表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
櫻、咲く、  作者: 鳥野
1/4

残り香、聞く、

ひゅー、はー、ひゅー、はー、


喉から風が、不規則な音がひっきりなしに出る。

身体中の血管が血液が流れる音が聞えてくるみたいだと思った。心臓の音、どっくんどっくんって、いっぱいいっぱい聞えてる。

その音に混じって、ずーっと、ずーっと、聞えている音があった。


それは声だ。

私、その声が、たぶん、だいすきだった、の――。


「……、大丈夫っ、だから、ね、大丈夫、だ……絶対に、ぼ、くが……」


目を開けると、必死な表情で(でも何故か顔わか、んない)誰かが私に言葉をくれていて。口からは涎がダラダラ出てて、私それが気になって、仕方なかった。涎たらしている自分をその声の子(そう、子供だ、と思う)に見せたくなかった。恥ずかしかった。


だから、涙がぽろぽろ出てきて。

恥ずかしいから。恥ずかしくてたまらないから。


あと、い、痛いから。お腹が、鋭く、火に近づいたみたいに痛かった。


「……、少し、痛い、かもしれない。ごめ、んね」


どうして謝るの?

いいよ、どうせ、もうさっきっから痛いもん。すっごくすっごく痛いもん。

私、笑ったんだと思う。

そうしたら、そうした、ら、その子も、笑った。


私それが嬉しくて、嬉しくて、痛くて頭おかしくなってたかもしれないけれど、嬉しくて、ずっと笑ってた。

すると、どんどんその子の顔が私の顔に近づいてきた。

でも、顔はやっぱりわからない。


ただ、香りが、した。桜、そうだ、これ桜の香り、だー。


その子の顔は、私の顔に近づいた、と思ったら、横、私の首あたりへとすー、、と寄った。お腹の痛さだけしか感じなかったのに、その瞬間、その子の髪の毛のさらさらとした感触を感じた。


と、思った途端――!


「ああああああああああああああああ!!!!!!!、!あっ!!!」


いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、


「暴れっ、ないっで!お願いだから!もう、少しだからっ!」

顔を上げたその子が懸命に私の肩を地面に縫い止め、必死で叫んでいた。暴れているのに、こんなに暴れているのに、その子の手はびくともせずに私を地面に縫い止め続けた。


首が燃えるようだった。お腹の痛さが火の痛さなら、その痛さはなんだろう?足が私の意思を無視して、ダン!ダン!と上下に動く、動き続ける。止められない。涎や涙はひっきりなしに出て。

なのに、その子は又私の首筋へと、その顔を近づけた。


又!


「だあああああ!!!、あっ!あっ!!!やっ!やっ!いやあああ!!」


やめて、お願いやめて、いたい、いたい、いたい、いたい、やめてっ!!


「ごめんね、ごめんね。痛いんだね。ごめん、でも、こうしないと、駄目なんだっ」


何度か首を振りながら叫びまくると、その子の汗が、それから涙が、私の頬にかかった。


「……ここまででも、だいじょ、ぶかも……。最後までは無理だ、ね。それでいいの、かもしれな……」


気がついた時、そこは真っ白な部屋だった。

清潔な匂い、白いカーテン、白い天井、白い大きなベッド。

首を横に向けると大きな窓があり、真っ暗な夜の中、そこには奇妙に大きな月があった。


ズキッとした痛みが首に走った。

首のあたりを触ると、何か違和感がある。鏡を探したけれど見あたらなかったし、ここがどこだかもわからなかった。病院、かなぁ。


窓の大きな月、最初は白くどこか黄色くみえた月が、赤く染まっていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ