたことの無い奴等の言う事なんて、気にしなくていいの」

「そうかなぁ……」

「そうよ」

 舞子は断言した。

「それより、夢の話だけど」

 舞子は口調を変えて、

「〝光の球〟に触った途端、昔の事を思い出したって?」

「うん。小さい時の事が、目の前にぱっと浮かんだ」

「って事は、〝光の球〟って花生里の記憶?」

「さぁ……」

 私は首を傾げた。確かに記憶には違いないけれど、ただの記憶じゃない気がする。何かを告げようとしているのだろうか? それとも――

 何とも言えなかった。


          ◆◆◆


 それからも〝光の球〟は相も変わらず、私目がけて突っ込んでくる。私はそれを避けて、避けて、避けて――。何度も繰り返しているうちに、〝光の球”は直球一辺倒だったものが、変化球に進化して思わない方向へ曲がるようになった。それで時々避け損ねて、私にぶつかったり掠ったりしていく。

 触れる度にその場所が感電したみたいに痺れる。その強さは〝光の球〟の大きさに比例していた。ゴルフボールくらいの小さなものはその場所が少し痺れるほどだが、ハンドボールくらいの大きさになると一瞬呼吸が止まるほどの衝撃がある。だから大きな〝球〟が来た時は、本当に避けるのに必死になる。

 しかも触れた時に必ず、目の前に何かのシーンが浮かび上がる。これも〝球〟の大きさに比例していて、小さいのはほんの一瞬、それも大抵小さい頃のシーンで、大きくなると話している言葉まで聞こえる。

 何度か繰り返しているうちに、見えるシーンがなんなのか見当がつくようになった。


          ◆◆◆


「将来の夢?」

 舞子が驚いたように立ち止った。私は確信を持って頷いた。

 将来何になりたいか聞かれてる場面や、誰かに話して聞かせたり、真剣に考えたりしてる場面なのだ。

「……花生里の将来の夢って、私が知ってるだけでも十以上あるわね。お嫁さん、保育士、声楽家、漫画家、科学者……」

 舞子が指を折りながら言った。

「昔のはノーカウント! 中学校以降の分!」

「それでも三つ……四つ? 気にいるとすぐ、なりたいって言うから。結構浮気性だからね」

 舞子の指摘に、私は赤面した。確かに移り気ではあるけれど……。

「一番新しいのは……作家?」

「自分の世界を作りたい、って言ったの! 別に作家とは――」

「でも美術の成績は良くないから、画家もマンガ家も無理でしょ? 楽器が弾ける訳じゃないから、作曲家も難しいし。コンピュータは苦手だし数字とも仲が悪いから、ゲームデザイナーとかもキツイでしょ? 消去法でいくと、作家になるんじゃない? 国語の成績は良い方だから。でも、想像力はあったっけ?」

 舞子は遠慮なく私の可能性を切って捨てながら言って、考え込んだ。

 ふつう、ここまで他人に言われたら腹が立つものだけど、舞子の場合そんなふうに思った事はない。それは付き合いの長さもあるのだろうけれど、彼女が真剣に私の事を考えてくれているからだというのがわかっているからだ。

「まあ、何になりたいにしても、やってみない事にはできるかどうかわからないし、とりあえずやってみよう!」

 一つ頷いて、舞子が宣言して私の方を見た。

「やってみようって、舞子が決めるんじゃなくて私が決心するんだけど……。それに失敗する可能性もあるじゃない?」

 呆れて溜息交じりに言った私の言葉を、舞子はこれまたバッサリと切り捨てた。

「始める前から失敗する事を考えちゃ、一歩も進めないじゃない! 失敗してもいいじゃない、いくらでもやり直す時間があるんだもん。それに私は、花生里に発破かける決心をしたのよ。下手をすると花生里は、口先だけで全然動こうとしないでしょ?」

「……ごもっとも」

 胸を張って言われると、私には返す言葉が出てこなかった。

話が思う方向へ進んでくれません。自分の力量不足はわかってるんですが、いつ終わるんだろう?

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