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サザヴィ・モントラの話

前回に引き続き、隊の中の一人の話です。



サザヴィ・モントラ。27歳。

男。

ちなみに独身。


13歳で騎士団に入隊し、17で騎士を叙任された。


王都ではそこそこ大きな商人の次男だったが、次男では家督は継げないし、兄貴の補助となるのも悔しくて、反抗期ついでに家を飛び出した。

恥ずかしい話だがあの頃の俺は青かった。

近所のガキ大将ごときで強さに自信を持っていた。

まあ、入隊後すぐにその伸びきった鼻はへし折られることになったけれど。


騎士団はぶっちゃけ二通りに別れている。

親の一存で取り合えずいるプライドだけ高いお坊ちゃまと、

プロ意識を持って自分を切磋琢磨している奴とに。


俺の入隊目的ははっきり言って『なんとなく』だ。

さっきも言ったけど、親への反発が一番強かったかもしれない。

兄貴ほど期待されずに見守られるだけだった自分の境遇に対しての。

兄貴は兄貴で言い分があっただろう。

それこそ小さな頃から将来のためにと、習い事の数々。

俺のように近所のガキと転げまわる時間さえなかった。


そこで、上手いこと息抜きに娼館に繰り出すとか何とかできたらよかったんだろうけど、兄貴はくそ真面目で、なおかつ自分に期待されるものを判りすぎるくらいに理解していたから。

ストイック・・・ってやつ。

自分の進む道に対して一心不乱に、また明言実行な姿は・・・はっきり言って格好良かった。

兄貴言ったことは無いけどな。(恥ずかし過ぎるし)


俺はといえば、自由だった。

何をしても怒られず、ニコニコと見守られる。

まあ、道を踏み外し切れなかった俺のせいもあるかもしれないが。

(だって、自分の正義は捨てられないだろ。)


そんなこんなで放任主義とも取れる育ち方だった。

はっきり言えば、寂しかったのだと思う。

俺だって期待されたかったし、期待に応えたかった。


だが、親の期待は全て兄貴のもので、俺のものじゃなかった。


甘えるなって言われるのかもしれない。


何一つ不自由などしたことは無く、ある程度だったが好き放題やらせてもらえたから。


だけど、そんなの俺は望んでいなかったんだよ。




入団後、上下関係や訓練の厳しさに何度か逃げたいと思ったことがある。

何で、こんなとこに来たんだろうと後悔もした。

(・・・一度だけ逃げ出したこともある)


だけど、ここでは俺は必要とされてた。


俺の付いていた騎士は厳しくて有名なおっさん(今はもういない)だった。

口では『役立たず』だの、『やめて家に帰れ』だの散々言われてたが、影で他の騎士に『あいつは決して諦めない根性のある奴だ。見込みがある。俺が立派な騎士にしてみせる』って言ってくれていたの俺は知ってるんだぜ。

あまりのしごきの酷さに、尻尾巻いて逃げだそうとして、馬屋向かってた時偶然聞いたんだけどな。


───────涙が出たよ。

自分が期待されてること、認めてもらっていることに。

しっかり俺のことを見てもらえることに。


嬉しかった。


この日から、俺は訓練が楽しくてしょうがなかった。

やればやるだけ強くなれる。

もちろん急に強くなるわけじゃない、一つ一つ積み重ねた結果だ。

だが真摯に向き合ってもらえる、鍛えてもらえる、期待され、それに応えることが出来る。

これほど俺の望んでいたことは他に無かった。

幸い騎士の素質はあったらしいし。



おっさんは俺が19のときに死んだ。



国境の小競り合いに派遣されていたときだった。



俺の親は今も元気にやってる。

だけど、おっさん・・・いやゲディアントは俺にとって親に等しい存在だった。

その頃もう騎士だったけど、訃報を聞いて馬小屋で泣いた。

いつ以来だろう。

もう何年も泣くことなんて無かったのに。

不穏な空気漂うこの国で、人が死ぬなんて珍しくないのに。

もう、子供じゃないのに・・・・



おっさんには妻と、エアリーデがいた。

娘は俺より三つしたの24歳。

おっさんに良く似た豪快というか、さっぱりとした性格の、ここもちしっかりとした体格(ごついなんていうと殺される)の子だ。

おっさんの訃報後、遺品を届けに行ったときはじめて顔を見て、話をした。

今まで、さんざっぱら自慢話を聞いていた俺は『話しと違うじゃねえか』と思わないでもなかったが、話せば話すほどその印象を変えた。

おっさんの言うとおり、いい娘だった。

訃報にくず折れる母を支え、前を向く芯の通った奴だった。


出会ってから1ヶ月後に交際を申し込み、今度の俺の出征が終わったら結婚を申し込もうと思っている。



大事な人のために戦い、大事な人が待つところへ帰る。


それってすごい幸せじゃねえ?



9割がたは上手く行くと自信を持っているしな。





だから、俺が妙齢の女性に服をひん剥かれて逃げ惑ったなんてことは一生の秘密だ。

あちらさんは引きつって拒否する俺に不思議そうな顔を浮かべていたが、家族でもない女が男の身体を見るなんて、娼婦でもない限り無いんだよ。

たとえ怪我人でもな。

(結局彼女はフォルさんに俺らを抑えさせ、身体拭きを強行した強者つわものだった)

確かに、拭いてもらったあとはすっきりしたけれど。



今俺は、行軍、帰還の途中だ。


王都まではまだ遠いし、馬鹿な敵の多い殿下のこと、何も無く無事にとはいかないだろう。


だが絶対に君の元に帰りつくから。


結婚を申し込むため跪くから。


待っていてくれ。







後日・・・。


彼は知る良しも無い。

怪我の治療中に乗り込んできた彼女から『あなたには私が必要よ!!』と、他の騎士の前でプロポーズされてしまうことを。

そして、その後の生涯を尻に引かれて過ごすことを。




それは暗い戦争の片隅で起こる、平凡で幸せな生涯の話。








お気に入り登録、評価ありがとうございました。

とても嬉しかったです。


今後も、読んでいただけるよう精進したいと思います。


               かりんとう

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