表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/36

第三十六話 海の魔族

海が嗤った。

 

『見つけたぞ。』

 

低く、濁った声。

その瞬間空気が変わる。

 

重く、肺に絡みつくような圧。

足元の石畳が沈む感覚。

 

「魔力領域か...。」

 

俺は小さく呟いた。 

となるとこの魔族は想定よりも強力な魔族のようだ。


『海はのう、ワシの庭じゃ』

 

声と同時に、触手が動いた。

 

来る。

 

「散れ!」

 

ウェインの声が飛ぶ。

次の瞬間。

 

叩きつけ、薙ぎ払い、突き上げ。

三方向から同時攻撃。

 

「ちっ…!」

 

ウェインが跳ぶ。

柱を蹴り屋根へ、そこから空中で姿勢を変える。

 

双剣が閃く。

鋭い斬撃。

 

だが、浅い。

表面を傷つける程度だ。


「さっきより硬いっ…!」

「強化されてる。」

 

俺は触手の内部に踏み出した。

魔力の流れが変わっている。 


先程のように均一じゃない。

動きに合わせて魔力の厚みを変えているようだ。

 

『小僧、()()()のか。』

 

くぐもった声が聞こえる。

 

『ならば、足掻いてみせい。』

 

圧がさらに増した。

 

「っ…!」

 

アリアの結界が軋むのが見える。

 

(みなと)さん、長くは持ちません!」

「分かってる。」

 

俺は息を吐く。

 

「ウェイン!」

「なんだ!」

「ただ斬るな。通る場所を作る。」

 

一瞬の沈黙。

だが、すぐに返ってくる。

 

「分かった!」

 

いい反応だ。

俺は触手へ踏み込む。

 

真正面から。

避ける必要はない。

 

迫る巨影に拳を振るうが、当てない。  

指先で触れるのみ。

 

「…ここだ。」

 

魔力を流し込む。

流れを読む。

 

そして、逆流させ乱す。

一瞬、触手の内部構造がズレた感覚。

 

「ウェイン!」

「任せろ!」


飛び退きながら声をかけると、直ぐ側で声が聞こえた。 

その声に迷いはない。

 

踏み込み、加速。 

双剣が閃く。

 

今度は通った。

深く、確実に斬撃の跡を残す。

 

触手が大きく痙攣した。

 

「よしっ!」

 

ウェインが歓喜の声を出す。 

だが次の瞬間、別の触手が横から迫る。

 

『甘いのう。』

 

先程よりも速い。

だが。

 

「遅いよ。」

 

俺が割り込み拳で弾く。

大きな衝撃。

 

だが押し切れる。

その間にウェインが距離を取る。

 

「アリア!」

「はい!」

「同じ箇所、見えるかい?」

「把握しました!」

 

光が収束する。

精密な魔法。

 

一点射抜き。

俺が歪めた流れを狙い、正確に撃ち込む。

 

見事に命中。

触手が明確に弱る。

 

「効いてる…!」

 

悠里(ゆうり)の喜びの声。

だが、その瞬間。

 

海が揺れた。

 

『小癪な…。』

 

声に苛立ちが混じる。

触手が枝分かれし、動きが変わった。

 

多く、早い。

 

「急に増えたな…!」

 

ウェインが舌打ちする。

港全体を覆うように広がる触手群。

 

「湊さん!」

「分かってる。」

 

俺は海を見る。

群れの中心。

 

魔力の出所。

あそこだ。

 

だが遠い。

このままじゃ届かない。

 

その時だった。

 

「…やめて。」

 

小さな声。

悠里だった。

 

その瞬間。

世界が止まる感覚。

 

触手の動きが一瞬だけ鈍る。

空気が揺れた。

 

奴の圧が歪む。

 

『…ほう?』

 

声が変わる。 

興味を持ったかのような声色に。

 

『それは…なんじゃ?』

 

悠里を見ている。

悠里は無意識のまま前を見ていた。

 

その周囲には淡い光。

 

「これ…なに?」

 

本人も分かっていない様子。

だが、確実に干渉している。

 

俺は笑った。

 

「十分だ。ウェイン!」

「ああ!」

 

言葉は不要だった。

 

「アリア!」

「はい!」

 

三人の動きが噛み合う。

 

「俺が引き摺り出す!」

 

俺は地面を蹴る。

一気に踏み込み海へ。

 

海面を蹴り群の中心へ。

 

『させるか!』

 

魔族の声。

触手が一斉に襲う。

 

群れが俺を迎撃しようと立ちはだかる。

だが。

 

「遅い。」

 

悠里の揺らがされたその一瞬の隙。

おかげで全部見えている。


すり抜ける、避ける、踏み込つける。 

ただひたすら中心へ。

 

「ここだろ。」

 

群の中心にある大きな貝。

魔族の本体へ手を伸ばす。


「分かりやすくて助かるよ。」

 

魔力の塊。

歪んだ支配の源。

 

「壊す。」

 

拳を叩き込むと砕けた。

その中で光る、暗く青い結晶が見えた。

 

『…なっ!?』

 

初めての動揺。

その瞬間。

 

触手の動きが完全に乱れた。

俺は結晶を掴み、岸に向かって投げる。 


触手や魔獣がそれを追いかけようと動くが間に合わない。


「ウェイン!!」

「任せろ!!」

 

一直線に飛ぶ。

迷いなく。


核の結晶へ。

双剣を構える。

 

「これで、終わりだ!!」

 

交差斬り。

二本の刃が核を断ち切る。

 

一瞬の静寂。

 

そして爆ぜた。

水が、魔力が四散する。

 

触手が力なく崩れる。

海魔獣が撤退しているのか、海が大きく揺れた。

 

『ば…かな……。』

 

声が崩れる。

 

『海の支配者であるこの…ワシが…。』

 

濁った光が揺れる。

消えかけている。

 

『人間如きに…負けるだとっ…!』

 

悔恨。

そして——

 

『あの時…ワシがおれば…人間なんぞ!』

 

最後の断末魔。

完全に消えたようだ。

 

海が静まる。 

触手も、影も、何もかも。

 

ただの水面へ戻っていく。 

静寂。

 

そして——

 

「…終わった、のか?」

 

誰かの呟き。

ウェインがその場に着地する。

 

荒い息。

だが、笑っていた。

 

「…ああ。」

 

空を見上げる。

 

「終わりだ。」

 

港にざわめきが戻、やがて歓声が上がる。

人々が生きている事を実感する声。

 

悠里が駆け寄ってくる。

 

「お兄ちゃん!すごかったね!」

「まあね。」

「お前いつの間に戻ってたんだよ!」


軽く肩をすくめる。

アリアも静かに微笑み言う。

 

「見事な連携でした。」

 

ウェインがこちらを見る。

少しだけ呆れた顔。

 

そして笑う。

 

「観光客、な。」

「ああ、そうさ。」

「嘘つけ。…でも、助かった。」

 

だがその目は、出会った頃とは違っていた。

認めてくれているみたいだ。

 

俺は海を見た。

もう、何もない。


海魔獣の気配も。 

だが。

 

「…悠里。」

「なに?」

「さっきの、覚えてるかい?」

 

悠里は首を傾げた。

 

「ううん。なんか、変な感じしたけど。」

 

やっぱりか。

俺は小さく息を吐いた。

 

「まあいいか。」

 

港町セレン。

海は静まり。

 

街は救われた。

港町は歓声に包まれ、誰もが勝利に酔いしれている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ