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第三十二話 不審な船

市場を出ると潮の匂いが更に強くなった。

港の風だ。


悠里(ゆうり)はまだまだ元気だ。

あり余ってると言ってもいい。


「次はどこ行く?」


俺は周囲を見渡す。

港町セレンは広い。


市場だけでもかなりの規模だったが、それ以外にもまだ沢山ある。

造船所、倉庫街、船乗り達の酒場。


そして一面に広がる海。


「港をもう少し見てみようか。」


そう言うと悠里は嬉しそうに頷いた。


「行こ!」


俺達は港の方へ歩いていく。

途中、船を作っている場所が見えた。


大きな骨組みの木造船。

職人達が木材を運び、釘を打っている。


その風景に悠里が感心した声を出す。


「へー、船ってこんな風に造るんだ。」

「港町ですから。造船業も盛んなんですね。」


悠里とアリアが互いの感想を言う。

悠里は少し考える素振りを見せてから言った。


「ウェインも船で来たのかな。」

「傭兵だって言ってたしね。」


商隊の護衛なら船で来ていても不思議じゃない。

そんな話をしていると港の方が妙に騒がしい事に気付いた。


人が集まっている。

ざわざわと声が広がっていた。


悠里が首を伸ばす。

案の定興味を引かれたらしい。


「なんだろ。」

「何かイベントでしょうか?」


俺達も近づく。

岸壁の近くに人だかりができていた。


商人らしい男達、船乗り、港の作業員。

みんな海の方を見ている。


悠里が人の隙間から覗き込む。


「…船?」


海の上に一隻の船があった。

中型の商船だ。


帆は半分破れている。

ゆっくりと港へ流れてきていた。


港の作業員が叫ぶ。


「ロープ持ってこい!」


数人の船乗りの恰好をした男達が岸壁に走る。

やがて船は岸近くに引き寄せられた。


数人がボートで近づき船上へ上がり、縄梯子が降ろされる。

そこを別の船乗り数人が登る。


少しして船上から声が上がった。


「…誰もいない!」


その言葉に、集まった人達にざわめきが広がる。


「どういう事だ?」

「乗組員は?」


船乗りが船の上からまた叫ぶ。


「荷物はそのままだ!」


商人達が顔を見合わせる。

悠里が疑問の声を発した。


「人がいない?」


俺は船を見上げる。

確かに妙だ。


船は戻ってきている。

だが入って行った人以外の気配を感じられない。


港の男達が次々と船へ乗り込んでいく。

少しして一人が降りてきた。


困惑した顔をしている。


「戦ったような跡がねえ。」

「血の跡もないし、荷物が荒らされた跡も無い。」

「だが人だけいねえ。」


その言葉を聞いた瞬間、港の空気が変わった。

ざわついていた民衆は静まり、船乗り達も困惑した顔で黙り込んでしまった。


アリアが静かに言う。


「妙ですね。」


俺も頷く。

確かに妙だ。


彼等が言っている事が本当なら事故ではない、第三者による襲撃でもない。

それなのに人だけがいない。


その時だった。

背後から声がした。


「…やっぱりか。」


聞き覚えのある声がきこえて振り返る。

そこには先程別れたばかりのウェインが立っていた。


腕を組み、船を見ている。

悠里が手を振り声を掛ける。


「ウェイン!」


ウェインがこちらを見る。

少し驚いた顔をした。


「お前らか。」


悠里が聞く。


「知ってる船?」


ウェインは短く答えた。


「いや、だが似た話を聞いてる。」


そして港の方を見る。

真剣な目だ。


「最近、船が帰ってこない事があるらしい。」


町中でも聞いた話だ。

ウェインは続ける。


「でも今回みたいに船だけ戻ってきたのは初めてだ。」


俺は岸壁から船を観察する。

船体、帆、マストそして側面。


何かが引っかかる。


「…ん?」


悠里が俺の横に来る。


「どうしたの?」


俺は船の横を指差す。


「あれ、見えるかい?」


悠里が目を細める。


「…傷?」


船の側面にこすった様な跡があった。

木材が抉れている。


爪の跡のようにも見える。

ウェインもそれを見ると眉をひそめた。


「…海魔獣か?」


俺は首を振る。


「いや違う気がする。」


海魔獣ならもっと暴れてこの程度の痕跡では済まない。

ところがこの船はほとんど壊れていない。


傷は側面のあの一か所だけ。

アリアが低く言う。


「これは…。」


ウェインが疑問を呈する。


「なんだ?」


アリアは船を見つめたまま答えた。


「巨大な生物の痕跡に見えます。」


ウェインの目が細くなる。


「…どれくらいだ。」


アリアは少し考えてから言った。


「予測でしか無いですが…。船より大きい可能性があります。」

「海ってそんな大きいのいるの?」


悠里のその質問に誰も答えなかった。


その時。

港にある見張り台の男が叫んだ。


「おい!」


港の人達が振り向き彼に目を向ける。

男は海を指差していた。


「船だ!」


遠くの海。

霧の向こうからもう一隻の船が流れてくる。


だが、明らかに様子がおかしかった。

船体が大きく壊れ、まともに航行できていない。


帆は引き裂かれ、マストが半分折れている。

港の空気が凍る。


船がゆっくりと港に近づく。

そして誰かが言葉を発した。


「…なんだあれ。」


船のマスト。

そこに黒い何かが絡みついた痕跡があった。


太く長い。

まるで触手のような。


それを見たウェインが小さな声で呟く。


「…嘘だろ。」


港町セレンの海。

この海域に何かがいる。


それもとんでもない大きさの何か。


「何だか厄介事の匂いがするね。アリア、この魔力の感じ分かるかい?」

「ええ、最近も似た魔力を見たばかりです。」


先の船には薄く、後の船にははっきりと。

魔族特有の魔力の痕跡が残っていた。

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