残り香、聞く、
ひゅー、はー、ひゅー、はー、
喉から風が、不規則な音がひっきりなしに出る。
身体中の血管が血液が流れる音が聞えてくるみたいだと思った。心臓の音、どっくんどっくんって、いっぱいいっぱい聞えてる。
その音に混じって、ずーっと、ずーっと、聞えている音があった。
それは声だ。
私、その声が、たぶん、だいすきだった、の――。
「……、大丈夫っ、だから、ね、大丈夫、だ……絶対に、ぼ、くが……」
目を開けると、必死な表情で(でも何故か顔わか、んない)誰かが私に言葉をくれていて。口からは涎がダラダラ出てて、私それが気になって、仕方なかった。涎たらしている自分をその声の子(そう、子供だ、と思う)に見せたくなかった。恥ずかしかった。
だから、涙がぽろぽろ出てきて。
恥ずかしいから。恥ずかしくてたまらないから。
あと、い、痛いから。お腹が、鋭く、火に近づいたみたいに痛かった。
「……、少し、痛い、かもしれない。ごめ、んね」
どうして謝るの?
いいよ、どうせ、もうさっきっから痛いもん。すっごくすっごく痛いもん。
私、笑ったんだと思う。
そうしたら、そうした、ら、その子も、笑った。
私それが嬉しくて、嬉しくて、痛くて頭おかしくなってたかもしれないけれど、嬉しくて、ずっと笑ってた。
すると、どんどんその子の顔が私の顔に近づいてきた。
でも、顔はやっぱりわからない。
ただ、香りが、した。桜、そうだ、これ桜の香り、だー。
その子の顔は、私の顔に近づいた、と思ったら、横、私の首あたりへとすー、、と寄った。お腹の痛さだけしか感じなかったのに、その瞬間、その子の髪の毛のさらさらとした感触を感じた。
と、思った途端――!
「ああああああああああああああああ!!!!!!!、!あっ!!!」
いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、
「暴れっ、ないっで!お願いだから!もう、少しだからっ!」
顔を上げたその子が懸命に私の肩を地面に縫い止め、必死で叫んでいた。暴れているのに、こんなに暴れているのに、その子の手はびくともせずに私を地面に縫い止め続けた。
首が燃えるようだった。お腹の痛さが火の痛さなら、その痛さはなんだろう?足が私の意思を無視して、ダン!ダン!と上下に動く、動き続ける。止められない。涎や涙はひっきりなしに出て。
なのに、その子は又私の首筋へと、その顔を近づけた。
又!
「だあああああ!!!、あっ!あっ!!!やっ!やっ!いやあああ!!」
やめて、お願いやめて、いたい、いたい、いたい、いたい、やめてっ!!
「ごめんね、ごめんね。痛いんだね。ごめん、でも、こうしないと、駄目なんだっ」
何度か首を振りながら叫びまくると、その子の汗が、それから涙が、私の頬にかかった。
「……ここまででも、だいじょ、ぶかも……。最後までは無理だ、ね。それでいいの、かもしれな……」
気がついた時、そこは真っ白な部屋だった。
清潔な匂い、白いカーテン、白い天井、白い大きなベッド。
首を横に向けると大きな窓があり、真っ暗な夜の中、そこには奇妙に大きな月があった。
ズキッとした痛みが首に走った。
首のあたりを触ると、何か違和感がある。鏡を探したけれど見あたらなかったし、ここがどこだかもわからなかった。病院、かなぁ。
窓の大きな月、最初は白くどこか黄色くみえた月が、赤く染まっていた。