たった一話の男の生涯。
一瞬の邂逅だった彼に捧ぐ。
俺の腐った人生、どうせろくな最後を迎えやしねえと思っていた。
事実、ろくな最後じゃなかったが
最後に見たものはまあまあだったんじゃねえかなと思っている。
俺の親はいわゆる娼婦というやつで、親父は何処のやつかも知れねえ男だった。
場末の娼婦が客を選べるわけもねえ。
お袋にも親父が誰かなんて検討もつかなかったんじゃないかな。
そんなガキなんて始末しちまえば良かったのに、何を考えたんだか、お袋は俺を生んだ。
お袋は周りの姉さんたちから言わせれば、少しオツムの足りない女だったらしい。
物静かで、笑うか、静かに泣くかのどっちかだったと聞いている。
ガキをこさえたからといって休めるはずもねえ。
子育てと、娼婦の両立なんて無理なことを続けたおふくろは、俺が4つになるかならねえか位に、早々と身体を壊して、あっという間に逝っちまった。
一介の娼婦が、それも場末の娼婦が、病気になったからといって医者に見せる金なんかあるわきゃねえし、見てくれる医者もいねえ。
世の中ってのは弱いモンから死ぬようにに出来てんだよ。
後はいうまでもねえだろ。
想像通りの転落人生さ。
まあ、一度は上を夢見たこともあったが、夢は夢だった。
蛆虫は所詮蛆虫。
蝶にはなれねえのよ。
好いた女も居たが、まともな環境じゃねえ。
いつの間にか姿を消していた。
それを恨むこともねえし、追う事もねえ。
諦めることには慣れている。
そうやってその日暮らしをしてたある日、やばそうな仕事を持ち込んだやつが居た。
ゲインなんて名乗っていたがどうせ偽名だろう。
こんなところに来るやつが、まともに名乗るはずもねえ。
やばい仕事だっつーのはすぐにわかった。
だが、一つ返事で受けた。
惜しむ命でもねえし、何より報酬が良かったんだ。
成功したらもっけもの。
その日のうちに、山賊風に偽装し、馬を駆り、山を目指した。
俺達はみんなそこが初対面のごろつきの集まり。
だが中に4人ほど、違うやつが居た。
そう繕っても、上品さは抜けねえし、生来の野蛮さは表現できるはずも無い。
まあ、御貴族様独特の俺らを汚いものでも見るかのような見下しようだった。
反吐がでるぜ。
ただ、貴族に生まれただけで何が偉いんだ。
お高く留まってんじゃねえっての。
俺以外に気づくやつも居なかったんだろう。
俺も報酬さえもらえるなら、後でぶん殴れば良いかと、見逃した。
結局のところ、思ったとおりのやばい仕事で、勝てる見込みどころか、相手の力をそぐだけの捨て駒だったんだろう俺達は。
やたら滅多ら鍛えられた騎士たちに、束になろうともたかがごろつきの俺達は相手にならなかった。
土砂降りの雨の中、暗闇で、馬鹿みてえに松明を持った俺達は相手から丸見えだっただろう。
数じゃあ勝っていたのに、結局のところ誰一人倒すことは出来なかった。
次々とやられていく中、俺の剣も遂に折れちまいやがんの。
己の不利を悟った俺は一目散に尻尾巻いて逃げることにした。
義理も何もねえ。御貴族様達はとっくの昔に姿を消していた。
脇に見えた繁みに向って、必死こいて逃げる。
折れた剣だけだが、逃げるだけならこれでよかった。
だが、やっぱり世の中って言うのは弱いモンから死んでいくように出来てんだろうな。
あっという間に追いつかれて、俺の首は高く飛んだ。
一瞬の出来事で、痛みを感じなかったのが幸いかな。
俺が最後に見たのは、驚いたような女の顔。
最後に抱いてもらったのもその女の膝。
何でそこに居たんだか分からねえが、無事で居てくれたら良いと思うよ。
くだらねえ人生、良いことなんて数えるほどだった俺の最後。
誰かに抱いてもらえたなんて、ぬくもりの中で一人じゃなかったなんて。
結構良い人生の終わり方だったんじゃねえの?
名も知らないお嬢さん、ありがとな。
最後に神様。
もし居るのなら、次はもっとまともな人間になれますように。
お袋の支えになれますように。
くそったれな人生にさようならだ。
幕間や、行間で亡くなった人が居て、そういうものを書いている自分がいやになるんですが、どうしても必要だったので。
せめて、彼の生涯の話を。